バス通りを走ることはすぐに難しくなった。悲鳴をあげながら駅の方へ走っていく男女が邪魔なのはもちろん、それによってバスが立ち往生してしまっては進むどころではない。闇雲に走ってくる人々をかき分けようと志朗はもがいたが、逆に弾き飛ばされて背後の電柱で頭を強打した。思わずうめいて頭を抱える。その手に細い指先が触れてきた。


「大丈夫、八千原君?」


 心配そうに覗きこんできた里莉だったが、誰かに突き飛ばされたらしく、すぐに小さな悲鳴をあげながら志朗の胸元に飛び込んできた。といっても、身長差がありすぎる二人だ。なにか振れてはいけない柔らかい感触が志朗の頭に乗っただけだったが。


「こ、こっちは大丈夫。里莉こそ」


 慌てて里莉の腰に腕をまわして店舗と電柱の隙間に誘導する。里莉はなにが起こったか気づいたふうもなく「ありがとう」と礼を言った。志朗はひとり顔を赤らめて、それからそんな場合じゃなかったとバス通りの向こうを睨んだ。


 通りは駅前通りに食い込む形でT字路を作っている。音が聞こえてくるのはその突き当たりよりもっと遠く、緑化公園のある通りの方であるように思えた。その緑化公園にはあの川――怪異たちが潜んでいた領域がある。これで無関係とはどんな楽天家も思わないに違いなかった。


「ねえ、どうするの?」


 焦ったような里莉の声を聞いて、ようやく志朗は己にその問いを投げかけた。様子を見に行くのはいい。けれどもその先をどうするべきか。もしこの騒ぎに怪異たちが関係しているとして、ではカラスの雛としてはどんな態度を取るべきなのだろう。


「行ってみないことにはわからない。お前はここにいてくれ。俺が確かめてくる」

「いやよ。一緒に行くわ」

「お前の目的は相葉瑠々を探すことだろ。ここで余計な怪我でも負ったらつまらないぞ」

「八千原君が怪我をしても同じよ。あなたがいなければ瑠々と怪異が繋がることもなかったわ」

「だから、それはまだ未確定だって――」


 どん、と腹の底に響く音が地面さえ揺らして轟いた。周囲の人々が口々に叫びながらうずくまるのとは逆に、志朗は電柱に手をつきながら立ち上がった。


「じゃあ、好きにするといい。結果どうなっても責任は負えないからな」

「もちろんよ」


 自ら電柱と店舗の隙間から進み出て里莉が頷いた。


 バス通りへ逃げてくる人々は徐々にその数を減らしつつあった。それでも時折、連れ合いと見える二人組や遊びに来たとおぼしきグループが逃げてくる。彼らの間を縫うようにして志朗は進んだが、小兵が災いしてなかなか前へ進めない。気づけば、里莉が先に立って道を切り開いていた。


 クラクションを無闇に鳴らすバスの横をそうして進み、熱っぽくわだかまる排気ガスにまかれながらしばらく行ったところで、ようやくその横腹から抜け出すことができた。一気に広がった視界には、しかし駅前通りから徐々にバス通りへ流入しつつある薄灰色の煙しか見えない。無言で先を駆けていく里莉の背中を追って駅前通りへ抜ける。


「これって――」


 広いところへ出た途端、里莉が棒立ちになった。少し息を乱しながら志朗はその隣に並んで左右を見渡した。


 駅前通りは惨憺たる有様だった。玉突き事故を起こしたのか、トラックにのしかかられるようにして幾台かの乗用車が潰されている。緑化公園へ続く十字路では油が漏れたかなにかしたのだろう、日の光の中にも明らかな火の手があがっていて、煙の出所はそこだった。誰か、男か女かも判別できない人影が道路に横たわっている。それをなんとか引きずろうとする人影もあって、けれどもその視線は燃える車の上に釘付けになっているようだった。


 燃える車の上に、それは立っている。炎の照り返しを受ける胴鎧。手に持っているのは日本刀の類いだろうか、しかし時代劇などで見るそれよりずっと柄も刃も長いように見える。恐れる人々を睥睨する眼窩には文字通りなにも填まっておらず、そのぽっかりとあいた穴を潜った光が頭蓋の内側をてらてらと輝かせていた。


 骸骨の鎧武者、正式な名前は全か弓月に尋ねないとわからないが、そう言うのが今は正しいのだろう。見慣れているとは言わないが、似たようなものは数多く見てきた志朗である。今さらそれ自体に恐れ戦いたりはしないが、それでも驚かないわけにはいかなかった。その怪異は明らかに人間たちの目に映っていたのだ。


