帰ってきた偵察隊
「今、協力者の話をした。聖教会が、魔王国側にそれを作っていないとは思えないんだ」
アザレアは、最初に僕に会ったときに聞いていたよね。
「なぜ、魔王城に勇者があらわれるのか? でしょうか?」
「うん、それ。ラドの一族は魔王城でルキフェを守っていた。狂乱の影響下にあるとはいえ、ルキフェのところまで入り込まれている。どうやって?」
「……」
「魔王討伐軍は……こちらの目をそらすため……」
オディーがつぶやいた。
「こちらの注意がそれたからといってすぐに国境を超えては……これない……。討伐軍と戦う前に入っていなければならない!」
「そうだろうね」
「……入れるのは商人か……だが、狂乱の影響を受けるはず……しかし勇者たちは受けない……狂乱の影響を受けたら魔王城に入って、ルキフェ様と戦うこともできない! 受けない方法がなければ!」
「うん、おかしいよね、ガランでさえ影響を受けるのに」
「もっとあるわ! 魔王城の場所をどうやって知る? 魔王城の中をどうやって知る? なぜ魔王城を移したり、中に罠をはらない? 玉座の場所を変えないのはなぜ?」
「おかしいよね、アザレア。……このいろいろな疑問はひとつずつ潰していかなくてはね」
「エルク様は、手引する者がいるのではとクラレンスに示しました。聖教会が我々の情報を得ている……そう考えると……」
「ひとつ注意があるよ。とらわれないこと。手引をする者か、情報を漏らす者がいるかも知れない。でも、あくまで『かもしれない』なんだ。別の方法がある可能性を排除してはいけないかな。たとえば、転移装置のようなものがあればどうか? とかね」
「……てんい……そうち?」
「空間を歪めたりして、ある場所から瞬時に別の場所に移動する魔法か、魔道具のことだよ」
「そのような魔法があるのですか?」
「僕はここにいても魔王城の宝物庫から物が取り出せる。アイテムパックのような魔道具もあるから、空間と時間を操作する魔法の技術は確実に存在するよ。空間魔法か時間魔法か、時空魔法かがね」
「ラウノ、思い当たるものはない?」
「……ただ……時間を操作するのは禁忌だと教わりました」
「だれから?」
「……魔王国で魔術師を束ねる……部族の長から……」
「あると知ってるってことだね。その長が怪しいわけじゃないよ、ラウノ。そう伝わっているのだろう」
「……そうであればいいのですが……」
「みんな、すまないね。僕らはすべてを疑ってみる生活をしていかなきゃならないんだ。魔王国すべての人のためにね。いつかきっと、いつかはきっと、すべてを笑える日が来ると信じてね」
「ここまでにしよう。影の一族から協力を取り付けたわけじゃないけど、感触は良かった。これからどうしていくのがよいか考えてほしい。ラド、ヴィエラ、『蛇の牙』と『ボルイェ雑貨店』でやったことを、みんなでやってみるのがいいんじゃないかな」
ラドたちには、潜入や協力者は無理でも、情報を集めるよう話をしたけど……。協力者はどうしても必要だ。それも、奥の奥、一番深い所の情報を集められるような……。
昨日の検討結果のことを考えながら、僕は冒険者ギルドに向かった。朝食は済ませたが、途中の屋台で、いろいろとつまみ食いを忘れなかった。
独特のひねり方で焼き上げられた塩味のパン、ソーセージと酸っぱいキャベツを挟んだパン、キッシュのようなもの、どれも美味しい。
そうだ。今夜は料理人にトルティージャ、スパニッシュオムレツを作ってもらおっと。
ギルドは、人で混み合っていた。依頼を受けようとする列は短く、ギルド長のベルナールも受付に座っていなかった。冒険者たちから聞こえてくるのは大トカゲのうわさ話で、偵察隊を気にして集まっているようだね。
買取のカウンターにいき、列に並ぶ。
前には継ぎの当たった服を着た、僕と同じくらいか少し年上の男の子がいた。
袋から角ネスミの尻尾、四足コウモリの羽、小さな魔石を出していた。買取が終わり振り向いたが、僕を見て銀証に驚いた。
「銀証……。俺より年下の女の子が……」
そう言って僕の脇を通っていった。
買取受付の中年男性が、通り過ぎた男の子を見ていた僕に声をかける。
「買取かい?」
「ええ、そうです。量が多くてこのカウンターでは狭くて出せないので、広いところで出したいのですが」
「パーティーのお使いかい……え、銀証? 失礼した。馬車用の出入り口の奥が解体場になっているので、そちらへお持ちください。ここでは、名前だけお伺いします」
「銀証冒険者エルクです。お金はパーティーメンバーに割り振りたいのですが、ベルグンで登録したパーティーでもできますか?」
「ベルグンですか。ノルフェ王国のベルグンでしょうか? フラゼッタ王国での登録はしていませんか?」
「ええ、フラゼッタ王国には初めてきました」
「パーティーは国を越えるとその国のギルドでの再登録が必要となります。先に受付にいらしてください」
「わかりました、ありがとう」
受付に並び直し、順番を待ち、受付でパーティーを再登録する。
お金の割り振りには、パーティー全員の階級証の登録が必要なの? 後でみんなで来なくっちゃだめ? ほんと、僕は段取りが悪いなぁ。
入り口が騒がしくなり目をやると、門衛がかけこんできていた。
「誰か来てくれ! 偵察隊が戻ってきた! 北門だ! 狩人一人だ!」
職員と冒険者が数名、慌てて出ていった。
僕はそれを見送り、馬車の出入り口から裏の解体場に向かった。
解体場のテーブルで、マジックパック、魔物の種類、数の多さに驚かれた。アグナーまでの間にアザレアたちが狩った魔物。
新しい武器の試しに、みんな夢中になりすぎかな。
どのくらいの時間で解体ができるか聞いてみたが、人員が不足しているのでこの量ならいつ終わるかわからない。早ければ一カ月という。
アグナーに滞在する理由、里を訪れる予定は済んでいる。買取は王都パルムにしようかな。
入り口に戻ってみると、興奮した冒険者たちが低い声で話をしていて不穏な雰囲気だった。
「一人しか戻ってこれなかったらしい」
「全員銀証だろ? 魔術師もいたはずだが……」
「狩人と御者だけが戻れたらしい……」
「……銀証九人で行って、一人! あいつらウチで一番強い奴らだぞ」
「どうするんだ。あいつら以上はいないぞ……領国騎士団はあの通りだし……」
「……街に向かってきたらどうする……くそ」
何人かの冒険者が駆け出していった。
ゴド、オルガ、ダーガと同じクラスが行って全滅? まずい状況なんじゃない?
屋敷に戻り、みんなにも偵察隊の情報を伝える。
「大トカゲって狩ったことあるの?」
「私はあります。オディーは?」
「ありますが、矢が通りにくかったです。とどめは槍でしたが、苦労しました」
「私もありますが、とにかく皮が硬い」
みんな一度は、狩ったことがあった。
獰猛で素早く、皮が固くてなかなか弱らない面倒な相手らしい。
身体は余すことなく有用だが、仕留めるのに時間をかけると、血の匂いに他の個体が集まってくる。出会っても無理に狩らないそうだ。
うーん……仕留める方法は考えといたほうがいいな。みんなとの連携は、今まで以上に訓練が必要かなぁ。
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