ドロボー訓練?

 ラドに訓練の相談をした。


「今夜は夜間の侵入と防衛の訓練をしたいんだ。見つからないように敷地外から目的の部屋まで侵入。侵入した証を残して敷地外に出る。僕ら四人が一人ずつ順番に侵入。残った人と屋敷の人たちがラドの指揮で侵入を警戒する。見つかっても捕まらなかったらいいことにする?」

「そうですね。屋敷の者たちは技能も高いので、領主館よりも警備が厳重になると思います。捕まえることは可能でしょう。侵入と防衛、一度試してみて、問題点を見つけましょう」


 一階の応接室を標的に、まずは、アザレアが侵入役。ラウノ、オディー、僕の順に侵入役を交代することにする。


「能力を全部使うと、侵入者の行動がすべて感知できてしまうなぁ。僕は侵入役だけするよ」


 近所の守衛に誰何された時のために、屋敷の使用人が侵入役といっしょに外に出る。そこからスタート。

 アザレア、ラウノ、オディーの三人は、玄関から応接室までの間に、物陰にひそむ警備に見つかっちゃった。取り押さえようとした者と格闘になって、ラドから「そこまで」と止められた。



 僕は見つからずに侵入と脱出に成功。

 僕が、いっしょに外に出た使用人と応接室に戻る。


「じゃあ、講評と反省会をしようか」


 ちょっと手狭だが、応接室に警備やついてきてくれた使用人にも入ってもらい、飲み物を出して労う。


「エルク様が侵入、脱出とも成功ですが、方法がわかりませんでした」


 ラドの言葉にみんながうなずく。僕はたぶん難しい顔をしてたと思う。


「僕のは、あんまり参考にならないね。魔力まかせだから。そうそう、ちょっと試したいことがあるんだ。みんな見ててね」


 僕は壁に自分の記憶を映像化して上映した。ルキフェを立体映像で見せる方法を使って、二次元の映画上映をイメージする。


「で、僕が何をしたのかを上映しよう」


『このへんでいいかな。これラドへの伝言ね。僕がいなくなったら、十数えて、開いて読んでね』

『はい。かしこまりました』


 そう使用人に声をかけて折りたたんだ羊皮紙を手渡し、隠蔽魔法を使う。使用人が目を見開き、きょろきょろと見えなくなった僕を探している。十数えずに、すぐに羊皮紙を開いて読み始めた。


「ここいいね。言われた通りじゃなく、数えずにすぐ紙を確認。うん、さすが慣れてるね」


 紙片を読んだ使用人は、あわてて門に戻る。

 映像はフワリと宙に浮かび、使用人の上空をついていく。門衛に羊皮紙を渡してラドへの連絡を頼み、別れた場所に戻っていく。


「うん。任務中だから、自分の部署を離れないってことね。でも最初から複数人で僕についてくるべきだね」


 今度は門から伝令で移動する門衛の上空を、玄関までついていく。

 玄関扉が内側から開かれ、門衛と内部の警備が会話をしている間に、扉の上部をすり抜ける。応接室のラドに紙片が届けられる際にも、扉の上部を宙に浮いたまま通った。


 映像は応接室の天井付近からラドたちを見ろしている。ラドが紙片を読み上げる。


『ラド、さようなら。何もかも飽きちゃった。この街をでて、どっか遠い国で面白おかしく暮らすね。じゃあねー』


 しばらく考え込んだラドが、アザレアたちに尋ねる。


『どう思われますか? 本当にこの街を出ていかれるのでしょうか?』

『いえ、そうは思いません。エルク様が何も告げずに出ていくことなどありえません』

『この伝言だけで出ていかれることはないと思います。周りの人に対する様子から、エルク様は律儀な方だと思います。これだけで出ていかれるのは……』


「僕って律儀なのか。ふふふ、もっとわがままでいい?」


 僕の問いには誰も答えてくれない。わがままは駄目ってことかね。

 映像は応接室の壁際に置かれた執務机に移動する。一枚の羊皮紙が卓上に置かれた。だが、誰もそれに気がついていない。


『これはどんな罠でしょうか。警備の点呼と報告をさせましょう。伝言を』


 ラドの指示で部屋を出ていく警備のすぐ後ろを、映像がついていく。目をすがめ天井を見上げるラドを振り返りつつ、扉をすり抜ける。そのまま玄関が開かれた時に上部を通り車回しまで出る。

 すぅーっと浮き上がり塀を越え、使用人と別れたところまで飛んでいく。使用人の背後に降りて、振り向く驚いた顔で終わる。


「こんな感じ」

「空を飛べるのですか。エルク様には本当に驚かされます」

「うん、飛べるよ。内緒にしてね。でも、ラド、僕が応接室に入った時に気がついたでしょ?」

「……ええ、なにか変だなと思いました」

「魔力の流れを乱さず、呼吸音や衣擦れの音がしないように注意したけど、もっと訓練が必要だなぁ」

「大抵の人間なら気がつかないでしょう。しかし、この……えいぞうか……は見事なものです。声や音もするなど」

「それなりに魔力は使うよ。こんな魔道具が作れないかなぁ」

「……エルク様、もしこれが使えれば……」

「うん、そのための訓練も目的の一つなんだ。彼らの所に忍び込み、目撃することが出来れば、糾弾する時に使える。でも、僕の能力だから、裁定の証拠として提出は出来ないね」

「それでも、使い道は多そうです」



「ラド、四人の評価は?」

「……エルク様は論外です。お使いになった方法が特殊すぎます。他のお三方は、狩りの高い能力をお持ちです。玄関の扉、応接室の扉。そこから入ろうと、隙を伺っているところで発見されました。やり方が素直すぎると思います。隠れられる場所は少なく、警備もそこを注意して監視しています。もう少し発想を柔らかくする必要があると思います。エルク様、魔力を使わないで出来ますか?」

「うん。そうだなぁ、天井裏から入ろうとも思ったけど、壊すのもね。ついてきた使用人にお金で味方になってもらうとか、警備も抱き込む。誰かに客役をしてもらい来客対応の隙に、とかかな。一番確実なのは、隣近所に火をつけて騒ぎを起こす」

「隣近所に……火付けですか」

「そうですね、それも良い手でしょう。相手は人間。どんな手段でも隙をつくることができれば、と考えてみるのが良いでしょう。皆さんに私たちのやり方をお教えしましょう」

「ほんと、ラドたちからは面白い講義が受けられそうだね」



「明日はアザレアたち三人の訓練を兼ねて、三日間の魔物討伐に行くよ。用意をしておいてね。装備エーツー……じゃなくて今日渡した装備で集合ね」


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