新戦力


 にこにこと笑顔で、僕はアザレアのもとに戻る。


「アザレアさん、お二人も。あらためて、よく来たね。待ってたよ」

「はい、エルク様」


『二人も念話は使える?』

『はい』

『僕の正体は内緒にして、話を合わせてね』

『わかりました、エルク様』


「僕のことは、呼び捨てでいいよ」

「はい、了解しました。私のこともアザレアと」


「ブリッタさん、警備隊の詰め所は近いの?」

「……門にあるのですぐ来ると思います。警備隊の事情聴取に備えてお待ちいただけますか?」

「うん、食堂にいるよ。みんなも行こう」


 食堂で飲み物を飲みながら紹介した。


「アザレア、こちらはラドミール、押しかけの執事さん。ラドミール、彼女はアザレア、ジュストさんと出会う前に知り合って、一緒に旅をする約束をしているんだ。こちらの二人は、僕も初めてかな」

「オディーと申します」

「ラウノと申します」

「ラドミールです。エルク様の執事を務めさせていただいています。皆様よろしくお願いいたします」


 二人は中肉中背。オディーは黒髪で目の色は灰色。耳の形からエルフだろう。ラウノは黒髪黒目、とても整った顔をしているが、人混みでは目立たなくなりそうな地味な感じだ。


 警備隊の兵士が来たので、職員が事情を説明する。

 僕も事情聴取を受けた。フーゴは縛られ連行されていった。

 ギルド内は、後から来た者たちに事の顛末を話したり、僕たちを見て話す声で騒然としている。


 ブリッタのところに行くと、僕は小ぶりの革袋を取り出した。


「ブリッタさん、これ迷惑賃ね。掃除する人や職員さん、みんなの差し入れにして」

「エルクさん、お気遣いありがとう。毒だなんて。エルクさん、気をつけてね」

「うん、気をつけるよ。ありがと」


 アザレアは馬車に乗り、オディーとラウノは騎乗し、予定を変更して「宵の窓辺」に向かうことにする。


「ねえ、ラド、家の話を進めないといけないね。ああ、僕ってばおマヌケ。聞いてたのに馬の事を考えてなかったなぁ」

「知り合いの商人が持っている家を確認させていますが、馬小屋もあります。急がせましょう」

「うん。アザレア、着くのはもう少し後かと思ったよ。無理したね?」

「いえ、それほどではありません」


……この前よりも鋭さがあるかな。やせた? 警戒と緊張、馬での旅じゃ仕方ないか。服装も旅の汚れがね。ゆっくりお風呂には入ってもらって早目に休ませよう。


「今、家を用意しようとラドにお願いしているところなんだ。今向かってる宿はいいところだけどね」


 「宵の窓辺」でリリーに三人の部屋をお願いした。男性二人は二人部屋になった。

 食堂で昼を済ませ、お風呂を勧めて体を休めるよう伝える。


 僕は部屋に届いていた服を広げて、改めて深くため息をつく。

 この格好は、困ったものだねぇ。やっぱり自分で作り変えよう。どんなのがいいかなぁ。


 部屋にノックがあり、ラドが盆に手紙を載せて立っていた。


「エルク様、魔術師ギルドの使いの方が見えてこれをお渡しするようにと」

「手紙? ああ呼出状とか言われてたっけ。入ってラド」


 手紙は高圧的で事務的な内容。今日の昼に魔術師ギルドに出頭せよとあった。ラドに手紙を渡して内容を確認してもらう。


「ねえラド、これって今持ってきたんだよね? 今日の昼ってこれから?」

「はい、今持ってきたと宿から受け取りました。……昼はもう過ぎていますね」

「それに、その内容。出頭せよって失礼だね。理由も何も書いていないし。魔術師ギルドってこういう失礼な組織なの?」

「いえ、礼儀を重んじ、魔術を極める者たちの集まりです。出頭などと強制力を発揮できるのは、登録している魔術師に対してだけのはずです。ベルグンのギルド長は高齢で、事務長が業務を代行していると聞いています」

「あの相関図には組織しか、出てこなかったよね」

「はい。ベルグンの街では、魔術師に必要な事務手続きをするだけですので、特に関心を向けるべき人物はいませんでした」

「そう。じゃ、無視でいいか。後で文句を言われないように、届けられた時間なんか記録しておいてね」

「はい」

「そうだ、ついでで悪いけど、これ、昨日話した古い金貨と宝石だよ。お願いね」


 大きな革袋を取り出して、ラドに渡した。


「はい、了解いたしました。確認させていただきます」


 そう言うとラドはテーブルに中身を出した。金貨を見て、ラドの手が止まる。それは一瞬で、すぐに他のものといっしょに机の上に広げた。


「……この金貨は見たことがありませんね。宝石はかなり大きい。後ほど目録をお持ちします。換金と家の件でしばらく外出をさせていただきます。御用はヴィエラにお申しつけください」

「うん」


 午後は夕食まで、買ってきた服を並べてあれこれ考えて過ごした。買った服は贅沢で豪勢ではある。


 ……布と刺繍を大量に使うのが、高い身分や金持ちであることの証明なのだろうね。派手でもいいけど、好みというものがあるよねぇ……。


 皆で夕食を取り、食後のお茶では、くつろいだ雰囲気でアザレアたちの旅の様子が聞けた。

 他にも話しておきたいことはあるけど、アザレアたちの休息を優先して、早く休むようにさせないとね。


 ラドが報告してきた。


「家を借りることが出来ましたので、明日にはご案内いたします。問題がなければ、そのまま明日から使えます」

「うー、ほんと、ラドって。仕事早すぎない?」


 僕の言葉に、微笑むことはなかったけど、ラドの口の端がちょっと持ち上がった気がした。


「金貨と宝石は希少で珍しいと、宝石商が買い取りました。王都とフラゼッタ王国の顧客にも売りたいので、もっとないかと聞かれました。お渡しはお部屋に戻られてからにいたしますか?」

「まだお客さんがいるここじゃまずいよね。リリーに迷惑はかけたくないから部屋に戻ろう」


 部屋でラドから代金の革袋を受け取る。手数料を払おうとしたんだけど、頑として受け取らない。


 ……うーん。なにか別の形で払うしかないかな。


「それでね、あの三人には冒険者ギルドで木証を取らせようと思ってるんだ。で、みんなでパーティーを組む。鉄証に昇格したら、ベルグンを離れたい。それまでに、もろもろ片付けたいなぁ」

「了解いたしました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る