第12話 報告書のまとめ
「ホビット族は、本当に丈夫でよかったな」
彼がりんごの皮を剥きながら口にする。
「まさか、弾丸も弾き飛ばすとはな」
そうなのだ。
わたしは彼をかばって倒れたが、弾はわたしの体――おなかから零れ落ちた。ぎゅうと皮膚に力をこめて、つよくすれば弾き飛ばせたみたい。
これだからホビット族は!
ホビット族は、むーかし、この地に侵略者がきたとき、戦争に参加した。戦うには不向きでも果敢に囮となった。なんか書にはホビット盾なんていってみんなで手をとってお団子状態で敵につっこんでいったらしい。そんなことをしたらやられちゃう……と思うでしょ?
が、
ドラゴン並みに丈夫であるわたしたちは矢でも剣でも弾き飛ばしてしまい、向かってくるすべてを撃退! 戦争に貢献して、勝利をもたらした――なんて伝承はあったし、おじいちゃんたちがむかし、戦争に参加したときいろんなものを弾いたとは聞いていたけど、実際にここまで弾けるのはびっくりだわ。
パパがドラゴンの牙すらしのいだといっていたけど、あれも本当だったのね疑ってごめんね。
まぁ、けど、そんなわたしたちだって呼吸はするから毒には弱いし、火や水攻めなんてされちゃったら終わりなんだけどね……実際戦争中はわたしたちの丈夫さに腹を立てた敵国からそうやって無残に殺されちゃったって話を聞いたわ。それにホビットは死んでもその肌は丈夫だからそれを狙った密猟者もいたとか……小さくて非力で、けど丈夫すぎるから敵に捕まっちゃってひどい殺されかたをしたホビットはいっぱいいった。だからわたしたちは戦争後は山に邑を作って楽しく暮しているんだっておじいちゃんたちは言っていたわ。
「あのギルド長たちは」
「捕まえて、国に突き出した。今回の騒動もぜーんぶ報告済みだ」
「それってやばいんじゃないの?」
わたしは二日も寝ていたそうだ。衝撃が強かったらしい。当たり前よね、本来は人が死ぬような攻撃ですもの。
目覚めたら彼がいて、それでりんご剥いてるの。
「俺はさ、アンタのところを出てから自分の世界に一回帰ったんだ」
「う、うん?」
「そこで出世して、さらに選抜されたんだよ」
「なんの」
「異世界でスパイをしないかって」
「スパイしてるの?」
「もっと言うと、こっちの情報を仕入れて、送ってこいってことだ。戦争のとき、あれこれと混乱していて、こっちにも俺たちの世界ものが流れていった、俺たちも世界もそうだ。ゲートは開いたまま、共存するにしてもあまりにも文化も違うからな」
それは、わかる。
「俺はこの世界の十二賢者の許可をもらってこっちの身分をもらった」
「じゅうにけんじゃ? なにそれ」
「えらい人らしいぞ。王様も逆らえないらしいな。で、その賢者たちに認められて、身分をもらて、ここの土地を俺はもらうことを望んだ。アンタと出会った場所だったからな、うまくすれば会えると思ったのさ。けど、戦争の混乱で夜盗とか多くいてな、まずはそいつらをどうにかするっていうので俺は当主になったが、一年は傭兵として働いた。もともとそんな仕事してたしな」
「え、ええ?」
彼が言うには、身分をもらったがお金はまったくない、傭兵を雇うお金がないから自分で退治することにした、らしい。
向こうから連れてきた部下とはじめは働いていると、数名の志願者が現れ、拾ったり、買ったり、雇ったりして今の傭兵団を作った。
ちなみに結婚式の翌日にわらわらと出てきた男たちのことだ。ああ、あの人たち……で、そのまま傭兵の仕事で連れていかれたのが私ほったらかしの原因。
なんでも夜盗がいっぱい出ているし、ギルド長の裏取引をしょっぴく必要があったから、けど、それをわたしに説明している暇はなかった――おかげでわたしはどれだけ心配したり、苦しんだことか!
