追想 魔法をもっと試そう
「魔力がルキフェ並にあるというけれど。ふーん、確かに、力が体を巡ってる感じがするなぁ」
両の手のひらを見つめ、力を深く感じてみようとする。鼓動に合わせて手のひらから放出するイメージを持って。
「なんか出たような。色つかないかな? 金色? おお、光った、光った。いけたね。白は? うんうん、次、黒! 薄い赤色!」
体から色の付いた光が放たれたれる。あらゆるものに魔力があるそうなので、感じられないか試してみよう。
……周りに危険なものがいたらイヤだから探知系もどう? 詳しくイメージすれば魔法が使える。じゃあ、どうイメージしたら、探知魔法になるのかな?
「探知」
と声に出してみたが、もちろん何も起こらない。
映画に出てくるレーダーのように、魔力を放出し、何かにあたったら、反射して戻ってくる? 動物がいないかな?
解析する計算能力はない。物理現象の詳細まで知らなくても服を直せたから、結果をイメージして願えばよいか。よし! 魔力を放射!
「ギャー! 体の周りが動物だらけだ! い、息が! あれ? 動物、どこにいる?」
わたしは細菌など微生物を動物と認識しているらしい。対象を手の平以上の大きさにすると、遠くにいくつか存在がわかった。
鑑定も併用すると、生物の種類や危険度まで、おおよそわかるくらいに使えるようになったよ。
「こんな荒野ならネズミとかマーモットとかかな。岩塩をまぶして焼いて食べるってのが憧れの料理だった。うん、一度はモンゴルにイトウ釣りに行きたかったなぁ」
「試してみたいことがありすぎて、頭がクラクラしてきた」
あれこれ魔法を使ってみて、どのくらいの時間がかかったのか、時計が欲しい。視界の片隅にデジタル表示の時計を、無意識でも時を刻むように常駐させられないだろうか。
このティエラ世界についてもっと勉強してから時刻合わせをしよう、それまでは二十四時間の時計だ。時間そのものが前世と同じとは限らないけど。
物理攻撃用の武器も必要だろう。火薬や銃器類はないと聞いた。作れないことはないだろうが、社会のバランスを壊しそうだ。自分に使われるのもイヤだしね。
「やっぱり剣だろうな。弓は鍛錬必須だし、槍は携帯しづらい」
宝物庫にある剣を探してみる。バックソードのような剣を探す。十歳の体に合わせて短めがいい。
見つけた両刃の重いブロードソードを基にして、片刃の直刀で拳を守るガードを付けたものに作り変えてみる。切ることもできるが、主眼は突くこと。数分でできてしまった。
次はナイフを数本。アウトドア調理に使うシースナイフ。映画に出てくるサバイバルナイフを少し細身にしてみた感じ。この体では短刀といっても良さそうだ。
何本か作り、柄と鞘はバックソードとそろいの革製にする。
「帯剣に慣れるために装備したいんだけど、まだ武装をしない方がいい計画があるし。しまっておこう」
錬成魔法を使ったことになるのかな。思い通りの物を作り上げるには、もっと練習が必要だな。
攻撃魔法を試してみよう。
魔法といえば攻撃魔法。病が刺激される。だいぶ岩山の方に歩いてきたから、所々に大きな岩が露出している。これを的にしよう。
まずは定番の火の玉。使い勝手がいいということで、軽い小説やゲームでは最初に出てくることが多い。
指先に小さい火の玉をイメージする。ライターの火ぐらい。岩に高速で当たり、爆発するようにと飛ばす。
ズッゴォーン!
