パーティー大鹿の角


 東門から討伐に出発。ラドとヴィエラは同行せず、四人で南の森に向かって歩いていく。


 森に着き、オディーを先頭に、人が入った跡を進む。探知魔法には魔石を持ったものの反応がいくつかある。斥候はアザレアたち三人に任せ、僕は最後尾をついていく。

 みんなは狩人としての技量が高い。音を立てずに進み、僕が枝を踏み折ったりすると、非難の目を向けられた。


 ……うわっ! 僕かぁ。なんでみんなは音を立てずに歩けるかなあ。


 魔力の流れを感じ、逆らわないよう、乱さないよう歩くと、いくらかましになった。



 魔石の反応で僕にはわかっていたが、魔物に近くまで寄られた。

 角ウザギのようだ。オディーが気づき、みんなに合図する。使う合図は事前に教えてもらい練習済み。

 アザレアとラウノも弓を構えたがオディーが矢をつがえ放ち、見事角ウサギの頭を射貫いた。

 わずかな弓音と命中するかすかな音以外はしない。二の矢をつがえて辺りを警戒する。すぐに二匹目が現れ、アザレアが射る。

 全部で五匹の角ウサギを射殺した。獲物はアイテムパックに入れる。


 角ウザギはその名の通り、額に角が複数本あるウサギ。某ゲームの魔物に似ているが、前後の足指に出し入れのできる針のような凶暴な爪を持っている。確実に息の根を止めないと、この爪で手痛い反撃がくる。

 みんなは生きているかどうかを慎重に確かめている。


 次の獲物は、四つ目タヌキ。実際に目が四つあるわけではない。額にある模様が目に見える。威嚇か攻撃をそらすため? 見誤ると急所を外してしまうとのこと。

 森の奥に進み、角ウサギ、四つ目タヌキを合わせて十二匹追加したところで、小休止にした。



「僕の方が訓練が必要だね。どうしたら音を立てずに歩けるのやら」

「経験がものをいいます。エルク様は、訓練を始めたばかりの子どもたちよりは、静かに歩けています」

「ありがとう。獲物の取れ具合をどう思う?」

「この辺りは少ないですね。エルフである我々だから気がつきますが、気がつかずに通り過ぎてしまい、全く獲物がいないと判断してもおかしくないでしょう」


 オディーの言葉に、もっと効率よく出来ないか考えた。

 三人とも狩人としての技量は申し分ない。ラウノが魔法を使うほどでもないし。もっと大物でも大丈夫そうだね。


 探知範囲を広げると南東に大きな反応がある。灰色狼や狂鹿ほど大きくはないが、群れが三つほどいる。合わせて十五頭だ。


「このちょっと先が空地になっている。そこで実験をしたいんだ。南東に三つの群れがいる。魔法で空き地に呼び寄せられるか試してみるよ」

「……わかりました」



 空き地に出て待機してもらうと、魔力の手を群れに伸ばすイメージで魔法を使う。


「上手くいった。三頭狂猪きいのがくるよ。用意」


 空き地の南側から猪が三頭、飛び出してきた。下顎から牙が二本突き出し、頭が大きな平べったい角のように角質化している。

 二頭の額を複数の矢が射貫く。残り一頭はラウノの氷魔法、氷柱が額を貫いた。三頭とも、アイテムパックに入れて声をかける。


「次の準備いい?」

「エルク様、獲物は狂猪が続きますか?」

「うん」

「では、私は槍に変えましょう。エルク様、お願いします」


 オディーから預かっていた槍をアイテムパックから出して手渡す。弓を背負い、槍を素早く数度しごき、僕に向かってうなずいた。


「次、五頭。来るよ」


 五頭の狂猪が飛び出してくる。

 ラウノが氷塊で前足を地面につなぎとめ、アザレアが素早く連射して二頭を射止める。

 残りはオディーが駆け寄り、耳の後ろを槍で突いていく。短く悲鳴をあげて地にふしてもがいていたが、やがて動きを止めた。


「最後は七頭来るよ、ラウノ、魔力はまだいける?」

「まだいけます」

「よし。来るよー!」


 七頭が飛び出してくると先ほどと同じ様にラウノが足止め。アザレアが射抜き、オディーが槍で仕留めるコンビネーションで、すべてを倒した。



 アイテムパックに入れて、各自の矢だけ取り出して手渡した。


「エルク様、狩人の我々より先にお気づきになるとは」

「ああ、魔法だよ。探知魔法って僕は呼んでるけど、魔力を使って周囲を探ってるんだ。それで見つけた群れに、こちらに向かうように魔力を使う。誘導魔法かな」

「そのような魔法があるのですか。……知らない魔法がまだまだある。勉強したいところです」


 ラウノがため息交じりにつぶやいた。


「ここは、血の匂いがしてるから移動して休憩しようよ。西に同じような空き地があるんだ。そこまで行こう」



 その後も幾度かの休憩をはさみ、順調に狩りを続ける。しかし、エルフの弓ってほんと強弓だね。今の僕なら引けるだろうけどねぇ。普通の人は引けそうにないね。


 そろそろ魔力量が心配になってきたというラウノの言葉で、野営地を探すことにする。

 エルフは狩りの時は木の枝に登り、一晩じっとしているそうだ。僕とラウノがいるので平地に野営することにする。

 背後に大きな岩がある空き地。丁寧に隠されているが幾度も野営に使われているらしい跡を見つけた。


 野営地全体に見えない防壁を張る。空気や煙は外に出るようにして火をおこした。アザレアとオディーが両腕いっぱいの薪を集めてきた。

 僕が出す鍋や皿、食材で、ラウノがなれた様子で夕食を作ってくれる。鳥と羊の肉は焚き火で炙る。強火の遠火。屋敷の料理人が香草でマリネしてくれたもの。生地も用意てくれたから棒巻きパン、焦げが美味しいやつ。