 しゃりんと音をたてて、骸骨武者の隣に新たな影が立った。こちらも胸当てらしき防具を着けていたが、武者とは反対に肉付きのいい二の腕をさらしていた。和装の裾をからげて惜しげもなく太ももを見せているその立ち姿は明らかに女のものだと思われたが、異様なのはその首から上である。鎖骨あたりまでは人間の女と変わらないのだが、それを過ぎたところから首は徐々に緑色を呈し、首の中途から幾本かに枝分かれしたかと思うと、その先々に大輪の赤い花を咲かせていた。


 骸骨武者はそのまま動かなかったが、花女――と呼ぶべきか、こちらは音をたてて車の上から飛び降りるなり、両手で握った薙刀を振りかざした。その目のない目線の先には倒れ伏した人間を救おうとしている人影が捉えられている。


 駅通りは一瞬、水を打ったように静まりかえった。転瞬、刃が風切って人影を撫でたと同時に、いまだその場に留まってカメラやら携帯端末やらを掲げていた人々が我先に逃げ始めた。


 再び突き飛ばされたが今度はなんとか踏みとどまり、志朗は吹き上がった血しぶきを眺めていた。


「八千原君!」


 隣で里莉が叫んだ。ゆるゆると目を向けてみると、彼女は逃げたいのか留まりたいのか自分でもわからなくなったのだろう、完全に腰の引けた体勢で体を震わせていた。


「逃げたほうがいい」


 志朗は里莉にそれだけ言うと、飛び散ったガラス片を踏みつけながら車道へ歩みこんだ。炎の勢いが強くなったのか、煙にまとわりつかれるだけで肌があぶられているような感じがした。


 十字路では花女が薙刀をさらに振るおうとしている。骸骨武者の背後にはまだ控えているものがいるのだろう、そちらへ近づくにつれて鎧のものと思われる音がガチャガチャと聞こえ始めた。それを証明するように、また新たな怪異が今度は二人揃って姿を現す。彼らが車から飛び降りるとまた一人、二人と車へ登ってきては車道へ降りてくる。目的がなにかはわからないが、辺りを警戒するように見まわす仕草からして、そこの守りでも仰せつかっているのかもしれない。


 わらわらと増えていく怪異の一人が――これは懐中時計に手足が生えたような姿をしていた――近づく志朗を見て長槍を構えた。車道に降りていた幾人かがそれに続いて得物を突き出してくる。向けられた切っ先や穂先から、少し距離を取ったところで志朗は足を止めた。


「お前たち、なんのつもりだ」


 自分でも間の抜けた問いかけだなと思ったが、それ以外に考えつく質問はなかった。即座に女の声が返った。


「カラスの雛には関係のないこと。放っておいてもらおうか」

「ここは人間の町だ。お前たちの居場所じゃない。悪いことは言わない。すぐさま立ち去ったほうがいい」


 これには嘲笑が返ってきた。


「雛がなにかほざきだしたぞ」

「俺たちの居場所じゃないだと?」

「では、どこに居場所があるというんだ」

「領域があるだろう?」と志朗は答えた。「居場所が欲しいからみんなで作ったんじゃないのか。あそこなら好きに暮らしていけるだろう? そこへ戻って、もうここへは来るな」

「あれは我らの城よ」女の声が答えた。「我らはこれより国盗りをするのよ」

「国盗り? お前たち、一体いつの時代の話をしてるんだ。今は戦国時代じゃないんだぞ」


 あくまで落ち着いた声を心がけて語りかけたつもりだったが、怪異たちの心には響かなかったらしい。なにかの含みを滲ませて怪異たちは低く笑った。


「なんにせよ、雛には関係のないこと」

「黙って立ち去るというなら手出しはせぬ。もとより事を構えるつもりはないからの」

「俺もその気はないよ」敵意のなさを示そうと、半歩後退りながら志朗は言った。それでも刃は突きつけられたまま、彼らに動くつもりはなさそうだった。

「ならば立ち去れ!」

「でも、ひとつ確認したいんだ。お前たち、人間と争うつもりなのか? これまでお前たちが無事にやってこれたのは、お前たちと人間が接点を持たなかったからだ。お前たちが人間の目に映らなかったからだ。どうやったか知らないけど、それを見えるようにして、人間を傷つけまでして、本気で国盗りだかなんだかしようっていうのか? それで無事に済むと本気で思ってるのか?」

「答える必要がありますかな?」


 聞き覚えのある声がしたかと思うと、車の上にはいつの間にかあの岩石男が立っていた。巨大戦艦による砲撃をどう躱したのやら、その肌にはひとつの傷もない。どころか、あの夜に弓月がつけた傷さえ見えなかった。


