介入します
屋敷に戻り報告書を情報部に提出した。
司教の部屋で見つけた、数軒分の屋敷の購入資料の分析を優先させた。そのどこかに、始末されてしまう子どもたちがいる可能性が高かった。
囚われている子どもの捜索と救助をするよう指示をだす。
全ては無理でも、救えるのなら救いたい。出来るのに、しないわけにはいかない。
指示をもう一件。
聖教会の下働きに犬の様子を監視させ、始末されてしまうようなら、こちらで引き取るように指示を出しておく。
もう、警備犬としては役に立たないだろう。処分されてしまうのは気がとがめるよね。
夜に再び聖教会に侵入した。
ボリバル司祭とギジェルモ司教以外の司教、司祭の執務室からは特に注意を引くものは見つからなかった。
ボリバル司祭の執務室からは、僕に関する資料が見つかった。
ベルグン、アグナーからの情報には、冒険者として灰色狼、狂鹿、大トカゲの討伐をしたとだけあり、詳細はない。勇者、王族疑惑については何もなかった。
討伐の報酬でかなりの金を得た子どもの冒険者とあったが、その金額は明記されていなかった。
討伐で得た金額がない。
ベルグン、パルムでは屋敷に住み、高額な学費を払っていることに違和感があるはずなのにな。そこを要調査としていないのは、なぜだろう?
組織立っていないのか、僕の不自然さに気づいていないのか。もっと別の理由か。
「あれ」、「それ」の代名詞に、略した用語が書かれた資料が多く見つかった。
宛先はボリバル司祭。送付元が書かれていないが手紙と思われるものだった。
でも、挨拶文は一切なし。
業務連絡と命令書……用語の分析が必要だが、単に勇者候補を探せ、じゃないね。
人造魔石、人造魔物を前提にすると……どうも実験結果についてやり取りしているようだな。
走査を終えて建物から抜け出したが、今夜は犬たちがいなかった。
夜明けまで、屋敷で今後の計画を考えて過ごした。
朝食後に、ラドたちと作戦部の会議を開いた。
「今後について、僕の計画案を話す。みんなには検証をしてほしい」
作戦部の面々がうなずいた。
「まずフラゼッタ王国について。フラゼッタ王国、現政権を転覆させる」
一同が顔を見合わせた。
「王の首をすげ替えて、魔王国の傀儡政権を作る。聖教会もそれを目論んでいる。これまでいろいろと工作してきたようだが、美味しいところはこちらがもらう」
ラドが唾を飲み込む。
「まず、王弟であるバランド公爵に王位を継がせる。情報部からの人物評価では可もなし不可もなしだが、内政実務を行なっている人物だ。軍備への予算増加に苦言を呈して、王からはあまり良く思われていない。将来は学院の学生である、四男のベランジェ・バランドを王位につける」
納得がいったようにうなずく者がいた。
「今後もベランジェ・バランドを誘導し、僕の味方、親魔王国派に持っていく。現王と王太子は病気を理由に退位、廃嫡してもらう。これは僕が工作して、心の臓の病になってもらう。政務を担当できないほどのね」
ラドが質問をしたそうな顔をしたが、発言はしなかった。
「レーデル王女を辺境大森林のエルフ族に留学させ、いずれは『影の一族』としての自覚を持ってもらい、こちらも親魔王国派に引き込む」
みんなが目配せしあった。
ええ、ええ、そうです、私的流用です。私物化です。敵対したくないんだもの。
「コホン。聖ポルカセス国。聖教会の案内人に従って聖都ウトリーに向かう。時期は先方に合わせることになる。聖ポルカセス国、聖都ウトリーでさらに情報収集を行うつもりだ。いくつかの仮説に確証を得られることを望んでいる」
質疑応答に入った。
「聖教会も政権転覆を狙っているのですか?」
ラウノの質問に、僕がうなずいて答える。
「もっと非道なことを考えている。司教と聖ポルカセス国とのやり取りに、フラゼッタ王家を根絶やしにするか、もしくはフラゼッタ王国自体の解体を示唆するものがあった」
「根絶やし……国の解体?」
「ああ、魔王を討伐する勇者の邪魔をするものは、全て排除する方針らしい。魔王の復活がないことで近隣への侵略を考え始めた王はもちろん、後々邪魔になりそうなものは全てと考えているようだね。現王がエルフから貴妃を娶り、混血である王女たちを産ませたことも気に入らない。……人間と他種の混血など許しがたいようだ」
アザレアの眉がピクリと動いた。
「聖都でも確認するが……人間種以外を差別する……差別だけではなく、滅ぼしたいようだ」