 うん、どうせならBBQコンロや炭も仕入れておけばよかった。調味料も揃えようっと。

  


 ラウノの魔力が半日で切れかかった。……魔力譲渡や魔力吸収ってできないかな。

 羊のあばら肉にかぶりついているラウノを、見るとはなしに見る。


 ……ずっと考えてきたけど、魔力が存在しそれが事象に影響するのなら……。魔力には実体が有るんじゃない? なにか、そう、素粒子みたいなものが作用しているのでは?


 野営地から少し離れたところにある低木を、魔力を意識して見てみる。

 薄っすらと光が循環しているのを感じる。あの流れを吸いとれるかな。手をかざして、よーし、こっちこーい。


 全て吸い取ると枯れてしまうよね。光が半分くらいになったところでやめた。

 アザレアたちが僕を見ていた。


「葉が枯れかかっている。エルク様いったい……」


 次は吸い取った魔力を木に戻していく。少しずつ、細い流れで。


「葉が元に戻った?」


 なんとかなりそうだ。人体実、いやいや、臨床試験をしてみよう。


「ラウノ、ちょっと試したいことがあるんだ。協力してくれない?」

「はい、エルク様」

「不快かもしれないけど、ちょっと我慢してね。気分が悪くなったらすぐに言って」


 ラウノの魔力を見てみる。先ほどの木よりももっと薄い光が循環している。同じ様に極々少量をラウノの流れに沿わせて流し込む。


「……これは! 温かい。魔力が増えてる?」


 流し込みを中断した。


「魔力の具合は?」

「空になりそうだった魔力が少し戻ってます。温かいです。これは、何をなさったのですか?」

「僕の魔力をラウノに流してみたんだ。上手くいったみたいだね。次は流す速度を変えてみるね。もし上手く行けは、戦闘中に補充できて、魔力切れを起こさないかも」


 少し速くすると「熱いです」と返事があったので中断。

 異なる性質の粒子が混じり合う時の摩擦熱かな。見えているラウノの魔力に近づけたものを流す。

 不快感がないようなので、次は一度に流してみよう。身体に影響があると困るね。器を壊さず、あふれた魔力は自分に戻ってくるようイメージすると。


「あ! 魔力がもとに戻りました!」

「できたかぁ。魔力切れ対策はなんとかなりそうだなぁ」

「エルク様、何をされたのでしょう?」

「うん、魔力吸収と魔力譲渡の練習。ラウノありがとね。お陰で出来るようになった。普通のやり方と違うかもしれないけど」

「……魔力吸収と魔力譲渡?」


 三人は顔を見合わせた。


「……そんなことが出来るのですか? 聞いたことがありません」

「え? 魔力をさっきの木や周りから集めて自分のものにして、ラウノに魔力を受け渡したけど。……できない?」

「普通はそんな事できません!」


 三人は、ふるふると頭を横に振った。


「え、出来ないの? ああ、魔力は見えないんだったっけ? そうか、ガランのように魔力が見える能力が必要なのかな?」

「……エルク様……それは……戦う相手から魔力を奪って、自分や味方に魔力を授ける。む、無敵ではありませんか?」

「そーお? うーん。ね、ラウノ、火の玉を僕に撃ってみて」

「え、あ、はい、いきます」


 ラウノの火魔法で撃たれた火の玉が、僕の手に当たって、かき消えた。


「できちゃったぁー。火の玉に込められた魔力も吸収かぁ。僕に、攻撃魔法は効かないってことかな。ラウノ魔力返すね」



 その夜は、魔力や魔法について語り合ったんだ。魔族の魔法についても教えてもらえた。


 二泊三日の討伐中に、いろいろと実験もした。

 魔力の流れに合わせた可変式の防壁で、障害物を避けて森を駆け抜ける。

 僕の索敵知識を応用して、探知魔法で探知する対象をいろいろ試してみる。

 魔力譲渡で三人の魔力切れを避ける練習もした。


 狩りの時に食べるものについては、面白い話も聞けた。

 細く切った肉をゆっくり火で炙るか、天日で干す。次に石鉢で細かく砕き、溶かした獣脂とよく混ぜてこねる。

 干した木ノ実や果実も砕いて練り合わせる。味付けは少量の塩。保存がきいて狩りの間はそれを食べることが多いそう。お湯で溶かして食べたりもする。

 あれだ、ペミカンだね。魔王国は北方で雪も多いという。ピッタリの保存食だ。残念なことに、ベルグンに来るまでに食べきってしまったそうだ。人が考える食べ物はどこでもおんなじなのかな。

 魔王国にも、きっと美味しいものもあるだろうなぁ。サーモンみたいのがいればルアーが良いかな。


 充実した三日間だったと、僕は満足したが、三人は疲労困憊の様子だった。


 ……魔力を譲渡されると疲労がたまるみたいだね。譲渡するときには注意が必要だね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る