楽しい尋問のお時間


「僕に、何を教えてくれるって、フリッツ?」

「……」

「伯爵、どうやら、整理が必要だね。任せてくれる?」

「はい、殿下」

「コホン。尊称はナシで。伯爵の許可ももらったし、僕が話を進めていいよね。反対の人は挙手!」

「……」


「いないようだからっと、ひとつずつ行こうかな。ちっちゃいところから」


 僕はそう言って周りの人々を見渡した。


「伯爵、お願いがあります。伯爵から直接許可が出ない限り、この部屋から誰も出さないように」

「わかりました。許可を出すまで、何者もこの部屋を出ることを禁ずる!」


「ありがと。では、始めましょ。マルニクス。何を勘違いしている。僕は魔術師ではない。当然、魔術師ギルドとは何の関わりもない。僕に命令する権限など、おまえにはない」

「え、しかし、魔法が……」

「魔法を使う者すべてが魔術師なのか? おまえの知らぬ魔法もあるのだ。出世のみを考え、高みを目指す研鑽を忘れたおまえごときが、魔術師ギルドを私物化するのか? ギルド長が高齢で役目を果たせぬなら、ギルド本部から新任を呼ぶのが努めのはず」


 呆然とするマルニクスに、僕はにっこり笑いかけた。


「では、マルニクスに、知らない魔法があることを教えましょう。そちらの壁の兵士の方、こちらに来て壁際を空けてください」


僕に寄ってこなかった兵士に壁際を空けさせた。僕が手をかざすと白い膜が広がり壁の装飾や絵画などを隠した。


「これは実体のない魔力の膜。館の壁や絵には傷はついていません。ではここに面白いものを……」


 僕がさらに手を動かすと、部屋の入口から伯爵を見た風景が白い膜に映し出された。


『ベルグン伯爵、お呼びになりました冒険者たちを連れてまいりました』

『ホルガー、ごくろうだった。紹介をしてくれるか?』

『はい。この者が、銅証冒険者のエルクでございます、閣下』


「はい、一時停止。先ほど我々が入ってきた時の様子です。こうして魔法で再現して、みんなに見せることが出来ます。実際に起こったことが写っていると理解してもらえます?」


 伯爵はじめ、見入ったものがうなずいたが、誰からも発言がなかった。


『なんだと! 領国軍に入れてやる代わりにアイテムパックを差し出すよう言ったはずだ!』

『誰に?』

『……マルニクス! 命令を出したのではなかったのか!』

『え、は、はい、閣下、それが、何度、呼んでも、こいつは出頭しないので……魔術師のくせにギルドの命令に従わないのです!』

『自分がギルドの命令に従わないのに、礼儀を語るとは! むっ、おまえ! おまえはなぜ帯剣している!』

『はい?』

『なぜ、その短剣を預けない! 俺が領国軍で鍛え直して、命令に従うことを教えてやる! アイテムパックと一緒に取り上げろ!』


「一時停止。こういう魔法があるのだよ、マルニクス。では次。ここじゃないけど、面白い会話があるんだよねぇ」


 豪華な応接室に場面が変わった。四人の人間が向かい合って座っていた。誰も動いていない。


「はい、ここはある商館の応接室です。見たことある人がいるでしょう? マルニクスがいますね、なにを言うのかなぁ」


『私はこんな田舎の事務長では終わらん。間抜け伯爵とバカ息子にアイテムパックを渡して中央に戻るんだ。エルクは複数アイテムパックを持っている。いくつかは渡してやるし、中央に戻れたら便宜を図ってやる。エルクから取り上げるのに手を貸せ』


「はいはい、ここまでね。ひどい事言うね。さてマルニクス以外のこの人たちは誰でしょう? この女性はインガ商会のインガ。それとフォルカー商会フォルカーね。こちらの方はバルブロとペッテル。カルミア商会と名乗っているよね。ベルグンの裏を牛耳る組織の方ですね。ご存知でしたかぁ?」


 何人かが目をそらしたり、ふせたりした。


「次は別の日ですね。人が増えてます。あれ? この人知ってる。確か犯罪者で手配されてるオットーだ。あれあれ、こっちの人は見たことある気がするんだけど。誰かなぁ、フリッツ?」


