魔王で勇者


 僕は「機関」に戻らず、直接「夜明の窓辺」に向かった。

 聖都ウトリー内の商会や商店で聖剣製作に必要なものを確認し、パルムから連れてきた側仕えたちの様子も見たいと言う僕に、誰も逆らえなかった。


 自室にラドたちを集めると、今後の計画について話した。


「ルキフェの『狂乱』とその対策については答えが出た。後は検証を残すだけだ」

「はい、『世界の守り手』ですね」

「検証には陸路で魔王国に入る必要がある」

「……『機関』の地下には魔王城への通路があるのでは?」

「うん、そうだけど……僕が通路を使って、もし魔王城で『狂乱』いや『変異』を起こしては全てが無駄になる。そんな危険は冒せない」

「はい」


「次。僕が魔王城に入った時に魔力の増減が感知されるか、聖教会で警報が鳴るかの確認をしたい。鳴らなければ、無理に鳴らすんだけどね。魔王討伐軍を編成させて、魔王国に進軍させたい」

「……それは必要なのですか?」

「ああ、必要なんだ。ルキフェの復活は『世界の守り手』でなんとかなりそうだけど。問題はその後だよ。ルキフェ復活の後。新生魔王国として、世界に出るには国としての力が足りない」

「国の力が……」

「そのための方策をいくつか考えてる。まあ、魔王国の現状を調べないといけないけどね」

 

「最後の計画はこれ。魔王が嫌悪され、魔王国が敵視されていては、世界に交わって幸せにはなれない。魔王と勇者のからくりを公表して、聖教会こそが、世界の敵であることを知らしめる」

「聖教会が世界の敵」

「うん。聖都ウトリーでやり残したことは、エウスタキオ主座に世界の敵であることを自白させることだけだ。自白しなければでっち上げるけどね、聖教会のように」


「エルク様。……なにかその……変な感じです。エルク様は魔王で、勇者で」

「そうだねぇー。自分で自分を討伐するなんてね。……聖都ウトリーでの情報局の優先順位はエウスタキオ主座の監視になる。クレマ司祭と他の司教もね。ラドは僕と一緒に魔王国に向かってもらう。残りの者で監視を頼むよ。連絡役に竜族を呼び寄せるからね」

「はい」




 次の日に、聖教会にエウスタキオ主座を尋ねるとの先触れを出す。「機関」からの馬車で聖都ウトリーの北側の丘、聖教会に向かった。


 丘の中腹には聖教会の建物が数多く建てられ、白い街といった感じだった。遺跡も白い壁の間に点在している。


 馬車は坂道を上り、丘の頂上のひときわ大きな建物に入った。白ローブたちが僕を出迎え、玉座の間のような所を過ぎ、執務室に案内される。




「勇者エルク様、ようこそお越しくださいました」

「こんにちは、エウスタキオ主座」


 エウスタキオ主座に席を勧められ、お茶を供されると、聖剣製作に必要になる材料の一覧を渡した。


「で、この一覧には無いんだけどね、ぜひ使いたい鉱物があるんだ。それが使えればさらに威力を上げられる」

「ほう」

「それがねー、どこで採掘できるのか情報が少ないんだ。『ウーツ』と言われる鉱物らしいんだけど、知らない?」

「『ウーツ』ですか。あいにくと。お待ちを」


 エウスタキオ主座は、白ローブに「ウーツ鉱」を調べるように命じた。



「太古種の資料だと、辺境大山脈あたりで採鉱されてたらしいんだよね」

「太古種の資料……そのような物をどこで……」

「あれ? 僕の事、調べたでしょ? 孤児でノルフェ王国の森で魔術師に育てられたって」

「それは存じていますが。それと太古種とどのような関係があるのでしょう?」

「その魔術師の師匠ね、どうも太古種の研究をしていたらしいんだ。学院に行って初めて知ったけど。僕が師匠から教わったことは、学院にはなんの資料も、本もないんだ。僕は太古語が理解できるからいろいろ調べてみたんだけど、知識を検証するための資料がなかったんだ」

「……太古語を……理解できる? い、いま、どこにもそのようなことができる者はおりません」

「うん、そうみたいなんだよねー。ああ、じゃあ誰も知らないのかな? ここの遺跡って呼ばれてるもの、その目的。太古種が世界を観測して、実験に使っていたものだって。この丘と『機関』の地下には巨大な動力炉、そうだね鍛冶屋の炉のでっかいのがあって、まだ動いてるって知ってた?」

「ど、どう、りょくろ? ……い、いいえ」

「でさ、肝心要の燃料を、聖剣として使っちゃったでしょ? もういつ止まってもおかしくないかも。そうするとね、ここで使ってる太古種の魔道具が全部止まって、使えなくなっちゃうと思うんだ」

「……」


「面白そうだから、魔王が復活する前に、通路を使って魔王城に行ってみたいんだけど、それも無理になっちゃうかもね。あ、ここと繋がってる魔王城の魔道具も止まるからね」

「……通路が使えなくなる……魔王城の魔道具も……」

「そうなんだよ。でもね、僕がいるからね。色々調べれば、大丈夫だよ。いちばん大事なのは何を燃料にしてるかだね。核融合ってわけじゃないだろうし」

「か、かくゆう、ごう? それが、その燃料がわかれば、動き続けるのですね?」

「たぶんねー。聖教会に太古種の資料があれば調べようもあるんだけど……」

「ええ、あります。どうか、ご自由にお調べください!」

「そお? じゃあ調べてみるね。んー、ね、ね、そもそもの資料ってないかな? 魔王と勇者のそもそも。あれを聖剣に使うことを考えた人の資料があればなにかわかるかも。誰が考えついたの?」

「……始まりの主座、初代主座のセロ様です」

「へぇー、セロ様ねー。その人、何考えてたのかなぁ。あれを聖剣として使うのなら……。その人について教えてよ。その人が何を考え、どうして聖剣にしたかとか、通路とか、魔王城とか。どこかに、重要な手がかりがあるかも」

「かしこまりました。……事の始まりは、初代主座セロ様が……」 

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