第4話 魔王様、特級探索者にダンジョン配信に誘う
両手に力を込めた次の瞬間だ。酒呑童子の足が僕の目の前まで来ていた。これは飛び蹴り!? なんていうアングルで攻めてくるんだ!?
「ギリギリ……っ!!」
ギリギリのタイミングで飛び蹴りを大剣で防ぐ。けど飛び蹴りの威力は凄まじく、腕があるのを一瞬確認する。大剣ごと腕が消し飛んだかと錯覚するような威力だった。
「よく防いだのぅ! 階層主くらいは軽く消し飛ぶんじゃが……いい反応じゃ」
「お褒めに預かり光栄です……次は」
僕は姿勢を低く、大剣を構えながら、酒呑童子の背後に回る。様子見とかそういうのはなしだ。全力で今ある手札を叩き込む。
「僕の番です」
一閃。
振り上げた大剣を酒呑童子は右腕で防ごうとし、その直後、彼女の身体は紙切れのように吹き飛んで天井に激突する。
爆発音みたいな音を立てた後、舞う土煙。それにコメント欄は……。
"怪獣大決戦かな?"
"あの探索者強えと思ったら特級探索者じゃん"
"特級www"
"通りすがりの特級がちぃ!?"
"野生の特級探索者ww"
"さっきの人たち、彼を見つけてこればワンチャン勝てたのでは?"
特級……探索者?
いつの間に僕はそんな強そうな探索者になったんだ? スキルをたくさん取ってるからかな?
いや、まあそれは置いておいて。
「ハハッ! 良いぞ……良いぞ!! 吹き飛ぶなんていつぶりじゃろうか!!」
「あれも階層主くらいなら消し飛ぶ攻撃なんだけどなあ……」
"攻撃の基準が階層主消し飛ぶっておかしくない?"
"階層主……ソロ討伐できるだけでもやばいのにな"
"すまん、初心者すぎてわからんのだけど階層主って強さどれくらいなん?"
"大体、数十人規模で挑んで勝てるか怪しいレベル"
"え? 二人ともやばいやん"
コメント欄を横目に見つつ、酒呑童子を見る。天井に埋まった酒呑童子は重力なんてないみたいな軽々とした動きで、天井に足をめり込ませる。
そこから引き絞られた弓矢のように自分の身体を射出した。
「どれ! これを耐えきれたら本物と認めてやろう!!」
高速で僕に向かって落下していく中、酒呑童子は右手を振りかぶる。赤いオーラが右手に集中して、赤熱する巨大な手と化した。
あれは恐らく必殺の一撃。防御や回避なんて考えられない。ここは迎え撃つしか道はない!
「
基礎的なスキルである強化の重ねがけ。
大剣に力を込めて酒呑童子の攻撃のタイミングを見計らう。酒呑童子は僕の全身から発露しているオーラを見て、さらに目を輝かせる。
「良いぞッッ!! お主、面白い! 妾がお主を強者として認めてやろうっ!!」
「光栄です。だけど負けるつもりはありません」
"有識者に質問。スキルの重ねがけとかできるの?"
"できるっちゃできる。ただ、魔力の消費えぐいから普通やらない"
"つーかあいつの魔力おかしくねえ? アバターなんで維持できてんだよ"
"魔力増量系スキルガン積みなんじゃね? 魔力増量するとアバターの活動時間とか伸びるらしいし"
"あのスキルツリー、要求スキルポイント高くてあんま取らないやつなんじゃ……"
もうコメントは視界の隅で流れていくだけ。僕の意識は完全に目の前の酒呑童子に集中していた。
空気がひりつく。一秒後、僕らの必殺の一撃がぶつかる。勝者はこの一撃を制した方……!!
「緋色の息吹!!」
「強斬撃」
振り下ろされる右手と振り上げられる大剣。二つがぶつかることなく、僕らのオーラがぶつかりせめぎ合う。
"俺の知ってる強斬撃じゃない件"
"大剣の基本技で魔王様の攻撃と張り合うってマ!?"
"なんならここまでユニークスキルとか、上級スキルの類なし。なんなんだあいつ"
"まだユニークスキル使ってくれた方が納得できた。普通に基本的な技しか使ってないのマジなんなんだ"
"ステータスの暴力なんか??"
僕らのオーラがダンジョンに入った亀裂をさらに深くしていく。少しずつ、少しずつ、爪と大剣は距離を縮めていき、それが触れた時だ。
僕らを中心にして大爆発が起こる。
僕と酒呑童子は互いに後方に吹き飛ばされる。
おいおい嘘でしょ……あれで爪の一つ、傷ついていないとかまじか。こっちの大剣、ちょっと刃こぼれしたんだけど……!!
「ははっ! やるのぅ!! 引き分けじゃ引き分け!
まさか、妾の爪を割るような輩がおるとは思わなんだ」
酒呑童子は笑いながらそう言う。すると酒呑童子の伸びた右手の爪。その人差し指のところが、ピキリと亀裂を生んだ後、勢いよく割れた。
"割ったッッ!?!?"
"【超速報】探索者ギルド連合が協力しても傷一つつけられなかった魔王に、単独で傷をつける探索者現る"
"やばいってあいつ!! これは拡散決定だって!!"
"というか見入ってて気が付かなかったけど、同接五万超えててワロタ"
"同接五万ww なんなら今も増えてるのほんま草"
"魔王様配信、トレンド入りしててクソ笑う"
大剣の刃こぼれと引き換えに爪の一本は持っていけた。つまり、僕と酒呑童子の実力は互角。けど、このまま戦いが続けば、魔力に限りがあるこちらが不利になるだろう。
アバターでの活動時間は残っている魔力量によって決まる。基本的に魔力は自動で回復し、消費量と回復量が釣り合っている間は活動時間は減らない。
ただ、スキルの使用や傷を負うなどの消費量が増えてしまうと、途端に活動時間は減っていく。
探索者はこのバランスを見極めてスキルを使わなくてはならない。もっとも、敵はリソース問題に困らないのに対して、こちらはかなりシビア。
これから戦いが激化するとなればスキルを打ち続けることになるだろう。そうなれば、活動時間も減っていき、ダンジョンから強制離脱もありうる。
こちらの活動時間の限界が来るのが先か、酒呑童子を倒せるのが先か。時間の問題になるのは目に見えている。
僕はさらに緊張を強めて大剣を握る手に力を込める。倒すとしたら最大出力で、酒呑童子の急所狙って攻撃するしかない。それならまだ、魔王を倒せる手立てはある……!
酒呑童子が動き出す……来るっ!
「のうお主! 妾とこのだんじょんはいしん? とやらをやってみるつもりはないか!?」
「…………え?」
あまりの敵意のなさ。酒呑童子は目をキラキラと輝かせて、僕に抱きつきながらそう口にするのであった。
……え? マジ?
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