排除します
講義の終了後は、レーデルと食堂で昼食を取った。レーデルの学友たちも集まり、僕とお揃いの帽子を冷やかされたり、おしゃべりをして楽しい時間を過ごした。
食堂には悪意を持って僕をにらむ集団がいたが、特に何もしてこなかった。
「寮でギヨームたちがエルクを探してた。なにか魂胆がありそうだったから気をつけて」
ドナシアンが注意してくれた。
「なに、もうベランジェたちに目をつけられたの?」
「ああ、エルクが談話室を使ったし、用を言い付けられても無視してたそうだからね」
「ふぅ、馬鹿な人たちね。エルクにかなうはずもないのに……」
「え、そうなの? エルクって強いの?」
「強いわ。オルガお姉さまを憶えてる?」
みんながうなずいた。
「オルガお姉さまは、エルクのお知り合い。お姉さまからの手紙に、エルクの魔物討伐について書いてあったの。お姉さまよりはるかに強いとも。風魔法の教授よりも。エルクは、たぶん学院一でしょうね」
レーデルが答えた。みんなが、肩をすくめる僕を見つめる。
「そうなのレーデル? こんな綺麗でかわいい子なのに?」
「まあ、もしエルクになにかしたら、学院中の女の子を敵に回すけどね。エルク、女の子たちの間で人気急上昇中だからねぇー」
みんなが黄色い悲鳴を上げて、かしましい席になった。
みんなは午後の講義に向かい、僕は図書館に行く。魔力の流れを観察しながらゆっくりと書架を周り禁書庫の前に来た。
専門校と同じ魔力の流れだな。今夜にでも入ってみるか。ん? 下に向かう魔力の流れか。地下に向かってるか。
たいてい秘密にしたいものは地下に隠すよね。たまには二階とかに隠しても……って二階にも変な流れがあるな。
入り口に戻り、司書に閲覧できる勇者に関する本を出してもらい確認した。
ふーむ、やっぱり走査の間違いじゃないな。
今までルキフェを倒した勇者の一覧に、腑に落ちない点があった。
ルキフェを倒した後の記述が、どこにもないんだ。勇者は必ず聖教会が探し出す。ルキフェを倒す。そこで終わっている。
「こうして魔王を倒した後、幸せに暮らしましたとさ」とか、「次の勇者を生み出すために子孫繁栄を奨励された」とかがない。
一緒に魔王国に行ったパーティーもその後がわからない。
勇者を影の一族も追えなかったな。「魔王を倒してくれてありがとう、おめでとう」の祝賀記録があってもいいものだが。
本を返却して寮に向かったが、先程の昼食からずっとついてくる者がいる。あまりうまく尾行が出来ていないね。
寮の玄関に緑の一年生が並んで立っていた。僕が入ろうとすると、数人が行く手を塞いだ。
「エルクくん、ごめん。君を寮に入れるなって言われて……」
「はぁ。なんだっけ、なんて名前だっけ、ギなんとかだね」
「……ギヨームさん……。ごめんね」
「ああ、いいよ、いいよ。で、そのギなんとかはどこ?」
「講義に……」
「……君たちは午後の講義、無いの? 出なくていいの?」
「講義には出たいけど、エルクくんを入れると……後で困ったことになるから……」
「はぁ。まあ、いいよ、じゃ入らないから。もう一度図書館にでも行くさ。だから君たちも講義に行っていいよ、尾行の係もね。だましてこっそり入るってこともしないから」
僕がそう言っても、動く気配はないね。君たちは、勘違いしていることに気づいてないんだね。
「君たち。君たちは魔王を倒すために、学院にいるんじゃないの? 上級生ごときに、脅されて従うなんて。魔王と戦うどころか……。まあ、しがらみもあるだろうしね。もっときちんと考えたほうがいいよ」
僕は事務室に行き、三年生のギヨームがこの時間どの講義に出ているか調べてもらった。武術の訓練で訓練場にいた。職員に礼を行って訓練場に向かう。
三年生の講義は槍。教えている武術教授は、僕の試技で対戦した棒術の武術師だった。
指導が一段落するのを待って、武術師に近づいた。
「先生、こんにちは。ちょっとお邪魔してもよろしいですか?」
「ん? おお、エルクくんか。いいぞ。何か用かな?」
「ええ、不躾な質問で申し訳ないのですが、先生は学生同士の決闘作法に詳しいですか?」
「決闘の作法? ああ、詳しいが、また、物騒な質問だな」
「すみません。では、決闘を申し込む時はどのようにするのですか?」
