第3話 名家で生まれたから

「京さん。そんなんじゃ他の家に顔向けできひんわ。」

そう冷たくお母様が言う。


「す、、すいません。次はちゃんとやります。」


「、、、、その次はいつくるんやろうなぁ。」

ピシャン、と京の部屋の襖を閉める。


中にいるのは京ただ一人。


「、、なんで俺はこんなにできないんや。」


当時の京都はなんにもできなかった。

運動や勉強、書道、華道等もやらされたが何もできなかった。


京都が生まれた家は代々京都府の都道府県を任されてきた一族で京都の父もかつて京都府の都道府県を務めていた。


当時の京都の幼名は【京】。


自身が務めている都道府県の文字を子の幼名に使う、と言うことはその子は次期都道府県と指名したのと同様。


故に京都は次期都道府県というものを背負いながら幼少の頃から生きてきた。


しかし、さっきも言った通り京都はあまり要領がいい方ではなく、すぐに母に愛想をつかれた。


父は都道府県の仕事で忙しくて、あまり家に帰ってこず、京都はますます鬱になりかけていた。





『はぁ。兄さんの子はあんなに立派なのに。なんでうちは、、。』


『花江さんに馬鹿にされるわ。』


『なんでこんな子になってしまったの?』



母の華奈子かなこは今の大阪の妹にあたる。

そのため京都と大阪は従兄弟でよく比較対象にされていた。



「絶対、、、見返してやる、、!」


そう決意してはや十六年。




京都府の都道府県という役職をしっかり全うしている。


けれどいまだに家族にはトラウマがあり、大人になった今は家族会議以外会わないようにしている。


会ったら幼い頃の事を思い出してしまうから。


♢♢♢


「栃木さ〜ん!!関東会議決定しました〜!」


愛媛の妹鶴が元気に栃木の執務室にやってきた。


「鶴、少々落ち着きましょうね。、、、関東会議、今期はいつやるのかしら?」


関東会議は春、夏、秋、冬、の季節ごとに行うのが伝統だ。


今は七月二十五日。

確か去年はもう少し早かった気がするが、、。



「来月の二日を予定しているようです。」


「遅いわね。他の都道府県で何かあったの?」


「実は埼玉さんが最近体調を崩しがちでして、、。、、じつは今危篤状態なんです。」


「、、、、そう。埼玉さん、、、。埼玉さんの代理は?」


「渋沢栄一さんになりました。」


埼玉の右腕、渋沢 栄一。


彼は幼い頃から埼玉の元にいた人物で埼玉三偉人の内の一人に数えられる。


埼玉に経済学を教えてもらい、着々と実力を上げていきついには【近代日本経済の父】と言われるようになった。


「埼玉さん、、。」


栃木も昔、埼玉の家に預けられていたのだ。


多忙な両親に代わって栃木を修行してくれたのは今の埼玉。

栃木にとって埼玉は師匠なのだ。


「、、、、後継って決まってるのかしら。」


「おそらく嫡男の玉城たまきさんなのでは?」


「、、玉城の世話係は?」


「まだ決まってませんが、、。、、栃木様?」


「会議用の資料を準備したいから一人にして頂戴。」

♢♢♢


埼玉県さいたま市のある屋敷にて、、。


「埼玉さん、、、。僕が代わりを務めますので、どうかご安心を。」


「、、、、、、、、、。」

埼玉がかすかに動いた気がしたが喋ることはできなかったようだ。



「、、、失礼します。」

そう言って栄一が埼玉の寝室を出た。


「、、、、ほんとに僕に埼玉さんの代理が務まるのだろうか。」

廊下でぽつんと不安をこぼすと後ろから誰かにこつかれた。


「あのねぇ、埼玉さんにご安心をって言ったのは渋沢でしょ。なに弱気になってんのよ。」


こついたのは白衣をきた荻野吟子だった。


「、、吟子さん。今埼玉さんは、、。」


「危篤状態。」


「、、、そんな!なにか、なにか助かる方法は?」


「渋沢、人間はいつか肉体がなくなるものだよ。埼玉さんはもう年だ。」


「、、、、。」


栄一が黙った。


現実と理想の違いについていけないのだろう。



吟子はなにも言わずにその場から離れた。

♢♢♢


「ふふふ。とぉちぃぎぃちゃぁ〜ん♡」

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都道府県、今日も平和 受験生 @zyukenn

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