「しばらくぶりでございますな」岩石男は車から飛び降りると朗らかな笑い声をあげた。「雛殿におかれましても、ご機嫌麗しいようでなにより」

「……そういえば、お前の名前を聞いていなかったな」

蛾王がおうと申します。こうして再びお目にかかれたこと、大変光栄には思っておりまするが見ての通り、こちらは戦の最中にございまして」岩石男――蛾王は両手を広げて潰れた車の積み重なる十字路を示した。「雛殿が常に我らのことを考えておられるとは、手のものから聞いております。我らが頭も御身と争うとなれば悲しまれましょう。ゆえにこそ、お願い致しまする。ここは我らの思うままとさせてはくださらぬか」

「だから、そうする理由を俺にくれないかと言ってるんだ。俺はお前たちを否定しない。必要があることをするんなら、たとえそれが人の道に反していようと構わないと思ってる。人を怯えさせなきゃ存在する意味がないなら怯えさせればいい。人を食わないと生きていけないなら食えばいい。これまで、少なくとも俺自身は、そのつもりでお前たちと接してきたつもりだ。だけど、これはなんなんだ。人間を、人間の町を襲ってお前たちになんの得がある。破ってはいけない一線っていうのが怪異と人間の間にもあるんだとしたら、これこそがそうなんじゃないのか」

「わかり合えぬものですなあ」


 やれやれと言わんばかりに蛾王は首裏を撫でた。


「俺は理解しようとしているだろ。教えてくれ。なぜこんなことを――」

「雛殿、やはりお手前は人間だ」


 その言葉にハッと胸をつかれて志朗は言葉を呑んだ。言えなかった言葉とそんなことはないという反論とが喉元でぶつかり合って悲しく弾けた。脳裏をよぎったのは一面の雪景色、そしてそこに立つ金色の裾飾りが鮮やかな着物を着た人影だ。


「違う」と微かな声で志朗は言った。しかし、蛾王も怪異たちも、もはや志朗のことなど一顧だにせず背を向けようとしていた。ちがうともう一度言ったが、それが音を為したのかどうか、もう彼にはわからなかった。



 その年、日本中が数十年ぶりの大寒波に見舞われた。北は北海道から南は鹿児島まで凍死者が出て、驚くことに沖縄でも雪が降ったと聞く。日本中がそんな具合だったから神奈川でも何度か降雪があり、特に初雪の日は四十センチを超える積雪で小田原は真っ白になったそうだ。そうだ、というのはあとで聞いた話だからだ。当時の志朗にはそんなことすら知るすべがなかった。


 三層四階の大天守と長大な弧を描く湾の両方を臨む位置にあった和洋折衷の家もまた、雪に覆われていたに違いなかった。一階の東南北にある大窓は、もうずいぶん長いこと閉ざされたままである。二階の子供部屋があったほうは雨戸が半端に閉てられて、外から見たかぎりではその主が数年前に出奔したと噂の母親のあとを追っていったのか、はたまた私立校を退学してきた挙げ句の問題行動に走っている最中なのか、窺い知ることはできなかった。


 その雨戸が上品にノックされていたのはかなり前のことだ。時間が進むごとに騒々しさを増したそれは、今や誰かに力一杯殴られているような音をたてて木枠とぶつかり合っていた。時折、そこに鳴弦を思わせるうなり声が混じるのは、横殴りの風が窓をたわませていたからだ。嵐を連れてきた雲は空を覆い、そのせいもあって正午を少し過ぎた頃にも関わらず子供部屋にはほの暗い闇が落ちかかっていた。


 息を吐けば白く凍るに違いない極寒の底に横たわり、しかし、志朗はそんなこともできずにいた。唇はがさがさにひび割れ、数時間前まではそれでもひゅうひゅうと微かな笛の音をたてていたのだが、もはや音を発することもない。両眼は時折瞬きをするだけの穴同然で、もはやなにかを求めて動くこともなくなっていた。


 ――寒い。


 言葉を思い浮かべるのもおっくうな熱さに頭の中を焼かれながら、志朗はようやくそんな感想をたぐり寄せた。暖房も焚かれていない室内で毛布一枚を頼りにしていたのでは当然だったが、そんなことにも気づけないほど怠くて仕方なかった。毛布の隙間から染み入る寒さで四肢は感覚を失って久しい。けれども、それを言葉や概念に昇華できるほどの考えを巡らせることもできず、もうずっと長いこと置物のようにして転がっていたのだった。


 どれほどそうして転がっていたのか――そうなってから何日が経ったのかすら算えることができなくなっていたし、自分が眠ったのかどうかすらはっきりとはわからなかったので、もしかすると一週間くらいは経っていたのかもしれない、唯一まだまともに働いていた耳がぎしぎしと階段の軋む音を捉えた。次いで子供部屋の前で鍵がガチャガチャと操作され、それで中に誰かが入ってくることがわかった。扉の軋む音、ビニールや紙がにじられる音、連続して聞こえていた音は志朗の目の前まで来て、それからぱったりとやんだ。その誰かはずいぶん長いことそうやって立っていたと思う。


