情報収集の切り口


 翌日は休息日とした。屋敷の中庭で訓練する日々だったアザレアたち、ラドにも休みを取らせた。


 僕は、ボルイェ商会に頼んで、武器商から大量の剣、槍、矢尻を購入した。布や革、毛皮、木材、金属も集めさせる。

 納屋に運び込んでもらい、錬成魔法で商品の製作をする。象嵌が施された剣を大量に作る。一部はボルイェ商会に卸した。



 パーティーの武装はすでに渡しているが、槍についてはダーガとオディーから少し手ほどきを受けただけだ。大トカゲに有効らしいので人数分と予備を用意しよう。


 ベルグンを出る時に、宝物庫にあったマジックパックを各自に配っている。

 予備の武器なども入れてもらった。魔王城の宝物庫に繋がるわけではないが、槍も問題なく十本は入れられる。

 槍を見てもらったが、早速槍の得意なオディーを指導役に、アザレアたちが訓練を始めてしまった。休息日って言ったよね。


 ラウノ用に魔法の短杖も試作する。

 仕組みが理解できないので、うまくいかなかった。みんなには宝物庫の長杖と短杖を取り出して、自分の魔法に合わせて選んでもらった。


 アグナーに来るまでにあったほうが便利だなと思ったものを製作した。納屋では収まらないものは中庭に出て作った。

 二人用の山小屋を十、ベッドにテーブルセット、浴室付き。けど、王都パルムに向かうと野営地に他の人間も増えて、山小屋ではいらぬ面倒を呼びそうだ。まあ、関係ないけどね。

 目隠し用の天幕、遊牧民のゲルと先住民のティーピーのようなテントも作った。組み立てたままアイテムパックに入れておく。


 みんなに披露して、夕食に向かった。

 豆のシチューに、羊肉のソティー。香草入りのパン粉をまぶしてローストされている。ソース、マスタードだね。辛味と酸味が美しいハーモニー。エールが何倍でも飲めるよ。

 何気ない豆のシチューだけど、ノルフェ王国とはまた違った美味しさだ。豆の種類も違っているし、この濃厚なこく、ベースは羊だね。



 夕食後のお茶を飲んでいるところに、ラドに伝言が届いた。影に大トカゲについて調べさせていたんだ。結果を報告してもらう。

 アグナーの東側、森の近くにある農場や牧場、集落からの農作物が届かかなくなっている。昨日のうちに銀証を中心とした偵察隊が出発したが、いまだ、なんの連絡もない。


「大トカゲについては、偵察隊の報告待ちだね」




 翌日のポリッジ朝食後、みんなに声をかけた。


「みんな、少し話がある。書斎に移ろう」


 この館の書斎には、会議や会合にも使えるよう大きな机と椅子が備えてある。


「まずは聖教会についてだ。カルミアや異常な魔物から推測すると、聖教会が魔石を使って何かを行っていると見ていいだろう。ここの大トカゲもそうかもしれない」

「その恐れはあります。アグナーの聖教会に常時いるのは下位の司祭と助祭だけですが、ベルグン同様、本国との間に頻繁に出入りがあります」


 ラドの報告に僕はうなずいた。


「では、アザレア。聖教会について知っていることは?」

「ベルグンで聞いたのは、聖教会の目的は魔王の討伐、勇者の支援。……私達の敵です。……でも、どんなものなのか、知りません」

「オディーは?」

「……魔王国でも魔力鉱の交易のために聖教会歴を使っています。聖ポルカセス国が本拠地。……付け加えるのはそのくらいでしょうか」

「うん、僕が聖教会という言葉を知ったのは、クラレンスから教えてもらった聖教会暦というのが最初だ。宿敵だとも言っていた。……あとはベルグンでラドから聞いた話と王都エステルンドで聞いた内容だね。他になにか知ってる?」


 僕は三人を見たが答えはなく、ラドに視線を向けた。


「聖教会には勇者を探し出し、支援を行う機関があります。魔王復活時に諸王国へ討伐軍の編成を命じ、勇者と支援部隊を派遣する……魔王復活をどう察知するか、などは不明です」



「……ラド、冒険者ギルドについて詳しいかい?」

「銅証としての知識でしたら」

「うん、じゃあ、商業ギルドについては知ってる?」

「……魔力鉱の交易に関わっていましたのである程度は知っています」

「ねえ、商業ギルドには冒険者ギルドのように世界中で使える口座がある?」

「いいえ、ありません」

「遠方や他国との取引はどうやって決済するの?」

「現金が主です。同じ商会内や信頼のおける者同士では、手形でも決済をする場合があります」

「ふむ。……僕は、冒険者ギルドも怪しいと思ってるんだ」

「冒険者ギルドが、ですか?」

「この銀証で、世界中の冒険者ギルドでお金がおろせるんだよ。世界中に連絡網がある、瞬時にと言ってもいいくらいに使える連絡網がね。どういう技術? そんな技術があれば一番欲しがるのは商人でしょ? でも商業ギルドにはない。魔王討伐軍は使ってるでしょうね。もしも、一国だけが使えたら……他国を簡単に侵略できる技術だ」

「……」


「次ね、魔石や魔力鉱を一番買い入れてる所はどこかな?」

「聖教会です。勇者を支援する魔法と魔道具の開発のために……」

「じゃあ、魔石を集めるのはどこがするの?」

「……」

「だよね。使うところが、集めるよね。冒険者ギルドの後ろには聖教会がいると思うよ。魔力鉱は、魔王国も産出国だけど、他にも鉱山はあるんでしょ?」

「……ええ、辺境大山脈に、ペルワルナ王国と……聖ポルカセス国の山岳地帯……」



「いままで聖教会を探ることはした?」

「かなり昔から潜入しようとしてきましたが、下位の司祭になれたことが数度あっただけです。中枢には入り込めていません。聖ポルカセス国が人間種以外を排除する傾向があり、入国した獣人、エルフ、ドワーフには見張りがつきます。角を持つ魔族はまず入国できません」

「潜入は難しかったのか。どうにか聖教会を探らなきゃならない。どんな方法が取れると思う? ラウノ?」


 振られたラウノは少し考えて、恥ずかしそうに話しだした。


「……前に……その……その、気になる女性がいまして……どうすればこちらに振り向いてもらえるか考えました」

「ラウノ。それは今話すこと?」

「まってアザレア。なかなか興味深い話のようだよ。続けてラウノ」


 ラウノは顔を少し赤らめて続けた。


「……彼女には一緒に暮らす叔母さんがいて、その人は私を小さい頃から気に入ってくれていました……そこで、その叔母さんに聞いてみたのです。彼女はどんなものが好きか。すると魔術師になりたがっていると教えてくれました。そこで、私は魔法の訓練に励みました。なんとか長の弟子になることができて、彼女が……ほ、ほめてくれて、話せるようになりました」

「ふんふん。いいね、いいね。おめでと」

「エ、エルク様、そうではなくて、私が言いたいのは、叔母さんのことです。彼女のことを教えてもらわなければ、彼女とは話せなかった。……どう言ったらいいのか……重要なのは叔母さんだったんです」

「うん。……ラド、ラウノがいう叔母さんをなんと呼ぶ?」

「……協力者……そうですね、我々が潜入する必要はない。必要なのは協力者か。だが……」

「ラウノ、いい協力者がいてよかったね。……すまないね、恋人をおいて来てくれたんだね」

「あ、いえ。うっ、言いづらい……です。……長の修行で雪山に行っている間に……他の男のところに嫁に行きました……」

「……ごめん、ラウノ。ほんとごめんね」

「いえ、昔の話です。お気になさらずに」



 お茶のおかわりを出してもらい、暗い雰囲気を何とかしようとした。


「ラド、協力者のことだけど、どう思う?」

「……魔王国に協力してくれる者を探すのは難しいですね」

「ヴィエラは協力者についてどう考える?」

 

 ヴィエラは口元に手を当てて話しだした。


「……魔王国に協力させるのは難しい……魔王国だから? 別なら協力する? ああ、……ベルグンで、伯爵家の次男は長男に、長男は伯爵の思惑で動かされていました。自分が誰かに協力しているとは、考えもせずに……魔王国への協力ではなく、別のものに協力していると思わせれば……」

「うん、それはいいね。……ラド、協力者に何をしてもらいたい?」

「……中枢や指導者たちの動き、考えを探って教えてほしいです」

「それを教えてくれるのが、協力者? ……たとえば、偉い人って下働きの人が必要じゃない? ここにもいるよね。もし僕についての情報を探ろうとしたらどうやって探る? 協力者を作ることは難しいでしょ?」

「……下働きと親しくなって、うわさ話をする関係になれば……。遠くから十歳の男の子が来た……皆、その子を丁重に扱う……冒険者ギルドで見かけた……」

「うん。そんな話をしてくれる人に、『君は協力者だ』と言ったら否定されない? ちょっと話をしただけで、自分のしたことが重大だと思わないからね」

「……うわさを集める……つなぎ合わせて……重要かどうかはこちらで判断する。くっ! 今までやってきたじゃないか!」

「魔族が入りにくい。そこにとらわれていたか、『自分たちの手で』という意識が強かったんじゃないかな」

「……確かに」

「なにかにこだわってしまうと、やれていたことが出来なくなる。ベルグンの時と同じ様にやればいいんだよ」

「はい。……モーリッツのような人間を探してもいいですね。いなければ抱き込んで作ればいい。人間には弱点がいろいろある。酒、性欲、金銭欲、出世欲。その人間が納得する物か口実を与えれば……」


 ラドが、納得したように僕にうなずいた。


「さて次は、こちらの体制についてだ。狂乱を止めることができてルキフェが復活しても、それで終わりじゃない。そこからが本当の始まりだ。狂乱は止められるものとして、その後のことに備えなければならない」


 僕は、全員を見回した。

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