「申し込む作法は特にないな。相手に向かって『決闘を申し込む』と言えばいい。ま、二人きりではなく、誰か証人になる者は必要だな。『申し込まれていない』と逃げるやつもいるからな」
「そうですか。では、今この場の三年生に、証人になってもらえばいいのですね」
「おいおい、この場で申し込むのか……ああ、寮だな」
「ええ、お察しの通り。では」
僕は、何事とこちらに注意を向けている学生たちに向かって大声を上げた。
「三年生の皆さん、講義中にご迷惑をかけます! これから決闘を申し込みます! できれば証人をお願いします!」
ざわつく学生を背に、僕はギヨームの所に歩いて行って、再び大声を上げた。
「ギなんとか! じゃあ、まずいか! お前の名前など憶えおくのもいまいましい! ギヨーム! 一年生を緑とさげすみ、奴隷のように扱うお前には我慢できない! フラゼッタ王国王立学院一年生エルクは、フラゼッタ王国王立学院三年生のギヨームに決闘を申し込む! 私が勝てば未来永劫、全ての上級生に、一年生を奴隷として扱うことをやめてもらう! 返答やいかに!」
教授と話す僕を見てニヤニヤと笑っていたギヨームは、大音声の言葉を聞いてポカンと口を開けて突っ立っている。
「いかに! 臆したか、ギヨーム! 正々堂々の決闘の申し込みを受けずに逃げるか! この臆病者!」
ギヨームの顔が段々と赤くなって来た。
「う、受ける! このギヨームはエルクの決闘の申し出を受けるぞぉ!」
語尾が甲高い声なのが、しまらない。
「では。先生! この後はどうすればよいかご教授いただけますか?」
「うん、この後は決闘の詳細を、お互いの使者が話し合うのが正式だが……。が、審判となる教授の都合もある。今この場で行うのもよいぞ」
「先生のお言葉は嬉しいのですが、できれば大勢の見物人を証人として、寮での一年生の扱いを変えさせたいのです」
「わかった。……明日、五の鐘なら教授会議があり、教授が揃う。闘技場も空いているはずだ。学生も自主訓練の時間で集まりやすい。明日五ノ鐘、闘技場。エルク、ギヨーム、異存はないか」
「私はありません」
「わ、私は、……いやそれでは……」
言いよどむギヨームに、僕が追い打ちをかけてあげる。
「くくくっ。ギなんとかぁ、子分としては、親分の都合を聞かないとだめなんだよねぇー。一人では決められないんだよねぇー。パーティーで戦いたいんでしょ? そっちは何人でもいいよぉ。どうせ僕は一人で戦うからね。僕に味方する者に脅しをかける時間なんて、必要ないよぉー」
「くっ、い、異存ありません」
「……エルク、パーティー戦でいいんだな? よし! 明日五ノ鐘、闘技場! エルク対ギヨームの決闘、パーティー戦を行う!」
三年生たちにどよめきが走る中、武術師が更に声を上げる。
「見物人に集まってもらうのがエルクの望みだ! 私はこれから明日の決闘見学を臨時講義として認めさせに行く。この後は自主訓練とする! 君たちは明日の決闘をできるだけ多くの者に触れて回れ! 明日の決闘見学は自主訓練よりも見る価値がある、必ず見学しろ! そうだ、出欠は取ることにするぞ!」
僕は武術師に礼を言った。
「先生、ありがとうございます。お手数をおかけします。講義の邪魔をして申し訳ありませんでした」
「いやいや、エルクくん。あれを実戦で見れるなんて楽しみだよ。学生たちにはいい勉強になるはずだ。……ただなあ……エルクくん、後々、面倒になるから、ギヨームたちを殺さないでやってくれよ、たのむから」
「殺さないでやってくれって?」
「ああ、今あの子に言ったよな……」
「あの子、強いのか?」
「くぅー。先生の言う通りなら、賭けはあの子か? いやいや、ありえないだろう?」
「難しくなるぞ、予想が。あー、どうしよう」
学生の中から、レーデルの学友、長身の女の子が僕に寄ってきた。
「エルク、大丈夫なの?」
「やあ、タニヤ。大丈夫だよ……賭けるんなら僕に賭けてね。損はさせないよ。皆にも僕に賭けるように言ってね。あ、僕も自分に賭けられるのかな。八百長防止に賭けられないのかな。どうしよう、レーデルに頼んで賭けてもらおうかな」
自主訓練になったが、ギヨームが慌ててどこかに走って行ったのを皮切りに、学生が皆駆け出していった。タニヤも僕に手を振ると駆け出した。
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