「死ぬのか」


 やがてそれは低い声でそう言った。


「死んでしまうのか」


 誰の声だろうとぼんやり考えていた志朗は、二度目の声を聞いてようやくその名を呼んだ。


 ――お父さん。


 声に出そうと頑張ってみたが、舌がもう動かなかった。なんとか応えようと手を動かしても、指先が毛布の冷たい毛束を掻くばかりだ。


「そうか」


 父の声が再びした直後、どんなに引き寄せても冷たいままだった毛布が離れていったかと思うと、全身がふわりと浮いた。過日、まだ母が家にいた頃のように抱き上げられたのだと理解したのは、体をしばらくゆらゆらと揺らされたあとだ。父は雨戸をすべて閉ざした一階まで志朗を運ぶと、玄関脇の壁に寄せて座らせようとした。けれど、志朗には体を支える力がすでにない。くたくたとその場に倒れ込むのが気に入らなかったのか、父は何度か首を据わらせようとしたり、上体を抱きかかえてそこへ寄りかからせようとしたりと苦心していた。


「死ぬんだな」


 父はまたぽつりと言った。そんなことないと伝えたく、志朗は残る力を振り絞ってみたが上手くはいかなかった。体の中心はかっかと燃えさかっているようなのに、先端に行くほど急速に冷たく重くなっていって、指先などはどこか遠くの方に落っこちているみたいにそこにあるという実感がない。それでもなんとか唇を震わせて志朗は言った。


 ――ただの風邪だよ、お父さん。


 しかし、父には聞こえなかったものらしい。彼は志朗を座らせることを諦めると、今度は体がくずおれるままに放置して家の奥へ引き返してしまった。


 ――お父さん。


 いまだに思考はおぼろながら、志朗は繰り返した。


 ――お父さん。


 目頭の熱くなる感覚が久しぶりにしたのは、このままひとりぼっちにされるかもと怖くなったからだ。闇の底で志朗は父を呼び続けた。応えらしきものがあったのは、それから幾ばくもしない頃だった。といっても、父がなにかを言ったわけではない。再びその胸に抱えてもらったことがわかっただけだ。続けてびょうと風の鳴く音がし、ぱちぱちとなにかが体の表面にぶつかって弾ける感じがした。いっそうの寒さが全身を押し包み、しかし体を震わせることもできずに志朗はされるがままに揺らされていた。


 やがて、寒さが少し遠のいたかと思うと、なにか柔らかなものの上に寝かされた。バタンと大きな音が近くでして少し驚いたが、続けて体全体に響いてきた振動で状況を理解した。車に乗せられたのだ。


 病院に行くのかな、と志朗はぼんやり考えた。最初のほうは熱と鼻水が出て、頭がぐらぐらしたのだった。差し入れられるコンビニのパンや袋菓子など到底食べられる気がしなくて、とにかく横になっておとなしくしていれば治るはずと毛布に潜り込んだ。そのあとのことはおぼろである。ひどく咳が出て胸が痛かったような気もするし、息苦しくてこのまま死んじゃうんじゃないかと怖くなったような気もするし、すべては夢の中の出来事であったような気もする。そうこうしている間に寒さが厳しくなって、相変わらず頭は痛いしお腹はすくしけれども食べる気がしないしと躊躇っている間にすっかり動けなくなってしまったのだ。きっとあとでひどく叱られるに違いない。もしかしたら手が飛んでくるかもしれないが、今回は完全に自分が悪いのだから仕方ないと受け入れる覚悟でいた。


 車内に暖房が効き始めてようやくうとうとすることができ、次に目を覚ました時には振動は収まっていた。自分がどうなったのかしばらくわからなかったのは、周囲が不気味に静まりかえっていたからだ。寒気が再び全身を包んでいて、今度は体の下にまで凍えるような冷たさが広がっていた。視界は真っ暗に塞がれてなにも見えなかったが、その黒い色の中になおいっそう黒い山のようなものが見えていた。山はしばらくそのまま佇んでいたが、おもむろに動きだしたかと思うと志朗に覆い被さってきた。


 ――なんだ、お父さんか。


 慣れ親しんだ匂いに鼻先をくるまれて志朗は微笑わらった。これから病院に行くところだろうか、それとももう帰るところだろうか、どちらかはわからないにしろ、もう心配は要らないのだと安堵が兆した時だった。唐突に、体がバラバラになったような感覚に襲われた。胃の腑が浮き上がって、遠いところで手足がでたらめに宙を掻いた。熱に浮かされた頭がまた風景を揺らしているのかと思ったが違った。相変わらず目の前は真っ暗でなにも見えないままだ。


 ――お父さん!


