第18話 ディスカウントストアにて その1

「はい、とりあえず今一番オシャレだと思う服を着ていこう。メイクで汚れるって思うけど、タオルとか敷いてするからその心配は無いって」



 こう言われたが、何も無い。本当に無い。高校入学から今の今まで、スポーツブランドのジャージで誤魔化し続けてきたんだ。どう伝えようか、考えあぐねていると、


「まさか、何も無いなんてことはないよね?いっつもジャージ着てるなーとは思ってたけど、それしか無いなんてことはないよね?」


「あ、いや、その、そうなんだけど」


「は?マジで言ってる?18にもなる男が、ジャージ以外服持ってないわけ?はぁ、ボクの服は着れないだろうし、もうそれでいいよ」



 許された、か?


「言っとくけど、許すとかの問題じゃないから。諦めただけだから」



 ごめん。本当にごめん。


 ――――――――――――――――

 件のディスカウントストアに向かう道中でも、まだ一翔の怒りは収まらない。


 近づこうとしても、一定の距離を保たれる。これは、何を言ってもダメな時だ。大人しく落ち着くのを待とう。


 そうこうしているうちに、辿り着く。

 一息つく間もなく、先に行くので俺も歩を速める。


 エスカレーターを二度上って、止まる。この階が、お目当ての場所らしい。


 ここで、ようやく一翔が振り返った。


「話してくるから、ここで待っててよ。絶対だよ。場所分かってるからって、他の階に行かないこと」



 と、まるで子供に対する親のような口ぶりでそう告げる。


 先ほどの負い目があるので、何も言わずに俺はうなづいた。


 少し離れた先で、楽しそうな話し声がする。きっと、この相手がそうなのだろう。声が止んで、一翔が俺を呼ぶ。


「紹介します。彼が、ボクの友達。みろきゃむクンです」

「はい、どうも。ごめんなさいね。今日の恰好で」


 そう紹介されたは、それはそれは可愛い女の子の恰好をしていて、でも声は紛れもなく男の声だった。


 ちょっとすいませんと、一翔を自分側に引き寄せ、小声で尋ねる。


「俺、金曜日からずっとお前に驚きっぱなしなんだけどさ。お前、どういう雑誌の読者モデルなの?」


「10代向けの雑誌だよ。ちょっとギャルとかも出てくる感じの。ちなみに二凪ちゃんも一緒」


「言って欲しかったなぁ、最初に」



 てっきりもっと大人しめな雑誌だと思ってた。しかも、さらっと言うもんだから流しそうになったけど、妹さんもモデルやってるってことだよな?

 何故だろう?会う前から不安が募る。俺一人で、この双子相手できるかな。


 一回、大きく深呼吸してから、みろきゃむさんに向き直る。


「えっと、今日はよろしくお願いします」



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