第3話 特級探索者、魔王様と戦う

「ほほう? 随分と血生臭いのぅ。千体は軽く切っておるか?」


「…………」


 ここは無言! 無言を貫き通すんだ!!


 見た感じ、この目の前にいる魔王はダンカメを弄って何やら呟いていた。独り言とかでなければ、恐らく配信中のダンカメを奪って、それで一人いじっていたのだろう。


 つまり、あのダンカメはまだ配信中だ!


 ということはここは寡黙な黒騎士ムーブを徹底するんだ僕!!


「なんじゃなんじゃ! お主、ちっとは話さんか!? 少しはマシなやつが出てきたと思って楽しみにしておったのにのぅ! なあ、しちょうしゃ? のみんな!」


 あ、視聴者っていう言葉に馴染みがないのか若干片言みたいな感じになってる。


 しかし、見た目はロリの鬼娘。話し方や服装にはさすが鬼だ……! という感じの雰囲気があるけど、仕草とかは年相応にも見える。


 だからこそ余計に彼女の実力を肌で感じてしまう。地団駄を踏んだだけで地響きするくらいの迫力。今までのモンスターとは比べ物にならないほどの圧力だ。


 今まで下の層に降りるたび、その階層のモンスターに威圧感や危機感を覚えてたけど……、彼女は別格!


 今まで出会ってきたモンスターは比べ物にならないほどの強さと凄みだ。百四十もない身体なのに、ちょっと気を抜いたら太陽のように見えてしまう。


「そうかわかったぞ! 緊張しておるんじゃな! おいしちょうしゃ! この戦闘時配信もーど? というのを押せばええんじゃな! ほれ!」


 彼女は端末を操作する。するとダンカメが浮遊して、空間に配信画面をホログラムで映し出す。


 コメント欄、同接人数、チャンネル登録者や高評価の数などなど。僕がいつも使う動画配信サイトのダンチューブの画面がそこにはある。


"狙いすぎなアバターワロタ"

"コテコテの厨二病じゃんww"

"俺にはわかるぜ。この探索者……弱いっ!"


 オイオイオイ嘘でしょ!?


 僕のアバターボロクソに言われすぎ……!? コメント欄に生やされる草の数々。はは、こりゃもう大草原じゃん。


 うーん、流石に狙いすぎたかな。いや、僕の感性は間違っていない!


 僕のさいこーにかっこよくてちょーつよいアバターと、僕はそれに見合うだけの努力をしてきた!


「なんじゃなんじゃ! 随分と大盛況じゃのう。ほれ、お主、何か喋ってみぃ! ほれほれ!!」


"対する魔王様が可愛すぎる件"

"魔王様がチャンネル作るの全裸待機"

"HEY、そこの探索者! びびってんのかーい?"

"探索者さっきから無口で草"


 視聴者は完全にあの、彼女ムードで僕は悪役みたいな扱いになってる。


 え? 普通逆じゃない? あ、いやでもあんな可愛い女の子がはしゃいでたら向こうの味方するか。じゃあ仕方ない!


 と、まああまりにも無言なのはちょっとあれなので、流石にここはちゃんの名乗ろう。


「……レンレン」


「随分と可愛い響きじゃのう!!」


"レンwwレンww"

"ギャップえぐっ!!"

"名前と見た目の温度差で風邪引くかと思ったわww"


 ……しまっっっっタアアアアア!!! 探索者始める時、覚えやすくて親しみやすい探索者名にしようとしてたの忘れてた!!!


 外見と一ミリも釣り合わないネーミングを披露してしまい、僕はとにかく穴に埋まりたい。もうなんでこんな名前にしたんだよ僕の馬鹿あああ〜〜!!


「随分と人気者じゃな! 羨ましいぞ!!」


「……そんなことはない。貴女の方こそよほどだろう」


 よし! よし!


 めちゃめちゃ可愛い女の子と話すのは初めてで緊張しているけど、なんとか寡黙な黒騎士風に振る舞っていれば話せないことはない!


 僕は背中の大剣を抜く。昂る心臓を落ち着かせて、静かに見据える。


 目の前にいるのは魔王。今まで積み上げてきた自分の実力を試すには至上の相手だ。


「よろしければ是非手合わせ願いたい」


「ほほう? やはりか。うむ、うむ! 先の数百人よりかは軽く強いと見た。そして、剣を持ったと同時に跳ね上がった殺傷能力……良い! 遊んでやろう!」


"魔王様ベタ褒めっていうことはあいつ強いんじゃね?"

"ギルド連合より強いとかマ!?"

"あの探索者の詳細キボンヌ"

"探索者名レンレン……調べたらこいつ日本でも有数の深層突破者だぞ!!"


 流れるコメント欄をよそに、僕は大剣を構える。対する彼女は徒手空拳の構えだ。


「名乗っておこうレンレンとやら。妾の名前は酒呑童子。もしくは伊吹童子。魔王と呼ばれておる」


「……その名前はあれだからレンと呼んでくれ。行くぞ」


「……ハハッ! 良いぞ来い!!」


 闘争本能が赴くがまま、僕と酒呑童子は同時に駆け出す。


 一瞬の気の緩みすら、魔王の前では許されない。僕が大剣を振るとほぼ同時、酒呑童子の鋭い爪が振り下ろされる。ぶつかり、火花を散らし、数秒遅れて僕らの中心として円形に広がる衝撃波。


 壁や床がひび割れていく。


"ふぁ!?"

"何が起きてるのかわかる人挙手"

"いやいやわからんわからん。あいつら何やってんの?"

"魔王様はともかく、さりげなくあの探索者やばくない!?"


「ハハッ! 良い! 良い!! 少しは骨があるようじゃ……なっ!」


「それはどうも!!」


 僕らはほぼ同時に力をさらに込めて、互いの身体を弾き飛ばす。


 僕は体勢を整えつつ、酒呑童子を見る。凄い一撃だ。両手で大剣を握っているというのに、腕が痺れている。


 鍛えに鍛えたダンジョンアバターの肉体だから腕が痺れるくらいで収まってるけど、多分こんなの生身で受けたら木っ端微塵だ。また大型トレーラーの方が助かる目はあるだろう。


 それくらい、彼女は化け物。魔王の名前は伊達ではないということか!


「よしっ! お主にはちょいと本気で戦ってやる。気合い入れるから少し待っとけ!」


 酒呑童子はそう言うと、手にひょうたんを召喚する。ひょうたんの栓を開けると濃厚な匂いが充満してきた……これはお酒?


 酒呑童子はそれをまるで僕ら高校生がコーラを一気飲みするような勢いで飲んでいく。どんどんと酒呑童子の頬が赤くなっていき、薄く赤色に染まった時だ。


 酒呑童子は飲み干したひょうたんを投げ捨てる。その瞬間から強まる威圧感、気配、殺気。


 さっきの一撃は本当に遊んでいたのだろう。けど、今は違う。これは僕もギアを上げていかないと即座にアバターを破壊される……!


「さて、第二らうんど? と言うんじゃな人間の言葉で。次は本気で


「望むところです」



 ——酒呑童子と黒鉄レンの戦いから数秒経過。現時点の同接人数一万人。記録的な同接人数まで後……。



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