「ぐわぁー!」
大爆発と共に岩が跡形もなく吹き飛んだ。
衝撃波と熱風がくる。服が焼けて火だるまだ。肺も焼けたようで息ができない。全身大火傷で熱い、痛い。大失敗だぁ、と思った瞬間に痛みがなくなった。
……ルキフェが体に組み込んでくれた、自動発動の治癒魔法のおかげか。
岩のあった地面は溶岩のようにドロドロと溶け、赤く熱を放っていた。
「ライターの火ぐらいだったよね。近距離で使っていけない範囲魔法? 破裂するイメージが強すぎたのか、込める魔力の量か」
衣服を取り出して着替えて、別の岩に近づいていった。大きさは先ほどと同じ位で表面が滑らかな岩だ。
ごくごく少量の魔力を込めて、爆竹が弾けるくらいの爆発をイメージして飛ばす。岩の表面が「バシィッ!」と言う音とともに弾けた。
近寄ってみると、黒くヘコミができている。
「練習しないと使いこなせないねぇ。込める魔力量と効果のイメージも重要か。爆発放射の熱量は……」
ぶつぶつと呟きながら岩から距離を取り、今度は爆発ではなく熱線砲やビーム砲のように、穿つイメージで撃ち抜くように放ってみる。
的の岩を確認すると一センチほどの穴が空いて、向こう側が見えていた。
「フッフッフッ。なかなかなんじゃない? いいねぇー」
魔力量や距離を変えて何度も試射してみた。
「あ、あんな感じはどうだろう?」
思いついて、アニメでやっていたホーミングレーザーを試してみる。
宙に放り投げた岩を追いかけて当たる。障害物も避けて、背面にある的に当たる。複数目標をロックオンして同時に何十発も撃てた。
なんで光がジグザグに曲がるのかは謎だけどね。
連射速度、目標に当たるまでの速度も調整できる。
火ではなく水や氷、風、土なども試す。重力をコントロールして小石を弾丸のようにも投げつけられた。
岩本体を浮かせたり、投げつけたり、地中深く埋め込んだりしてみた。
「防ぐ方法も持っていないと怖いね。相手も同じことができる前提で、避けたり防いだりできないとね。でもなあ、実際に攻撃を受けないと効果がわからないか?」
二時間ぐらい試してみても魔力切れになったように感じないが、休憩することにする。
魔力総量と消費した量は、ゲームのようにMPゲージが出るわけではない。何となくわかる程度だ。
周りの岩山は穴だらけ。切断されていたり、溶けていたりでシュールな風景になっている。
陽はまだ高い。ここには季節はあるのか不明だが、特に寒いとは感じない。
適当な椅子とテーブルにコップを取り出すと、冷えた水を魔法で出して、喉を潤した。
魔法と物理学や科学、化学との整合性は、わたしの頭では答えが出なそうなので、なぜそうなるのかは考えないことにしよう。
自分で書いた軽い小説で、いつも頭を悩ますのはトイレと言葉だ。
「小用はまだいい。うん、肝心なのは大きい方。ボットンは無理。匂いと不潔感が無理。海外旅行でも『おしりだって洗ってほしい』があるホテルを選んでいたしなぁ」
魔法で解決してみよう。今は体が作りたてで胃腸になにも入ってないが、早いうちに試しておこう。温水と温風、浄化の組み合わせでできそうだ。肝心なのはイメージだ。
「水を出したのは空気中の水分? それとも空中ナントカ固定装置みたいなものかな。空中? 空中か。さっきのジャンプ。上手く使えば空を飛べるんじゃないか? 墜ちたらイヤだが」
まずは浮くことを思う。単純に魔力を放出するのではなく、作用に対して魔力を消費する感じで、ふわりと浮くように。
「おお、浮けた、浮けた!」
上下左右にゆっくり移動してみる。
「立った姿勢でのスムーズな移動は『移動』ではなく、もう『飛んでいる』でいいんじゃない?」
特撮モノのナントカマンみたいにジャンプするのではなく、ハリウッド映画の○ーパーマンのようにスーッと上昇できた。
速度を出して、ただただ高度を上げてみる。
だんだん肌寒くなってきたので、魔力を肌の表面に薄い膜のように広げてみると寒さを感じなくなった。
今度はバタバタと煽られる服が気になったので、戦闘機のキャノピーをイメージした空気の塊で風圧を軽減する。
「こりゃ気持ちいぃー!」
……前方に拳を突き出し自由自在に空が飛べる。拳を突き出す必要はないけどね。
高高度から景色を眺めてみる。岩山が多い丘陵、遠くには白い頂の山脈、広大な森林らしき緑一色の場所、茶色の荒野らしきものなどが見渡せた。
人が住んでいるような農地や街、村は見当たらない。
その後も休憩しながらも、思いつく魔法を色々と試す。
日が沈み、夜になったので光の魔法も使ってみる。暗闇に曳光弾のように光の玉を連射する。
夢中になりすぎて時間を忘れ、日が昇ってきてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます