ようやくの図書館


 職員に案内されて、応接室に戻った。職員が書類と見たことのある魔道具を抱えて入ってきた。


「試技は魔法、武術とも合格点以上です。これで正式に入学を認めます。こちらで学生証を作ります。ここに手のひらを置いて、光ったら登録する名前を言ってください」


 平たい魔道具に手をおいて、光ったのを見て名を言う。


「ゼロ歳? ……魔力量……ゼロ? ……魔力色……魔道具に不具合があるようです。エルクさん、別の魔道具を持ってきますので少しお待ち下さい」

「あぁ、ちょっと待って。……これ、冒険者の銀証なんですが、これの登録の時も同じ様になったんです。どうも僕はこの魔道具と相性が悪いらしくて……。この銀証は手動で作ってもらいました。同じ様にすればよいかと思います」

「手動ですか……では、その銀証と同じ値にします」


 学生証の金属片を首から掛けた僕にさらに、緑の布が渡された。


「これは学生が着ける布です。エルクさんは一年目なので緑になります。学内にいる時は必ずつけておいてください。場所はどこでも構いませんが、一目でわかる場所につけてください。街中に出る時も出来る限りつけておくことをお勧めします」


 僕が首に巻いて職員をみると、うなずきを返してくれた。

 木綿のようだが少しごわごわだね。後でもっと手触りのいいのを作ろう。この緑ももう少しきれいな発色に。ちょっと蛍光色が入るといいね。



「これからの予定ですが、明日から職員の案内で七日間講義を見学してもらいます。取りたい講義が決まれば出席することになります。尚、講義はいずれも途中からとなりますが、その講義を担当する教授と相談して補習を受けることになります。教授が行う各講義の試験で成績が良くないものは退学の対象となります」


 その時、鐘がカンと一回鋭く鳴った。試技中にも鐘がなっていたな。職員に尋ねる。


「あの鐘は、なんですか?」

「ああ、二ノ鐘の終了の鐘です。三度鋭く予鈴を鳴らし、一度大きく鐘を鳴らして一ノ鐘で一日の授業が始まります。授業時間終了は今のようには鋭く一度です。一日の内、一ノ鐘から始まり、終業時に五ノ鐘が鳴らされ、終了と開始の鐘の間は休憩時間です。講義は一日三回、五ノ鐘のあとは自習や自主訓練などですね。六ノ鐘で校門が閉まります」


 学院は一年生から八年生まで在学できるが、教授と学院に認められれば布の色が変わり飛び級となる。また、高額な授業料を払えば何年でも在学できる。


 共通の講義、訓練で必須科目もあるが、それ以外の時間は自由に講義を選べる。ただし年に数度、講義毎に試験がある。

 教授となる魔術師、武術師、講義内容は別館に張り出されている。



「本学院は、原則としては全寮制です。ですが、実際にはお屋敷から通われる方もいらっしゃいます。一緒に寝泊まりできる側仕えは、普通は一人です。護衛を伴う方は申請していただく事になっています」

「寮に部屋を用意しておいてもらい、時々そこで寝泊まりすることは可能なの?」

「はい、もちろん可能です。他に質問があればお答えします」

「こちらの図書館は有名ですね。蔵書数が一番だと聞いています」

「はい、ここほどの蔵書数がある場所は他にはありません。特に魔法に関しては魔法書、関連の書、共に世界で一番でございます」

「それはそれは、今から楽しみです」

「学生の図書の利用は、学年によって決まりがございます。一年生が閲覧できるのは基本を中心とした魔法書になります。しっかりとした知識が身につくことと存じます」

「学年による決まり? 基本? 全部の本が読めるわけじゃないの?」

「はい。三年生までは『学生』で基礎を学び、四年生以上は『修学士』になり、応用を学びます。『修学士』であれば禁書庫以外は全て読めます」


「よくわからないのですが、なぜ、一年生は全部の本が読めないんですか?」

「……そういう規則としか」

「規則はわかりました。僕が聞いているのは、なぜ、本を読むのにそのような規則があるのか、です」

「……『なぜ』ですか。低学年には危険な魔法があるからです」

「どのような危険でしょう?」

「低学年が高学年対象の魔法を詠唱してしまうと、魔力切れを起こします。場合によっては死ぬこともあります」

「魔力量が問題ですか。十分な魔力量があれば一年生でも閲覧が許されるのですね?」

「いいえ、そのような前例はありませんので許可はされません」

「わかりました。では修学士への飛び級を目指すことにします」

「それは……今日入学が認められた学生には無理だと思います……いえ、あの試技であれば、エルクさんには可能なのかもしれませんね……教授方に聞いてみます」

「ええ、よろしくお願いします」



 その後、別館で張り出されている講義内容を見に行った。

 内容と言われたが講義の名称のみでどのような講義かわからないな。どうやら魔法の呪文の訓練、武術の訓練が中心になるらしい。七日間の見学でわかるか。



「僕は専門校にも入学をお願いしているのですが、今日にも入学が認められると連絡を受けています。あちらの試技がある日は見学を延期してもらえますか?」

「専門校ですか……あちらにも入学を……ではあちらの試技の後に見学としましょう。おそらくあちらの試技も入学許可の次の日となるでしょう。明後日から見学をしましょう。入寮もそれからがよろしいでしょう」


 三ノ鐘が鳴り、明後日の一ノ鐘から見学を行うと言われて説明が終わった。



 セリアに礼を言って別れ、ラドたちは学院内を偵察してもらうために別行動とした。

 四ノ鐘までは、昼食を取る休憩時間と聞いて、僕は正門正面の建物から西側にある、図書館に向かった。



 ようやく今日から使用できる。

 図書館を複雑な魔力の流れが覆っているね。防犯か、保全の魔道具かな? 念のため試技で切っておいた探知魔法は、そのまま発動させないでいよう。


 門衛が学年の布と学生証を確認して、入れてくれる。僕は初回なので受付で図書館証を作ってもらった。


 注意事項の説明の後で、司書に質問をする。


「所蔵図書総覧か、蔵書目録を見たいのですが?」

「え? 講義名をおっしゃってもらえれば、必要な魔法書をご用意いたします」

「それは別の日にお願いします。僕が知りたいのは、この図書館にどんな蔵書があるかです。目録と作成規則を教えていただいて、おおよその内容、書架の位置、開架か閉架かなどがわかれば助かります」

「……では、所蔵図書総覧はございませんので、蔵書目録をお持ちいたします。ですが、量が多いので、どのような魔法書をお探しかを教えていただくほうが、よろしいと思います」

「いいえ、全ての目録に目を通します。では、あちらの閲覧室にいきますので、目録の一巻から運べるだけ運んでください」


 閲覧室で大きな机の前に座る。司書がとじられた羊皮紙の束を手押しの台に載せて運んできてくれる。

 運ばれた目録を片っ端から走査していく。



 運んでもらった目録の走査が終わったので、司書のところまで運んで次をお願いしたんだけど。


「……先程、図書館証を作ったばかりの一年生でしたよね。図書館の資料で遊ぶのはおやめください。開くだけでも痛みます。読まない物を頼んではいけません」


 子どもに言い含める口調で僕は注意されちゃった。そこで、一綴りを司書に渡して適当な一枚の書名を読み上げてもらう。

 書名に続く著者名や付随する情報をそらんじた。


「ね、覚えてるでしょ? どれでもいいです、別の綴りで試してもらってもいいですよ」


 司書は、何度か試して、本当に僕が記憶していることに驚いていた。追加を頼んで席に戻った。



 新たな目録の走査をしていると、いきなり肩を叩かれた。

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