とっても面白い


 ジュストの商館をでて、西に向かって細めの道を歩いていった。

 周りの家が段々粗末になり道も曲がりくねってきた。人は行き交っていたが、途切れがちになってくる。

 ゴドにベルグンの街について聞いたときに、西街は治安があまり良くないから行くなと言われていた。


 人通りが途切れた。

 横の路地から道を塞ぐように三人の男が出てきた。僕が足を止めると、後ろから声がかかる。


「小僧、持ち物置いて消えな」


 後ろを見ると二人の男が歩いてきた。五人は申し合わせたように剣を抜き、近づいてくる。


「みなさん、こんにちは。ずいぶんと直接的ですね。もっとあれこれ策をろうしてくれるのかと思ってたのに、がっかりです」

「なんだとこらぁ!」


 男たちの中で一番若そうな男が、凄んできた。


「いいから荷物を置いて行きな。そうすりゃ怪我はしない」


 僕は、思わず軽くため息をついてしまう。


「五人と。それと後ろのジュスト商会の人を入れて六人ね。最後の人は荒ごと、得意じゃないのかな。隠れたままだけど」


 そう言うと今来た方に駆けだす。壁を蹴って二人の頭上を超えて、路地から顔だけ出している男の背後に着地した。他の男たちは誰も動けない。

 ジュストの商館から冒険者ギルド、英雄の集い、宵の窓辺、冒険者ギルド、またジュストの商館と、ずっとついてくる者がいたんだよね。ジュストの商館を出るときに、オットーといっしょに僕を見て、話しをしていた相手。


「舞台に登場っと」


 ちょっと跳び上がって、隠れていた男の襟をつかんで倒す。そのまま引きずって歩く。


「さて、これで役者がそろったと。この劇の演出家は、まだだけどね」


 そうつぶやいた僕は、引きずられてわめく男を、五人の無頼の方に投げ出した。


「さてさて、みなさん、これで続きを始められますね。荷物を置いていけ、でしたっけ。これが欲しい?」


 僕は背のパックをおろして左手に持つ。


「あれだ、あのパックを奪え。ガキは殺しても構わん!」


 ジュスト商会の男が、無頼たちに指示する。


「はい、脅迫、強盗殺人未遂、同教唆ね。これで、いいかなぁ? よくなくても、確保に入るね」


 僕は男たちににっこり笑いかけ、跳び上がった。くるりと空中で回転し、六人の男たちの一番後ろに着地。

 ゆっくり歩いて近づき、一人一人、剣を持つ手に手刀をふるう。その腕を、確実に折っていく。六人目、ジュスト商会からきた男の膝頭を蹴りつけ、関節とは逆に折り曲げる。


「ねぇー、どうする? 全員歩けないように、膝、潰しとく?」


 路地に通じる道に、目立たない茶色のマント姿の男が、新たに入ってきた。

 僕はその男を知っている。数日間、一緒に旅をしてきたね。馬車でジュストの横に座っていた、御者だ。


「エルク様、連れて歩けなくなるので、膝はご勘弁を」

「そお? そうかぁ。じゃ、革ひもで拘束しとくね」


 ぼくはそう言うと、痛がるのも構わす、男たちを後ろ手に縛り、首を数珠つなぎにした。一人が逃げれば全員の首がしまる。

 膝を潰した男に近づいていった。痛みに悲鳴を上げる男に声をかける。


「痛いよねぇー。痛み、止めてあげようか?」


 涙と鼻水、よだれを垂らしながら、男は僕を上目遣いでにらんでいる。


「お、反抗的な目つき。痛いままでいいんだね。膝ぐらいじゃあ素直にならないのかな」

「ぐっ!」

「じゃ、こうしたら?」


 僕は折れた膝に足をのせ、徐々に体重を掛けていく。


「ぎゃー。ヒィ、ヒィ、おでがい、いだいがら……ヒュ……ヒュ……おでがい」

「うんうん。止めてほしいよね。素直にならなきゃね。じゃあ、頭、踏み潰してあげるね。死ねば、痛くないでしょ?」

「ヒィー!」

「あれぇー、死にたくないの? 痛くなくなるよ。……じゃあさ、僕からパックを奪うことを考えたのは誰かな? それがわかると、僕、すっごく助かるよ。お礼に痛いのを止めてあげたくなるくらい、助かるよ」

「ヒィー、ヒィー……オッドーざん、オッドーざんがばっぐをうばっでごいっで……」

「そう、ジュストさんのところのオットーさんが、エルクのパックを、殺してでも奪ってこいって、そう言ったんだよね?」

「ぞう、ぞうでず。オッドーにいわれまじだ」


 男は泣きながら、ぶんぶん首を縦に振った。


「んじゃ、どうしよっかな? 痛いの嫌だよねぇー。でもぉ、痛くなくなったら、そんなこと言ってませんなんて、よくあるよねぇ」


 男は今度は横に首をぶんぶんと振った。僕は顔を寄せて、男の耳にささやく。


「僕はね、いつでも君の膝を潰せるよ。君の頭もね。気づかないうちに、君の後ろに立っているんだよ」


 そう言って、歪んだ顔の男に、にっこり笑いかける。


「じゃあ、しかたがない。治してあげようね。特別だからねー」


 僕は、男の膝に治癒魔法をかけ、御者に向き直った。


「これでいい? もっと何か、おしゃべりしてもらうことはある?」

「……いいえ、エルク様、これで十分です」

「えー、もっと遊んでほしかったのになぁ。みんなも遊んでほしいよね? よね?」


 男たちは、青ざめた。


「ごめんなさい、冗談が過ぎました。ねえ、『様』はやめてもらえません?」

「了解しました、エルクさん。では、ジュスト様のところに連れていきます」

「はい。じゃ手伝います、って。んーと、五人、いや六人かな。お手伝いさんがいるのね?」


 御者は、僕を見つめて目を細める。


「……おわかりですか?」

「うん、相当やりそうな人たちかな、あなたもだけど。ねえねえ、一番若そうな彼女はすごいね。ジュストさんとこからずっと付いていてくれたけど。僕に敵対しそうな人、みんな排除してたし。もちろん釣り出したい人以外ね」

「……エルクさんは、ジュスト様が思っている以上の方ですね」

「えー、そんなことないよー。ただの子どもだよー。ジュストさん、旅の間もいろいろやってたし、面白かったよー」


 僕は、御者に笑いかける。


「ねぇ、あのさ、もしよかったら、僕に雇われない? もちろんジュストさんを裏切ってじゃなくてね。あなたたちのような、すごい人たちと生きるって、興味あるんだ」

「ありがとうございます。そう言っていただけるのは光栄です。ですが、今はジュスト様に雇われております。お受けいたしかねます。ご容赦ください」


 ……「今は」ジュストさん、にね。将来的にはわからないっと。いいなぁ、欲しい。


「はーい。戯言ざれごとが過ぎました。では、あの人を糾弾するのは、おまかせね。ああ、トピ。トピは僕のことをいろいろ聞かれて、親しいふりをされていたけど、道具に使えないかと思われただけ。彼に害が及ばないように、お願いね」

「はい、理解しています。ご安心ください」

「うん。じゃあ、またねー」


 男たちを任せると、僕は宿に向かって歩き出した。

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