昇格試験
「エルク! お前は引き続き鉄証の昇格試験だ! 武器を得意なものに変えて、その場で待て! 他の者は帰ってもいいが、ためになるから試験の見学を認めるぞ!」
「え? 昇格試験?」
「あいつが、昇格試験? 鉄証の? 俺より小さい子どもなのに?」
「ねえ、ねえ。試験受ける条件って、魔石の採集とかあったよね?」
「うん、もう集めたの?」
「いやいや。登録ばかりじゃなかった? いま一緒に講習受けただろ?」
講習にでていた木証から、疑問の声があがったね。そりゃそうかな。
「エルク、この銅証剣士の冒険者、ダーガを相手にして、模擬試合を行う。勝てば合格だ。負ければ、次回までまた条件をこなして再挑戦だ。魔法の使用は許可するが、大怪我をさせたら失格だ。威力調整に集中しろ」
銅証剣士の冒険者と紹介されたのは女性剣士。
長身と長い手足を革防具に包んで、頭には革兜。覗いている髪は栗色、眼は青。痩身だが出るところは出て、凛とした美人さん。右手に木剣、左手は無手。
僕は先ほどと同じ。右手に木剣、左手には円盾。
向き合い、剣を顔の前に立てて一礼する。三人のギルド職員が審判についた。
僕を見つめるダーガの目はとても穏やかだ。彼女がすこし腰を落として構える。
……けど、あれ? 体が正面向き? 足はすこしだけ右前。で、つま先立ち? 違和感。うーん?
「はじめ!」
合図で、木剣を下段脇構えにしたまま、ダーガがするすると滑るように間合いを詰める。
切り上げてくる。僕が一歩引いてかわすと、切り上げた剣先が軌道を変えて、下がった僕を追いかけてきた。
連撃を木剣で払い、盾でいなすが、剣先がどこまでも追いかけてくる。
ダーガの剣。腕全体をしなるように使い、こちらの予測と、見た目の軌道、速度が微妙にずれる。かわしづらい。
足運びに技術があるのか? 間合いを取れない。虚を混ぜはじめ、僕の動きが誘導されてる。
……クウッ! 盾と剣がいっぺんに弾かれた! 正面にスキができる!
薙ぎの一撃を素早く下がってかわす。ダーガは前に出て身体を回転させ、完全に回りきらないのに、剣先が異常な速度で迫る。
とっさに後ろに跳んだ僕の顔ギリギリを、剣先が行き過ぎた。
「ヒャァー。剣を左に持ち替えてかぁー。すごいねー、おねーさん!」
連続して後ろに跳んで距離を開けて、僕は感嘆の声をあげざるを得ない。ワクワクして、嬉しくて、にっこり微笑んでしまうし。
ダーガはにやりと笑うと、剣を両手持ちにした。
「避けられるとは思わなかったよ」
再び間合いを詰めて振るうダーガの剣速が、あがった。
いなし、かわし、打ち払うがまた動きを誘導される。
横薙ぎをかわすと返す剣が膝を狙ってくる。素早く裏刃が狙ってくる。
僕は速度があがる剣の動きに合わせて、ダーガの横に並ぶ。
……くっ! しかたがない!
向き直る瞬間を狙い、ダーガの顔の前で、小さな火の玉を破裂させる。
目を閉じた一瞬に、ダーガの小手と胴に連撃を入れて跳び退る。ダーガは木剣を取り落し、手首を押さえた。
「それまで!」
「おお!」
「すごい、すごい! 途中から全然見えなかった!」
「両方とも速すぎる! あれが銅証かぁー」
見物人から驚きの声が上がる。
ダーガが、審判たちを呼び、何事か話していた。
……なんか、こういう時に聞き耳立ててるのってザンネンな気がする。他を聞こうとすれば薄れるね。なんでも聞こえればいいってもんじゃないから、これも練習が必要だな。
話がまとまったみたい。審判とダーガが僕に近寄ってくる。
「エルクの勝ちとする!」
「おおー!」
「これであの子、鉄証?」
「エルク、済まなかった。実は嘘をついていた。このダーガは銅証ではなく銀証剣士だ。ダーガの推挙もあり、エルクを銅証と認める!」
「ええっ! 銀証剣士! それをあの子が負かしたのか!」
「くぅー、銅証、銀証ってあんなに強いんだ。遠いなぁー」
「見習いから、鉄証を飛ばして銅証? なんなんだ、あの子!」
審判の言葉に、見物人が叫ぶ。
「エルク、受付に言っとくので、銅証を受け取ってくれ。みんなどうだった? 勉強になっただろう? お前らも訓練あるのみだ、頑張れよ。以上、解散だ」
興奮しながら訓練場を出ていく木証たちに続こうとしたところで、ダーガが声をかけてきた。
「エルク、お前は凄いな」
「いえいえ、あの剣速、足さばき、ダーガさんって強いですね」
「ダーガでいい。あの剣は誰に習った? 見たことのない動きだった」
「ああ、剣術として誰かに習ったことはないよ。何日か前に『嵐の岩戸』のゴドに、持ち方なんかは習ったけどね。速度には自信があるんだ」
「習ったことがない? うーん、そうか。銅証が出来るまで時間がかかる。少し話がしたい。時間をくれないか」
「いいよ、受付に行ったあとで良ければ。ギルドの食堂でいい?」
「ああ、では、あとでまたな」
ダーガはそう言うと、審判役の職員たちの方に向かった。
冒険者ギルドに戻り、受付にいくと、ブリッタのところには列ができていた。
人気者のようだ。空いてる窓口で、昇格試験のこと、銅証のことを聞こうとした。でも、ブリッタが専任だから彼女と話すよう言われる。伝言はしておくから、食堂で待つように言われてしまった。
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