 助けを求めて呼ばわって、それでひやりとした。声が、出ていなかった。必死に叫んでいるつもりなのに胸が膨らんだ感じがしない。寒さの中で息を吐き出すと口の中がぼうっと温かくなるはずなのに、その感じもしなかった。


 ――お父さん、助けて!


 体中から力をかき集めて叫んだと同時にぐわんと頭が揺れた。ばたばたと体の上に手足が落ちてきて、それが胸を圧したのか、なんとか吸えていた息が詰まって苦しくなった。直後に志朗は聞いた。どさり、となにかを落とす音だ。どさり、間を置かずにもう一度聞こえた。もう一度、もう一度、そのたびに体が重くなった。腹の上に、胸の上に、投げ出した手足の上に、なにか恐ろしく冷たくて重いものが被さってきていて、それはやがて顔にまで及んだ。


 目が火のついたように痛みを発して、それはなにか湿った塊が目の中に入ってきたからだった。鼻にも口にもジャリジャリとしたものが詰め込まれていき、ほとんどパニックに陥っていたはずだ。なにが起きているのか、自分がどうなっているのか、まったくわからないでいるうち、次第にプールの中で息を止めた時のように頭蓋の内側がガンガンと痛くなってきた。


 手足を動かそうにも力が入らない。瞬きするたびに目が痛み、息を吸おうとするといっそう苦しくなった。やがてすうっと全身から魂の抜けるように力が抜けていくのがわかった。するとどういうことだろうか、なぜだか全部が楽になったのだ。


 体の熱さも手足の冷たさも息苦しさもなにも感じない。真っ暗闇の中で怖かったはずなのにそれもどこかへ行ってしまって、なにかとても幸せな感じがし始めていた。重いけれど暖かなものが全身を覆っているようで、久しぶりに手足との距離が近くなったような気さえした。段々と眠気が近づいてくる気配がして、多分、笑ったと思うのだ。なぜなら、声が聞こえた。優しい声が自分を呼んで手招きしている、そんな絵が暗闇の中にはっきりと見えた。志朗はその誰かに手を伸ばそうとして――一気になだれ込んできた空気を激しく吐き出す羽目になった。


 先ほどまでの幸福感が嘘だったように、すべてが苦しくて重くなっていた。口に何か太いものが突っ込まれていて、それが喉の奥までつついてくるものだから嘔吐かずにはいられなかった。勢いよく口の中のものを吐き散らして、ついでに口内をまさぐってくる太いものを舌で追いやって、涙で歪んだ視界がところどころ黒く塞がれているのに恐怖して、めちゃくちゃに手足を動かしていると全身が温かな布で覆われた。


「よくぞ辿り着いた」


 深い声が頭上から聞こえた。止まらなくなった涙を拭おうとしたが、腕はピクリとも動かなかった。けれども先ほどまでとは違うことに、腕は遠くにあるのも冷えきって重いのでもなかった。誰か大人のような体を持った人に抱きすくめられていて、それで動かないのだった。


「これぞ其方の終着、因果の果てよ。此所より先にはなにもない。此所より後にも、もう戻れはせぬ。よくやったぞ、褒めてつかわす」


 そこでその人は抱きしめる力を弱くしてくれたらしかった。腕をようやく持ち上げて志朗は目を拭い、その指先にこびりついた泥に驚いて目を瞠った。振り返ってみれば、四方は雪をかぶった木と斜面に囲まれていて、それ以外はなにもないと言ってよかった。否、白く雪の積もった地面に一カ所だけ黒々とした土の色を覗かせている個所があり、よく見てみるとそれは深く掘られた穴だった。


 まさかという思いと先ほどまでの体験がさあっと頭の中を駆け巡り、恐る恐る自分の体を見下ろしてみると部屋着のシャツとズボンはどこも土で汚れていた。慌てて両手で土をはたき落とそうとしたが、それ自体が土まみれだ。どころか頭の上から鼻の先、シャツの下やズボンの中に至るまで、雪の染みた土がべったりとこびりついていた。


現照日あらてるひ……」


 呆然として志朗はその人の名前を呼んだ。いや、その人は人間ではないのだった。彼は太陽の化身、カラスを本性とする怪異だった。たしかに、そうでなければこんな鬱蒼と木々が生い茂る雪山で、しかも空が真っ暗なことからして深夜なのだろう、そんな中でこんなに暖かな体を持っているはずがなかった。


 確かめなければいけないことがぽろぽろと頭の片隅から胸の中心に落ちてきて、けれども志朗が言ったことは「お父さんは?」ということだけだった。


「おらぬ」と、現照日は答えた。

「そんなはずないよ。だって、さっきまでここにいて――」


 ぞっとそのことが心に染みた。あの穴の中に先ほどまで自分はいたのだ。では、それを掘ったのは、そこに自分を入れたのはと考えれば答えはひとつしかない。腑に落ちてしまえばあとは簡単だった。そうか、と思った。お父さんは自分のことが要らなくなったんだ。だから、捨てたんだ。


