尋ねたいこと
翌朝、留守の間に寸法直しの服を取りに行くよう手配して、アザレアたち三人とラド、ヴィエラと馬車でギルドに向かった。
馬車の中で巻いたパンケーキを朝食に食べながら、僕はラドに話しかけた。
「ラド、こちらの情報は、どこまで漏れてる? あっちは何をつかんでる?」
「現在、あちらはエルク様を獲物としか見ていません。こちらが何かを狙って動いているとは思っていないようです」
「向こうに、ラドはいるの? 相手のラドはどう考えてる? 相手は常に自分の上をいく強者と考えないと足元をすくわれないかな?」
「……」
「最終的には力技でねじ伏せるけど、それは最後の策だよ」
「はい」
「できれば、相手の考えも情報として手に入れて、常に更新したいね。思わぬ伏兵がいないとも限らない」
「ええ、おっしゃる通りです。相手がオットーだからと油断していたと思います。もう一度関係者を確認してみます」
「手間かけさせて、すまないね」
冒険者ギルドは朝の賑わいの中にあったが、僕が入っていくと波が引くようにざわめきが消えていき、皆の注目が僕に集まった。なんで?
「……フーゴの手を切り落としたらしいぞ……」
「いやいや、頭を切り落としたって聞いたぞ」
「フーゴが後ろから短剣で刺したらしい」
「黒蛇の毒が塗ってあったって」
「貴族で魔術師だし、手を出したら危ない。他のメンバーにも言っとけよ」
僕はブリッタの列に並び、他のみんなは掲示板の討伐依頼を確認した。前に並んでいたものが順番を譲ろうとした。
「譲ってくれるのは嬉しいけれど、だめだよ。僕も順番を守ってちゃんと並びたいんだ。もしそれでも譲るなら僕はまた一番後ろに並び直すよ。さあさあ、ブリッタさんが困ってるから用事を、順番に済まそうよ」
僕の番になってブリッタが笑顔で挨拶してきた。
「今日はパーティーについて聞きに来たんだけれど」
「はい、『大鹿の角』のパーティー編成は承認されました。特に証書などはありませんが、今後は何かあれば、リーダーのエルクさんに連絡が行きます。また、パーティーメンバーが問題を起こせばリーダーに責任をとってもらうこともありますのでご注意ください」
「了解です。で、パーティーで狩った魔石の分配は、決まりがあるの?」
「ありません。各自が魔石を持ち込み、記録されます。……エルクさんが狩っても他の人の成果とすることは出来ますが、パーティー内での争いの原因となることが多いですね。ほとんどのパーティーでは、とどめを刺した者の成果としてます」
「今日これから、二泊三日の予定で森に行ってみるんだ。届け出とかって必要?」
「いいえ。依頼を受ければ届け出が必要になりますが」
「そう。今回は昇格用の魔石を狙って狩るから、特に受けないかな」
「討伐後でも、その時に依頼が出ていれば認められることがあります。お戻りになってから、掲示板を確認してくださいね」
「うん。で、鉄証に必要な魔石の数だけど……」
ブリッタの話では、木証から鉄証への昇格試験を受けるために必要なのは、低品質の魔石。角ネズミか四足コウモリなら三十個、角ウサギか四つ目タヌキなら二十個が目安らしかった。たとえ僕のように中品質でも、
「そうそう、魔術師ギルドから呼出状が二回来たんだけど、どちらも来いっていう時間を過ぎてから届いて、行けなかったんだよね。なにか聞いてます?」
「いえ、連絡先は聞いてきましたが、その後は何もないですね」
「そう、わかった。手間を取らせたね、ありがとう。またね」
「はい、また」
掲示板でみんなと合流するとオルガも待っていた。
「はーい、エルクちゃん。パーティー組んだのね。未来の花嫁としてはパーティー乗り換えたほうがいいかなぁ」
「オルガ、おはよう。それゴドに恨まれるから、なしで。ちょっと聞きたいことがあって声をかけるように頼んだんだ。食堂で話せる?」
「いいわ」
オルガにみんなを紹介した。
「それでね、聞きたいことは魔術師ギルドのことなんだ。呼出状が二回来たけど呼び出し時間が過ぎてから届けられてね。そんないい加減なとこなの?」
「呼び出し時間を過ぎて? 事務長ね。そういう、こすっからいやつなのよ。遅刻をネチネチ責めるつもりなんだと思う」
「やっぱりか。ねえ、魔術師ギルドって一般人に命令できるくらいの権力があるの?」
「ないわ。ギルドに登録している魔術師にはある程度強気に出るけど。やめられたら困るから、理由もなしに威張ることはないわ。礼儀も教養もあることになってるし」
「でも、届いたのは『呼出状』だったよ?」
うん、「呼出状」って言葉を聞いて最初に思い浮かんだのは、民事訴訟で裁判所から呼ばれたこと。前世で何度か被告にされたね。
理不尽な人って多かったからな。法律破ってなけりゃ、裁判なんてどこも怖くないよ。内容証明もね。必要なのは正しい知識。自己防衛のためにね。
訴えてやる! 訴訟、裁判、弁護人、内容証明、被告、原告、刑事、民事。言葉のイメージで、怖がってはだめだよ。
僕? 当然勝訴したけど、なにか?
「僕のこと、みんなが魔術師って呼ぶから、身分詐称を突っ込むつもりかな。自分から魔術師って名乗ったことないんだよねー」
「そうね、どうしたらなれるか聞いてくるくらいだものね。もしそこを突っ込まれたら私が証人になってあげるわ、未来の旦那様のためだもの」
「……ありがとう、オルガ」
「でも、ほんと羨ましいわ。エルクの魔法もっと見せて欲しい。ついていっちゃ駄目?」
「今日はね、こっちの三人の昇格用に魔石を集めるんだ。僕はエルフの狩りのやり方を教えてもらうだけ。戦うのはうちのみんな。僕の魔法はなし」
「ええっー。で、でも、魔物の索敵はするでしょ?」
「それもなし。だって狩人への弟子入りだもの」
……うそです、ごめんなさい。索敵用の探知魔法は、ほぼ常時発動してます。
「うー、意地悪ね。ああ、そうそう、ダーガが嘆いていたわよ。気にしなくてもいいけどね」
「エルクが剣を習いにこない」と嘆いているといって、オルガはギルドを出ていった。
剣の訓練、いきたいんだけどなぁ。目まぐるしすぎて。
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