ジェセとペペ


 聖教会の者たちを施設の外に連れ出し、馬は後で人里の近くで放すことにした。


 僕は土魔法で穴を掘り、その土で施設全体を覆った。その塚を錬成魔法で六方晶金剛石よりも硬化させた。

 そこに一枚の石碑を作り墓標とし、こう刻んだ。


『愚かな考えの犠牲になった人々が、ここに眠る。願わくは安らかな休息と良き転生を』



 塚を作るために土を掘り出した後の広く深い穴、その内部を錬成魔法で鏡のように磨き上げた。

 タルタデ司祭以下全員の衣服を剥ぎ取り、手足の骨を全て折って、重力魔法で底に下ろした。下ろした後で透明な結晶の蓋を錬成する。



『ここを見て悲しむな。ここは愚かで無残な行いをした者たちが、報いの罰を受ける牢獄。彼らが心善きものとして転生することを願う』


 石碑を作り、下の者たちに声をかけた。


「そこで朽ちるといい。蓋は水と空気を通すようにつくられている。運が良ければ雨が降り、溺れなければ水が得られるかもしれない。腹が空いたなら、自分の隣りを見るといい」


 骨折の苦痛に身悶えし、怨嗟の声を上げる聖教会の者たちを残して、僕は次の施設に向かった。



 ロークス王国の施設も深い森の中にあり、狂熊が集められていた。

 魔石は異常な魔石になりかけていた。

 資料によると、最初に少量魔力濃縮液を与えることで、魔石が変化し始める。さらに魔力濃縮液を与え続けると、急激な魔力増加で異常な魔石となり、肉体も異常活性化する。


 全ての狂熊の転生を祈り、光の矢で絶命させた。

 土魔法と錬成魔法で塚を作り、聖教会の者たちはペルワルナ王国と同じ様に、壁を鏡面にした穴の底に残した。



 フラゼッタ王国の施設には狂穴熊が集められていた。全ての狂穴熊の転生を祈り、ロークス王国同様の処置をして、聖都ウトリーに戻った。



「エルク様、お顔の色が優れません。何がありました?」

「……ラド、話は明日に。……今は……眠りたい」




 翌朝、僕は食堂でジェセたちを眺めていた。

 にぎやかに笑う五人の子どもたち。

 朝食は、粥が美味しくなっていた。肉団子や野菜が入ったスープも出され、卵料理も付けられている。蜂蜜や果物などの甘い食べ物も出ている。


 にぎやかな子どもたちの中で、ジェセは、かいがいしくペペの世話を焼いている。

 心が和む風景を見ていると、ジェセがこちらを見て微笑んだ。


「エルクがクレマ司祭にお願いしてくれたって聞いたんだ。ありがとう、エルク」

「ん? なんのこと?」

「ご飯。エルクがいってた美味しいってもの。食べさせてもらえるのは、エルクがクレマ司祭にお願いしたからって……」

「ああ。それはね、クレマ司祭が優しいからだよ」

「……怖い人だったのが、変わってきた……」

「うん、みんなが、美味しものが食べられるようにって。優しくなったね」


「……ほら、ペペ、これも甘くて美味しいよ」


 ジェセがペペに蜂蜜をかけたイチジクに似た果物を食べさせ、口からたれた蜂蜜を指で拭き取り自分でなめる。ペペは、ジェセに屈託のない笑みを見せた。

 笑いあう二人を見て、僕は助けられなかった獣人の子どもを、悲しく思い出した。




 朝食の後で、ラドに施設壊滅の報告をし、聖都ウトリーでの情報局の報告を受けた。

 聖教会にかなり入り込めてきたのは、引き込んだクレマ司祭の影響が大きかった。

 さらにエウスタキオ主座と主座会議について探るように伝える。クレマ司祭からの情報以外にも、検証用の情報が欲しかった。


 僕とラドは、クレマ司祭の執務室で今後の計画についての会議を行なった。


「今まで作った新聖剣三本のお披露目はクアトゥロ司教の施設で、魔物を使って行おうと思う。エウスタキオ主座にも出席してもらう。魔物はかわいそうだが。それで施設にある危ない物も排除しようと……なにっ!」


 僕は大声を上げて、立ち上がる。


「エルク様! どうしました?」

「魔石だ! 異常だ!」


 僕は執務室を飛び出して、子どもたちの訓練室に向かった。


 訓練室の扉を蹴破り、中に駆け込んだ。



「ああああああー!」

「ペペ! ああー! ペペ!」


 そこには、握った小聖剣を白く光らせて、ジェセとペペが抱き合っていた。

 二人の足元に黒い首飾りが二つ落ちている。

 二人の身体は変形しはじめ、融合さえしているようだった。


「ジェセ! ペペ!」


 僕は小聖剣を防壁で包み、二人に駆け寄った。


「あああー!」

「ああー!」


 大きく声を上げる二人から魔力を吸い出すが、やはり魔力が尽きない。


「カトルセ助祭! なぜ、おまえがここにいる!」


 クレマ司祭が壁際にいる男に飛びかかった。


 僕に気づいたジェセが声をかけてくる。


「……エルク……みて……ペペは聖剣を……勇者よ……私も……勇者なの……」


 僕は二人から小聖剣を取り上げて、さらに魔力を吸収するが、二人の融合は止まらずに、大きな肉塊になっていく。

 その中にジェセとペペの顔がまだ残り、声を出した。


「……もうこれで……幸せになれる……勇者に……幸せに……」


 僕は二人を見つめることしか出来なかった。


「ペペ……ペペ……ペペとあたし……一緒になる……もう……ずっとずっと一緒だから……」

「……お……おねえちゃん……」


 僕は手に持った小聖剣を見つめ、投げ捨てた。

 右脇の剣を抜いて白く光らせ、そっと、ジェセとペペに触れる。


 ……二人の粒子……結合を解いて……。


 抱き合った二人は光る細かな粒子になっていった。


「良き転生を……二人で幸せに暮らせる良き転生を……ごめん……」


 二人は僕を見たあと、お互いに顔を向けて、笑顔のまま、消えていった。 

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