 振り仰ぐと、現照日はじっと志朗を見下ろしていた。その様子はまるでこちらがなにか言うのを待っているようで、それで志朗は尋ねた。


「お父さんがどこに行ったか、知ってる?」


 現照日が首を振ったので志朗はもう一度辺りを見まわし、それから斜面を降り始めた。先ほどまで重かったのが嘘のように、体は軽々と志朗の思う通りに動いた。足は裸足だったし、服は汚れた薄着のままだったが、なぜか寒さは感じなかった。


「何処へ行く」と、現照日の声が追いかけてきた。

「僕、行かなきゃいけないんだ」志朗は答えた。「助けてくれてありがとう。だけど、ごめんね。僕、急ぐからさ」

「今さら何処へだ! 事の次第は判っておろう!」


 叫び声が背後から呼び止めてきたが、それでも志朗は足を止めなかった。言われるまでもない。全部、全部判っていたが、それでも確かめねばならないと思ったのだ。


「うん。僕は要らなくなったんだよね。だけど、ちゃんと確かめないと。お父さん、強がりだから。本当は独りで泣いているかもしれない。お母さんみたいに全部なかったことにして、一からやり直すつもりならそれでいいんだ。でも、もし、そうじゃなかったら。僕はお父さんと一緒にいてあげないといけないから」

「いい加減にせぬか、愚か者め! 良いか! それはな、其方の夢だ!」

「愚かでも夢でもいいよ!」


 ついに立ち止まり、振り返って史郎は叫んだ。現照日は穴のすぐ側に佇んだまま、厳しい眼差しでこちらを見ていた。金の裾飾りが美しい黒い着物がバサバサと横殴りの風雪に揺れ、けれどもちっとも寒そうでないのがやはり怪異の証だと思った。


「それでも、僕だけは行かなきゃ駄目なんだ。だって、お父さんの子供は僕だけだから!」

「父御はおらぬ!」


 負けずに怒鳴り返され、志朗はカッと腹の底が熱くなるのを感じた。


「そんなことない! 絶対、家に帰ってるんだから!」

「痴れ者め! 妄言も大概にしておけよ。あれほど喪失を恐れた男が貴様を置き去りにしたと? 山河を越え、土を掻き、貴様を埋け、あまつさえあの家に独りで帰っただと? できぬ相談よ。あのような男にはけっしてな!」


 ぽかんとして、志朗は言われたことを頭の中で繰り返してみた。お父さんは自分を置き去りにしたんじゃない、それはどういうことなのだろう。家に帰ったわけでもないって、どういう意味だろう。


「とどのつまり、彼奴は世界を埋葬したかったのだ」硬直する志朗を哀れむように、あるいは慰めるようにだろうか、現照日は少し声を和らげて言った。「己に許された領分が絶える前に、此度こそ、その全てを悼んでみたかったのだ。それこそが彼奴の見定めた悲願、終の仕事であった」

「お父さん、もういないの?」


 なんとかわかる言葉だけを拾って、咀嚼してみて、その末に震える唇で志朗は尋ねた。


「そう言っておろう、馬鹿者めが」

「嘘だ。嘘だよね。だって、お父さんが、そんな……」

「聞き分けよ。父御はもうおらぬのだ」

「違うよ。そんなはずない。帰ったらお父さんはちゃんといる。いつもみたいに家にいて、仕事してて、僕に気づいたら早く部屋に戻らないかって怒るんだ。外に遊びになんか行っちゃ駄目だって、ちゃんと家の中にいなさいって言うんだ。そんなことない。そんなことないんだ!」


 涙があふれて目が痛いのか、まだ土くれが目の中に残っていて痛いのかわからなかった。必死に頭を振る志朗に現照日は歩み寄ってきて、そうして手を伸ばすとしっかりと胸に抱き込んでくれた。温かさが染みるにつれて、涙はさらにあふれて止まらなくなった。


「改めて命じるぞ。我と契約せよ。其方の命数は既に尽きておるのだ。此所に立つ其方は我が力で存える影に過ぎぬ」


 ばさり、と着物のたもとをまるで翼のように拡げて現照日は志朗の頭を抱いた。


「今一度、魂を熾せ。其方にはその価値がある」


 泣きわめく志朗の背を、現照日はいつまでも撫でていてくれた。そうして志朗は体が温かくても心が寒くて凍えるということを、この日、初めて知ったのだった。



 遠いところで誰かが叫んでいるような気がした。水の底から地上の声を聞くように、それはひどく歪んでひび割れていて、なんと言っているのか、なにを意味しているのか理解することはできない。それでもひとつだけ、とても切実な音をしていることはわかった。なにか重大なこと、それを失えば自身が自身でなくなってしまうような、そんな大事なことを言っているのだとぼんやりと志朗は思い――鼓膜を叩くその声がするほうへ顔を上げた。


