第8話 ドラッグストアにて その1

 18時過ぎの駅前は、帰路に就く会社員や学生で溢れている。

 その中でも、ひときわ目を引く人だかりがある。


「あー、絶対あれだ」



 確信を持ちつつも、念のためメッセージを送る。

 案の定、人だかりの中から通知音がする。


 人ごみをかき分けながら、中心人物が姿を現す。


「千歳ー、遅いよ。また囲まれちゃったじゃん」



 夕暮れにも関わらず眩しい白髪、すらりとした長い手足、どこをとっても不足なしこの完璧人間が、俺の親友。潤司馬一翔だ。


「悪い、悪い。遅くなったのは、謝る。だけどな、囲まれる云々に関してはお前が帽子被ったり何なりすればいいだけだろ」


「えー、このバカみたいに暑い今、帽子被れっての?嫌だよ。ところでさ、耳どうなった?ボクの高藤先生は、優秀だからね。あっという間に終わらせたことでしょうよ」


「別に、お前が小さいころから掛かってただけでお前の先生じゃないだろうが。まぁ、いい先生には間違いないのは分かるが」


「まぁまぁ、固いことは言わないでさぁ。でも、疑問はある。あの高藤先生が診察にここまで時間をかけるなんてことは、滅多にない。勿論、大手術の時なんかは別だよ。それに、目が赤くなってる。泣くようなことがあったってことだ」


「お前、こういう時だけは鋭いのな。ご名答。ただ耳垢が詰まっただけじゃなかったよ。長くなるから、店のイートインでな」



 とりあえず、親友のこいつには言っておくべきだろう。

 店に向かうまでの数分間も、何か聞きたそうな顔をしていたが無視した。


 ドラッグストアに着く。

 薬局側の入り口を探すのに少し手間取っていると、薬剤師さんから呼びかけられる。なんと高藤先生が、連絡していてくれた。あの人、滅茶苦茶優秀だなと思っていると、なぜか横の一翔が誇らしそうな顔をしている。別にお前の功績じゃないだろ。


 ちょっと特殊な薬らしく、処方には時間がかかると言われたので、その時間を買い物に充てることにした。

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