追想 できることを
わたしはもう、がんで病死している。
ルキフェの望みを断っても転生できる。が、何に転生するのか、どんなところに転生するのかはわからない。
前世での意識や記憶はなくなるらしい。
微生物に転生するかもしれないし、あのイヤな黒い悪魔に転生して、台所を這い回るかもしれない。
……もしこのまま、前世の意識を持ったまま転生できたら? 今度は未練なく生きられるのでは? やり直しができるのはないか?
「魔族が幸せになるのを見たい?」
「見たい。あの子たちには、辛い思いばかりをさせてきた」
魂を繋げたことは、ふたりの距離を縮めたようだ。
「狂乱の原因を突き止めて解決しないとなぁ。魂たちの知識だけではわからないことも多いし。そのティエラ世界の情報がもっと欲しいかな」
「狂乱や復活場所が必ず魔王城になるのは、私にかけられた魔法か呪いではないかと考えている。誰かが私の代わりに魔王として出現したら、起きないのではないか?」
「ふむふむ。確かに、なぜ繰り返すのか考えると。誰かが仕向けている可能性もあるね。釈然としなかったのは、そこか?」
「エルクさんに転生してもらって調べるしかない。エルクさんが記憶を持ったまま魔王として転生すれば私の力を使えて、調べるのに役に立つのではないかと思う」
「おお、チートで魔王転生かぁ。あぁっ! ……あのう、ルキフェさん、ルキフェさん。魔王に転生って……わたしも……あの姿になるってこと?」
「うん? ……私の姿はイヤですか? そうですか」
「あ、ええっと、ごめん、あの姿がイヤとかじゃなくて……あ、あの……ほ、ほら、ほら神々しすぎて目立ちすぎると思うんだ。誰かに話しをするにも、相手に泣き叫ばれたらそれどころじゃないし。魂たちもそうだったんでしょう?」
「そうか、確かに」
「ええ、ええ、そうです、そうです」
ルキフェには悪いが、あの姿では自分の精神がガリガリ削られそうだ。そもそも街中を歩けないと思う。
「別の姿で転生したほうがいい。魔王の能力が持てればチート生活できるし」
「能力が使える別の肉体を用意して転生する、か。過去に別の肉体を支配しようとして失敗した。けれど、魂のない体にエルクさんを受肉させることはできると思う。実験してみるか」
「うーん、試すしかないね。他にも現実世界にいてルキフェさんと連絡が取れるのかとか、どこで情報を得るか、魔王国に協力者はいないか」
「受肉してからどうするかは、あまり考えてこなかった」
「そうかぁ。課題は多いな。……さっき『魔法か呪い』って言ってたけど、魔法ってあるの?」
「ん? あるよー。エルクさんの世界は極端に魔力が薄いけど、ほとんどの世界では魔法が使える」
グルーミングしているルキフェが答える。猫の演技はまだ必要かな?
「ほほう、どうやって使うのかな? 私も使えるようになる?」
「もう使ってるよ。この空間やコーヒーを出しているのは魔法と同じ能力。魔法のない世界の魂なのに、これほど使えることに驚いたんだ」
「これ全部、わたしの魔法? おお、実感ないけど、すごい。でも、詠唱とかしなかったし、魔法陣とか描かなかったし。魔法って意外と簡単なの?」
「……そう言われれば、勇者の仲間たちも魔族たちも、何かゴニョゴニョ言ったり、身振りしたり、魔法が発動するまで時間がかかるな。あれが詠唱と魔法陣かな。エルクさんが能力を受け継いで受肉したら、たぶん今と同じ様に使えると思うよ」
「詠唱と魔法陣で魔法を使う世界。そこで、わたしだけ無詠唱なのかい? ほんとにチートになるね」
「ちーと……って? さっきから使っているけど知らない言葉だ。どういう意味?」
「あ。ははは、ズルをするってこと。ちょっと人聞きが悪い言葉……」
……そりゃあ、おおっぴらに言うことじゃなかった、反省。
「そ、それよりこれからの計画を立てよう。魔王復活までの時間って猶予はあるのかな?」
「この空間は時間の流れがほぼないから、ある程度は自由になるよ。ああ、けど、まったくないわけじゃない。復活しないようここにずっといることにしたことがある。現実世界の二百年が経ったころに、望まないのに復活してしまった。あの時ほど過ごしてないから大丈夫だと思う」
「魔王狂乱の対策に、タイムリミットがあるってことか」
その後、様々な項目を挙げて検討した。やはり現実世界の情報が少ないので、ほとんどが要確認になったけど。
おおよその方向性は決めた。
受肉に関する実験も何度も
魂の入っていない体は限られた時間しか生きられない。準備が整ったら、わたしの魂を転移させるのだ。
……あれ? 転移? 異界転生じゃなくて異界転移? ま、どっちでもいいか。
ルキフェを後ろ盾とした後継者、新しい魔王として転生することになった。
ある日突然現れた者を、後継者と認めてもらうことは難しいだろう。自分がルキフェの姿になるのは勘弁だしね。
替わりに立体映像を見せることにした。
モデルが目の前にいるから細部まで同じにできた。ルキフェが二体、目の前にいることになる。冷静な画家の目で模写したとはいえ、しんどい。
精神耐性を上げる特訓だと思ってやったが、かなりの時間がかかった。
ルキフェの声を再現するのはもっと大変で、特訓ではなく試練だった。涙、鼻水、涎、失禁……。
さあ行こう。
ルキフェの記憶の中で見た、あの子の目が、脳裏を離れない。
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