「やめなさいよ!」


 声はそう叫んだ最後に金切り声のような悲鳴をあげた。荒く肩を上下させていて、志朗をかばうようにその前に立っている。白い上衣の裾がビル風に膨らみ、汗をまとってわななく肌色がその奥にちらちらと覗いていた。


「瑠々がいるのよ! その人にも! みんなに! きっと瑠々がいるんだから!」

「――里莉」


 志朗がその名を呟くと、彼女はぱっと振り返った。汗に濡れた頬がそれだけではない水滴で汚れている。


「八千原君、なんとかできないの!? やめさせてよ! あんなのやめさせてよ!」


 潰れた声で悲痛に言い、里莉はしゃくり上げた。今、自分は何をしていたんだろう――不思議に思って周囲を見渡すと、そこは駅前通りのど真ん中だった。周囲に人間の姿はない。無事に逃げられたのかどうかは知れないが、少なくとも血の跡があるのはあの花女が薙刀を振るった一カ所だけだった。


 いつもは人でごった返している通りをかわりに満たしているのは怪異たちだ。彼らは志朗たちに手出しをするつもりはないらしく、その姿は遠目に見えるばかりである。飲食店の看板を蹴倒すもの、放棄されたと思われるバスの屋根で跳ねているもの、ところ構わず硝子を割ってまわるもの、そしてやはり十字路を守っているらしきものたち、その有様は三流映画の描く世紀末のようだった。八千原君、と繰り返されて志朗は首を振った。


「駄目だ、里莉。俺にはできない」

「どうして!」

「俺はさ、人間に――父親に捨てられたんだ。風邪をひいて死にかけてたのを、まだ生きてたのに雪山に埋められてさ。助けてくれたのは怪異だった。俺を掘り起こして、命をつないでくれて、ここまで育ててくれて、見守ってくれて。人間はなにもしてくれなかった。父親からひどいことをされてても、先生も友達もその親も見て見ぬふりするんだ。腹を空かせてた俺に食べ物をわけてくれたのは、綺麗な世界の物語を読み聞かせてくれたのは、家に帰りたくない俺を慰めてくれたのも、全部怪異だった。俺、人間は嫌いだよ。大っ嫌いだ。人間は優しい顔で冷たいことをする。だけど、怪異は違ったんだ。だから俺、みんなの力になりたいって、みんなの為ならなんでもできるって」


 でも、と続ける声が引き攣れた。


「こんなのどうしていいかわかんないよ。俺、駄目だ。できないよ。だって、わかるだろ? こいつら止まんないよ。ちょっと脅したぐらいでどうにかなるなら、こんなこと最初っからしない。本気なんだ。それをどうにかしようと思ったらさ、方法はひとつしかないじゃないか。でも俺、そんなことしたくない。できないんだよ」

「じゃあ、見ているの!?」


 胸ぐらを掴んで揺さぶられたが、それでも答えは見つからなかった。


「人間が殺されているのよ! 怪我人だってきっと出ているわ! そして、そういう人たちにはきっと瑠々がいるはずなのよ! あの壊されているお店だって、車だって、誰かにとっての瑠々かもしれない! 私、そんなの見ていられない!!」

「どうだっていい!」


 ついに志朗は心の裡をそのまま叫んだ。目を丸くした里莉が掴む力を弱める。乱暴に服地を取り戻して志朗はもう一度叫んだ。


「人間なんかどうでもいいんだ、俺は!」

「八千原君、あなた人間でしょう!?」

「そうだよ、お前みたいな怪異から見れば俺は人間だよ。でも、そうじゃない。人間から見た俺は人間じゃない。俺はきっとあの日、雪山に捨てられたあの日に人間でも怪異でもなくなったんだ。どっちでもない、だからどっちからもお前は違うって言われる。だったら、俺は空きにするよ! 助けたいほうを助けるよ! そして、それは人間じゃないんだ!!」


 きゅっと唇を結んで里莉は志朗を見つめた。その眼差しは悲しむようであり、同時に哀れな小さな生き物を見るようでもあった。逃れるように志朗は彼女に背を向けた。そういう目は嫌いだった。人間にもなれず怪異にもなれない、そんな自覚を促すような眼差しは大嫌いだった。