「それで退位と廃嫡の方法、病気にする方法ですが……ノルフェ王国の方法は問題が……今回は毒を盛るということなら、かなり時間がかかるのではないでしょうか? ベルグン伯爵への毒も長期間かかっても、効果が不確かでした。エイリーク新王への方法では、相手を廃人にしてしまいます。王には、もう利用価値がありませんか?」
ラドが尋ねた。
「うん、そうだったね。でも毒は使わないよ。エイリークの方法も使えない」
ラドがうなずく。
「昨日、聖教会の司教で実験してみた。心の臓を取り巻いている血管を、直接魔力で掴むんだ。殺すことも出来るが、数回の発作を起こさせるだけで目的を達せられると考えている」
「司教で実験! ……心の臓を取り巻く血管を……」
「ああ、大トカゲの脳を魔力で握りつぶしたように、体には傷一つつけずにね」
「……そうでした。体には何も傷がなかった……」
「バランド公爵は実務的で野心を持たないようですが、ベランジェ公子には第一公子の兄がいるのでは? そちらに王位が渡ることはないのですか?」
「バランド公爵家を調べてもらった時の情報では、第一公子にはすでに公子妃がいて、熱愛しているそうだ。王位継承を確実にしたいと画策した者が第四王女と娶せようとした際には、公子妃を正妻から外して寵姫とすることに猛反発したらしい。確実ではないが、ベランジェ公子を王太子にしてくれる可能性は高い。……第一公子にも少し病弱になってもらってもいいしね」
「……」
「レーデル王女ですが、辺境大森林のエルフ族への留学で離宮を離れては、道中危ないのではないでしょうか?」
アザレアとオディーが目配せしあい、アザレアが聞いてきた。
「うん、危ないね。レオナインに依頼して、レーデルの一族から迎えを寄越してもらう手配をした。ガランたちが迎えを乗せてこちらに向かい、パルム近郊で馬に乗り換えることになっている」
ラドがうなずいた。
「レーデルに付いていく王室、聖教会の者は途中で排除する。そのためにホーロラを含む護衛をつけるよ。排除した後はレーデルを乗せてレオナインの所に飛んでもらう。……心配なのは、ガランたち、竜を見た後で『影の一族』と自分の繋がりを素直に受け入れてくれるかどうかだけどね」
「聖ポルカセス国へは誰をお連れになりますか?」
ラドが聞いてきた。
「人間と見分けがつかない者が基本だね。……案内人は途中でまく予定でいる。エルク一行が魔物に襲われて散り散りになり、エルクは少人数で聖ポルカセス国に入るって筋書きを考えているよ。出来る限り少人数で行きたい。僕、ラド、それに加えて二人か三人。なにか起きても、急いで聖ポルカセス国を脱出できるようにね」
「なにか起きても……」
「敵陣深くに侵入するんだ。何が起きてもおかしくない。魔王と露見してもね」
「脱出……退路を確保しなくてはいけませんね」
「うん。ま、いざとなれば、僕が抱えて飛んで逃げ出すよ。……最悪の事態になったら、ガランたちに救援を頼むことも……僕の魔法で聖都を……聖ポルカセス国を消滅させることも辞さない……」
「聖ポルカセス国を消滅させる……そんな魔法が! そんな事が出来るのですか!」
ラウノが声を上げた。
「うん。出来る。理論上は不可能じゃないよ。実験したくもないけどね。……アザレア、初めてあった時の話を覚えている?」
「……エルク様の世界で、エルク様のいた国だけで三百万人以上、全世界では八千万人以上の人が死んでしまった、戦争のことですね」
「!」
「そう。その時に……そうだな……火の玉、火炎弾の魔法に似ている武器で、数十万人もの人と街が……一瞬で焼け野原になった。……全く同じものは作れないし、作る気もないけど。同じような効果を上げる魔法が僕には使える。使えば……王都パルムが何も残さずに消え失せるような……いや、この大陸ごとなくなるような魔法がね」
「……」
「……できるから、必要だから、平和になるために……理由を探し出して使ってしまうのが人間だ。使ってしまったら……罪のない人たちの命を奪ってしまったら……その責は僕一人にある……どんな理由があろうと誰のせいでもない……誰にもその罪をなすりつけられない……最高責任者である僕一人が、罪を、責任を負うんだ」
白くなるほど両手を握り合わせる僕。静まり返った会議室で、みんなはただ見つめるしかなかった。
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