『オットー、失敗しやがって。アイテムパックを見つけたのはいいが、手に入らねばなんにもならん。殺せよ! 殺してでも獲ってこい!』

『フリッツ様、あの子は魔法で灰色狼を倒したのでしょう? 領国軍に入れてしまえば思いのままではありませんか?』

『おお、そうか、それならいいか。領国軍に取り込んで奪う。訓練中に殺してしまえばいい。よしそうするぞ。もっと、力をつけねばエグモントを追い落とせん。先に生まれたからといって、なぜあいつが跡継ぎなんだ。俺のほうがずっとふさわしい!』

『そうですとも、フリッツ様』


「はい、ここまで。フリッツ、こんなこと言ってたんだ? それにしても麗しい兄弟愛だねぇ。あ、続きがあるんだ。どんな続きか心当たりがある人、いるでしょう?」


 応接室からフリッツが出ていった後、別の扉から男が入ってくる。


『ふん。バルブロ、インガ。早くあいつにおやじを殺させろ。アイテムパックを取り合って殺したでも構わん。おやじに飲ませてる毒では時間がかかりすぎる』

『しかし、あの毒であれば衰弱して、殺されたようには見えませんわ。早くというのであればフリッツをもっと焚きつけることにしましょう。そうそう、この間の少女は手に入りませんでしたが、ヨルゲン政務官の娘は算段がつきましたので、近々手に入りますわよ、エグモント様』

『そうか、それは楽しみだ。フリッツに上手くおやじを殺させろよ。長生きしすぎだ。いいかげん家督を譲ってもらわねば困る』


「あらー。ほんとに麗しいねぇ」


 兄弟はにらみ合い、ヨルゲンは怒りの顔で伯爵家の者たちを見ている。

 かわされた会話に、誰もが動けなくなった。


「伯爵、ちょっといい?」


 僕はそういって伯爵に近づき、手を動かした。


「魔法で囲った。物音がしないだろう? 私たちの声も周りの者には聞こえない」


 伯爵がうなずいた。


「伯爵、思い通りに三男に継がせられるようになったでしょ? この後の場面もあるけど、みんなには見せない方がいいと思うんだ。ベルグンの街が混乱して酷いことになるからね。……インガ、フォルカー、バルブロ、ペッテルはもらうよ。エグモントとフリッツはあなたの責任で処理しなさい。……僕に仇をなす者全てを、僕自身で殺してしまえば、すっきり後腐れなくなるんだ。もちろん、あなたと三男もね。どうする?」


 伯爵の顔色が、青を通り越し白くなる。


「命令書を一枚書いてくれないかな? カルミアに関することは銅証冒険者エルクに一任する、協力するようにって。そしたら後始末は領都警備隊にたのむから。それ貰ったら、報告会は終了でいい?」

「は、はい。お、お手数をおかけいたしました」


 僕が手を振ると部屋の音が聞こえてきた。


「さて皆さん、言いたいことはあるだろうけど、お静かにね。伯爵が後でゆっくり言い分を聞いてくれるそうだから。じゃ、伯爵あとお願いね」


 そう言うと右手を上げ、光の矢を腕の周りで回転させた。振り下ろしてドアに手を伸ばした男に放った。「バシィ!」と、目の前でドアに当たって弾け、男は手を引っ込める。


「……出るなと言われてるよね。次は頭に当てるよ。もうすぐ終わるから、大人しくしててね」


 伯爵は右筆を呼んで命令書を書かせ、サインをして僕に渡してくれた。


「じゃ、伯爵、僕たちはこれで失礼していいよね?」

「エルク様、お手数をおかけいたしました。ホルガー、冒険者の方々、ご苦労であった」


 僕は伯爵たちに優雅に一礼し、他の者と一緒に部屋をでる。


 武器や外套を受け取っていると、来た時に名簿を読み上げた官吏が「ご案内します」と、一行を入ってきた時とは別な方向に先導してくれた。


「馬車はこちらにつけるよう伝えています」


「……いったい……」


 そうギルド長がぼやくのに、ロッテと冒険者たち全員がうなずいた。


「気にしなくても大丈夫だよ、悪いことしてなければね。ギルド長、王都の話はまた今度ゆっくりね。忙しくなって、それどころじゃないからね」

「ああ、……本部にはこっちから連絡しておく」

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