「じゃあ」と、震える声で里莉が言ったが、志朗は振り返らなかった。そうだ、と思った。弓月はどうしているだろう。駅のいつものところでと言ったが、この状態ではたどり着くのに難儀しているだろう。少なくとも事態は目の当たりにしているはずだが、まだこちらを目指してくれているだろうか。彼と一緒にいれば少なくともこれ以上惨めな思いはしなくて済む。弓月からのメールに住所が書いてあったことを思い出し、尻ポケットを探る。その手を掴まれた。


「それじゃあ、私のためにどうにかして」


 そのまま引っ張られて振り返る羽目になる。そこにある目の色を想像して嫌な気持ちが湧いたが、しかし、実際に目に飛び込んできたのは決意に満ちてきらめく眼差しだった。


「怪異のためならなんだってできるんでしょう? だったら、私という怪異のために働きなさい。あいつらを止めて。みんなを助けて」

「それで……お前になんの得があるんだ」

「瑠々よ」決然と里莉は答えた。「さっきの言葉を聞くかぎり、あの怪異たちは人間と戦うつもりなのよね? それって、ほかの怪異たちが巻き添えになるってことじゃないかしら。人間からしたら怪異は怪異でひとくくり、区別なんてつかない。敵になったらそれまでなんじゃない? もしそんなふうにして怪異と人間が争って憎み合うようになったら、瑠々もきっと同じになる。せっかく見つけ出しても私を恐れて逃げだすかもしれないわ。それって、私にとってはちっとも嬉しいことじゃないの。だから、私のためにどうにかして。あいつらをここから追い払って。二度とこんなことが起こらないようにして」

「お前と、相葉瑠々のために?」

「いいえ、私のためよ」


 里莉の目を見返して志朗はしばし呆然とした。たしかに、言われてみればそうだった。あの怪異たちを野放しにすれば、それ以外の怪異たちが迷惑することになる。


「お願いできるわよね、八千原君」


 そっと拳を握りしめてみた。いつ頃からあったかも覚えていない自分の力、それを活かすのは怪異のためだけだと決めていた。それだって、怪異同士の正論がぶつかれば振るうことに躊躇いを覚える。先だって、領域の中で振るった時だって、なるべく彼らを傷つけないように加減した。あの時は大戦艦を海原ごと呼び出して砲撃させたのだったか。けれども、やろうと思えば大量の艦載機を生み出して領域ごと焼き払うことだってできたのだ。


「手を出して」自分も手のひらを出して、里莉の鼻先にかざしながら志朗は言った。「残念ながら、俺はお前の言う意味では戦えない。だけど、お前を守ってやることなら、戦うための道具を用意してやることならできる」


 応えて手のひらを差し出した里莉が眉を寄せたが、首を振って志朗は宥めた。


「実は運動音痴なんだ、俺。百メートル走は十八秒切れないし、棒高跳びも走り幅跳びも苦手だし。サッカーでも野球でも応援席が指定席」

「それって、かなりできないと思っていいのかしら」


 笑って志朗は目を閉じた。


「イメージしろ……それは天下の五振りのひとつ、最も美しいと呼ばれる名物。あまたの歴史の証明者にしてあまたの権力を証明したもの」


 想像するのは、いつか図鑑で見た姿だ。橙地に金の桐が美しく蒔いてある拵え、広い鍔元からすうっと刀身の伸びる優美な姿、思わず見とれる壮麗な打除け――大きくひとつ息を吸い、瞼の裏の似姿に名前を与える。


「来い、三日月宗近!」


 重さを受け止めかねたのか、里莉が焦ったように両手を差し出した。先ほどまでなにも載っていなかった手のひらには一振りの太刀が夕日を映して輝いている。


「これ、ええと、剣というのだったかしら?」


 目を開けて出来映えを確かめながら志朗は頷いた。


「ああ、俺が作った偽物だけど。切れ味は多分、本物以上だと思う。あいつらにも通用するはずだ。どうやって作ったか、なんて聞かないでくれ」


 きょとんとした里莉に志朗は笑って見せた。


「俺にもよくわからないんだ。想像した物を一時的に現実の物体として呼べる――能力っていうのかな。なんか恥ずかしいけど」

「私がこれを使うの?」


 ためつすがめつ、太刀をくるくると回しながら里莉が言った。


「言っただろ。俺、運動音痴だし。タッパもそんなないしさ。武器なんて振り回しても振り回されるだけなんだ」


 里莉は少し考えていたようだった。が、なにか自分に確認したのか、顎を引くなりデニムのベルトを掴んで太刀をそこへ差し込んだ。


「わかったわ。守りは任せていいのよね?」

「ああ、そこは信用してくれていい」


 二人は頷きあうと怪異たちに向き直った。破壊の音は徐々に遠ざかっていく。もしかすると、既に駅まで襲われているかもしれない。奮い立つように身震いした里莉の背を叩いて、志朗は十字路のほうを指差して走りだした。怪異のため、それならなんだってできると自分に再確認しながらだった。

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