呼び出されたけど
大トカゲの倒し方について話し合っていると、冒険者ギルドから使いが来た。
銀証の僕に、ギルドでの会議に今すぐ参加してほしいとのこと。パーティーの登録もあったので、みんなで出かけることにした。
ギルドでは冒険者があちこちにかたまり、小声で話している。雰囲気は重苦しかった。
受付で、呼ばれたことを告げる。
パーティーの登録もお願いして、僕とラド、ヴィエラだけが職員の案内で二階の会議室に向かった。
会議室には大きな机に六人ほどの銀証を付けた冒険者とギルド長のベルナールが席についていた。
僕は端の空いている席に座り、ラドとヴィエラが後ろに立った。ヴィエラは羊皮紙の束と筆記用具を取りだす。ふたりを見たベルナール、なにか言いたそうだね。
「よく来てくれた、エルクくん。パーティーリーダーを呼んでの会議なんだ。その二人は席を外してほしい」
「いいえ、これは執事と秘書です。重要な会議であれば、なおさら同席させます」
「……執事と秘書……。わかった、認めよう。こちらは銀証のエルクくん。三日前にノルフェ王国から来た。今ここにいる者が、アグナーにいる銀証の全員だ。偵察に行ってもらった銀証は……狩人が一人だけしか帰還していない」
席に座る銀証の冒険者たちは、訝しそうに僕を見ている。うん、僕は子どもだよ、なにか?
「一昨日、アグナーの街から東に徒歩で十時間ほどの森で大トカゲに遭遇。銀証九人の偵察隊を出したが。今日、馬で三時間の森で遭遇、一人しか戻らなかった。数は約六十頭。通常の大トカゲの三倍以上の大きさ。先程、領国騎士団二十騎が領主の命令で出撃している」
ベルナールが大トカゲの報告をすると、六人の銀証は騒ぎ出した。
「近い! 近すぎる! すぐ来るぞ!」
「六十……一頭でもパーティー全員の総掛かりでやっとだ。三倍の大きさで六十なんて……」
「無理だ! 城壁を破られるぞ!」
「避難しよう! 六十は無理だ!」
「ああ、無理、無理! 逃げよう!」
「あの騎士団二十でなんとかできるのか?」
その質問に首を振ってベルナールが答える。
「領国騎士団は……見栄えだけのお飾りだ。実戦に不安がある。しかし残った騎士団と領国軍、領都警備隊と、冒険者でこの街を守備するしか手がない」
「ギルド長、よそからの応援は? 援軍はあるのか?」
「……近隣の領主と王都に使いは出した」
「間に合わないだろ! 援軍が来るまでどれだけ時間がかかるか……」
「住民の避難をアグナー伯も検討した。だが、大トカゲが近すぎてかえって被害を拡大させかねない。そこで、籠城し防備に務める事になった。諸君たちからの意見を求めたい」
「食料は十分なのか?」
「いや、それよりも水の確保だ」
「住民は戦えるのか?」
「武器はどのくらいあるんだ!」
「そうだ! 住民にも一緒に戦ってもらおう!」
あれ? 進め方、変じゃない? ギルド長が街の指揮官?
銀証たちは、あまり深く考えてないの? 思いついたことをそのまま口にするとか、ありえないでしょう。
「援軍に早く来て貰う方法はないのか、ギルド長」
「城壁は保つのか? 補強したほうがいいんじゃないか?」
「鉄証と木証の連中に、郊外から食料を集めさせてはどうか」
僕は、焦れてきた。
何も打つ手を持ち合わせてないのか、指揮系統が確立していないのか。
軍事経験はないけれど、この会議が無駄なことはわかる。意見を聞いてる場合じゃないだろうに。
「ギルド長。ちょっといい?」
「エルクくん、なにか意見があるのか?」
「この会議は、僕の時間を無駄に使っている。なので、ここを失礼して、僕らのパーティー『大鹿の角』は、威力偵察に出る」
「無駄だと!」
「なに! このガキが!」
「……いりょく……偵察とはなんだ?」
「偵察だけどね、遠くから相手を観察するんじゃなく、実際に戦ってみて相手の強さやなんかを測ってみることだね。まあ、討伐しに行くってことかな」
「と、討伐?」
「ヴィエラ、下のみんながすぐ出られるか確認して。必要なら着替える部屋を確保して。ラド、馬で行く、用意を」
「了解です」
二人はすぐに会議室を出ていった。
「実際に戦ってみるだと! 新参者のくせに!」
「うん、新参者だよ。三日前に銀証になったばかりのね」
「討伐だと! くっ! 俺たちも行く!」
「おまえたちの話を聞いていると、討伐する気構えも実力もない。足手まといだ。弱い者の面倒は見られない」
「弱いだと!」
「子どものくせに!」
声を上げる冒険者たちを無視して、僕は続けた。
「では、皆さん、僕らは出ます。ああ、ギルド長、討伐依頼を出して『大鹿の角』が受けたことにしておいてくれると嬉しいかな。討伐報酬だけじゃなくて、上乗せを期待してるよ」
僕は、喚き立てるギルド長や冒険者の声を背にして会議室を後にした。
ギルドから屋敷に向かう途中で馬を連れたラドと商館の人たちと合流し、北門に向かった。若い門衛に手を振ってアグナーを出る。
東に向かう街道を速歩を混ぜて進み、対向からやってくるものとすれ違った。
鎧下姿の若い男たちで、青い顔で汗と尿の匂いをさせている。馬は泡を吹き、よろけた足取りだが、騎乗者は鞭をふるい続け、馬は打たれたところから血を流していた。
僕たちに気がつくと、男たちが声をかけてきた。
「……う、馬をよこせ……」
「……領国騎士団だ……馬をよこせ!」
お飾りね。まあ、実戦訓練なんかしてないんだろうな。
「無視していくよ! 大した情報も持ってなさそうだ!」
僕たちは立ちふさがろうとするものを避け、声を無視して進んだ。
街道を進むと、鎧の部品が点々と落ちている。
領国騎士団が走りながら捨てていったものだろう。金銀で飾り立てられているが薄い金属製、防御力があるとは思えない。拾う価値もない。
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