硬質な相手
探知魔法が大トカゲを捉えた。
「探知魔法に感! 正面! 数は六十五! 内ひとつはボスらしき大きさ! 川の向こう岸の森にいる! 狂鹿に似た魔力! 異常な魔物と断定!」
街道は川の手前の土手で南に折れている。僕たちはそのまま川岸まで進み、下馬した。
「商館の人は馬を受け取って、街道まで戻って待機! 大鹿の角を二つに分ける! 支援隊は商館の人を警護! 攻撃隊は集合! 飛翔隊形を作れ!」
大層な名前だが、僕を中心に全員が丸く輪になって、両隣と手を繋ぐだけだ。
重力魔法と風魔法に防壁魔法で、全員を宙に浮かせて川を飛び超える。森に続く土手のようなところに降りる。
「六十五頭全部を監視してるよ。大トカゲがわかる?」
「いいえ。森が静かすぎるのはわかりますが、具体的に大トカゲがどこに何頭いるかまではわかりません」
オディーの答えに、みんながうなずいた。
「大トカゲを呼び込むよ。一頭ずつにするから、攻撃を試してみて」
僕は魔力を伸ばし、大トカゲたちの注目を集めた。大トカゲ一頭ずつに防壁魔法と重力魔法をかけて動きを止める。
「一頭、こちらに向かわせる。まずは足止めの魔法を試そう。詠唱を始めて」
森の下生えがガサガサ音をたてて動き、濃い茶色の塊が出てきた。
短い足で低い体勢だが、その体高は人の背よりも高い。口の大きさを見れば、あの手を食いちぎられた冒険者が、いかに幸運だったのかがわかる。
ラウノが氷魔法を放ち、四本の足を氷で地面に固める。急に足を止められた大トカゲは拘束を解こうともがく。
「ラウノどう? 止めておけそう?」
「……あと数分は。それ以上は重ねがけしないといけないようです」
「じゃあ、弓を射てみよう。みんな、攻撃効果の確認ね。氷の上に出ている身体を狙って」
十数本の矢が大トカゲに飛んだが、カンッ! という音ともに全て弾かれた。
「通りません」
「硬いねぇ。頭はどう?」
頭部を狙った矢も同じ様に弾かれた。目を狙うように指示を出したが、危険を感じたのか頭を下げられて当たらない。
「こりゃ確かに、手ごわいね。致命傷を与えるのに時間がかかりそうだ。……切れるかな」
僕は剣を抜いて近寄っていき、大トカゲに会釈した。
「ごめんね」
そう言って横に回り、人の胴回り以上の首を一太刀で切り落とした。
頭がない体が血を吹きながら、クネクネと悲しく身を捩らせる。
しばらくして動かなくなった体に手を置き、黙とうする。
みんなを呼んで、剣や槍を試させた。剣は弾かれ、槍も体重をかけて突いても刺さらない。
「浅くしか、傷をつけられません」
「うーん。ちょっと下がって、魔法を試してみよう」
火魔法では少し焦げ、氷の槍も浅く刺さるだけだった。
「火魔法だと結構大規模に燃やすしかないのかな。ちょっと離れて、光魔法を使うよ」
灰色狼と狂鹿を倒した魔法を使ってみたが、体の表面で破裂した。
破裂した場所を調べると、表皮は貫いているが次の骨の皮膚で炸裂している。威力を調整し、灰色狼討伐時の十倍ほどの魔力量で貫けた。
「こりゃほんと硬いね。ねえラド、首を切り離したら、買取の値段って下がると思う?」
「下がるでしょうね。もっともエルクのように切れれば、ですが」
「うーん、じゃ外から心臓を握りつぶして……心臓は魔石があるか。エイリークか。脳はどうだ?」
エイリークの時は鼻から糸のような魔力を入れたが、細密な操作が必要になり時間がかかる。
もっと早く出来る方法はないかな? 魔力じゃなくて重力? 体内に浸透させなくとも内部の重力を変えるか。
重力の手をイメージして、落ちた頭の脳を触れずに握り潰した。頭を割ってみると脳が潰れて液状になっていた。
「脳は使いみちがある?」
「いえ、一部では食べると聞きます。ですがあまり大きくないので、他の使いみちは聞いたことがありません」
まあこれが一番やり易いか。これで死ぬかどうかだな。
バルブロは脳にダメージを受けても別の頭が生えてきたな。バルブロの魔石が数頭分を混ぜて作った人工魔石とすれば、触手の蛇やもう一つの頭や脳もありか。
「どう? どうしたら倒せる?」
「……一頭を皆で足止めし、少しずつ頭を削れば不可能ではないですが……一度に一頭を長時間かけて、になるでしょう。その間に他から攻撃されたら無理ですね」
アザレアの言葉に皆がうなずいた。
「うん。もし、全部が一度にアグナーの街に襲いかかったら……。防衛しても一頭も倒せずに全滅もあり得るね。やっぱり街ごと避難させるのが正解だった。……よし、灰色狼も狂鹿も、僕が倒したところを見せてないから、魔王エルクの実力の一端を見せよう」
……失敗したら恥ずかしいけどね。硬いやつは内部から……。
重力魔法を緩め、残りを集める。森から川までの土手が茶色い大トカゲで埋まったところで、再度足止めする。
奥から森の木々をなぎ倒し、巨大な一頭が現れた。同じく足止めすると、その場で他の大トカゲたちのようにもがき、巨大な足の爪が地面を大きくえぐった。
ラドたちは我知らず一歩下がった。
「……!」
「いくよ。一頭の脳を握りつぶす」
必要はないのだが、右手をかざし、握り込む。一番手前の一頭が息を吐いてうずくまった。けれども、足と尾が動き続け、完全に沈黙するまでしばらくかかった。
「脳を潰せば絶命するが、心臓が止まらないと攻撃が止まらないってことか。厄介な相手なんだな」
硬い身体に強い生命力。普通に戦っては冒険者に勝ち目はない。
「オルガたちならどうするかなぁ。全部を一度に焼き尽くすような火の魔法を、広範囲に使わないと群れを止められないか? ……次いくよ。ボス以外の脳を握りつぶす」
ボス以外の大トカゲをロックオンして、脳を握りつぶす。全頭が息を吐き、一度に全てが崩れ落ちた。
辺り一面に生き物が地に伏し、脳を潰されながらも手足と尾を動かす姿は、哀れで悲しい光景だった。
僕はボスに近寄り、動けないボスに一礼した。
「ごめんね」
そういうと、手をかざし握り込んだ。
「フーッ」と息を吐きボスがうずくまる。
動きを止めるまで待つ。
頭に近づき宙に浮かんで、ボスの開いたままの目を閉じてやった。
更に高く浮かび、両腕を広げて全ての大トカゲに声をかけた。
「良き転生を」
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