お城にメイドとか使用人がいないのも、彼はほぼこの城にいない――だって傭兵として働いているから! わたしが来るから、急遽使用人を二人雇ったけど、本当はもっと整えたかったとかなかったとか……うーん。
で、話は戻して、彼がこっちに来て一年。
たまたまわたしのパパと知り合った彼は――パパがちょうど冒険していて沼におぼれていたのを救ったそうだ。
ようやく落ち着いてきたのもあるし、パパが娘の未来を憂いていたのを聞いて、彼はしめたと思ったそうだ。
「だから俺が身分とかあかして、結婚を条件に保護や今後の貿易をしようって話をしたんだ」
「うん?」
「プロポーズしたわけだよ」
にこりと彼が笑う。
「まって、それって」
「俺はずっとアンタに惚れてたぜ。ユーリアン」
ナイフを置いて、りんごを差し出してサーシャが笑う。
「純粋な思いだけじゃないから、アンタはいやがるとは思ったが、俺はアンタが好きだ。だからこっちに来ることにした。アンタ、あのとき言ったよな。俺のこと好きになりたいって、なってくれるか?」
自分の住んでる世界も捨てて
身分も捨てて
新しく作っていっぱい苦労して
ここまできてくれたの?
花束を差し出してくれた彼の震えを思い出す。
「今回の商人ギルドがきな臭い動きをしているっていうのを部下から聞いてな。動くしかなかったんだ。ちょうど、あいつらの取引している異世界のやつらも捕まえないといけないから、異世界の捜査とこっちの捜査二つが同時進行で双方の言葉がわかる俺が必要だったんだよ、だからごめんな。ほっといて、今まで言えなくて」
「ほんとぉ~」
わたしはぼろぼろと泣きながらしゃりしゃりとりんごをかじった。
「アンタが俺のために大冒険しているなんてな。はは……ありがとう」
やさしい、労りの言葉をわたしは受け止める。
「これからは、ずっとここに」
「あら、それとこれは別よ」
「え」
彼が驚いた顔をしてわたしのことを見てる。
今回のことでわたしはわかったことがある。
わたしって、意外と役立つのよね。同時にできないこともいっぱいある。
「わたし、冒険者になるわ」
「は?」
「いろんな言葉を知っていて、小さいからこそできることもあるのよ。ねぇサーシャ、わたし、あなたの役に立ちたい」
「おいおいおい、ユーリアン、俺はな、お前のそのおてんばでお人よしで、ついでに元気で飛び出すところも愛してるけど、だからってそれとこれは」
「ユーリアンはこれから俺と働くぞ」
ドアがばーんと開いてシリウスがはいってきた。
「今回の貢献者のユーリアンを王はお認めになって、これから影の一人として働いてほしいとのお達しだ」
羊皮紙を差し出してシリウスがにこにこと笑ってわたしのもとに来た。
見ると、そこには達筆な文字で、わたしを褒める言葉と一緒に、今後、国のために働いてほしいというお願いだ。これには古いボビッド族との契約が生きているだろうとも添えられている。
これは……昔のじーさまたちのやらかしたやつ!
むかしの戦争が終わったあと、土地をもらったわたしたちのじーさまたちは、とんでもない契約を王族と交わしてしまったのだ。
人間の国が困ったらいつだって囮でも、なんでもお仕事をするから、この土地はもらうよ、というものだ。
契約は血筋が代々従うものなのになにしてんのじーさまたちっ!
魔法と魔術って実はちょっと違うの。で、この契約魔法は交わした内容に従わないとホビット一族がみんなそのツケを支払うことになるというものだ。
わたしがここで断ったら、たぶん、ホビット一族のみんなが払うツケ……この場合は、一族みんな、なにもないところで一週間ぐらい転げる罰をうけることになる!
まぁ一族みんなで支払うからささやかな不幸がくる程度なんだけど。
こんな願ってもないだわ。
「おい、シリウス、てめぇ!」
「今回、ユーリアンがなかなかの働きがするっていうのは俺がちゃんと体感したしな。王族の書物庫を探したらホビット族の契約の書もちゃんとあったぞ」
「~~っ、魔法契約は書を燃やすまで続くってやつだよな? よくそんなもんをほいほいと交わしたな。ホビット族は」
「ああ。間抜けという人がいいよな。こんなものを王族と交わすなんて」
シリウスがからからと笑って失礼なことを口にしたあと
「ユーリアン、どうだ」
「わ、わたし」
「だめだーー。俺が許さないぞ、そんな危ないこと、ユーリアンは自分の身だって守れないんだぞ」
「それならルーフェンがいるわ。ねぇ、サーシャ、手を出して」
「ん」
わたしはサーシャの手に金貨五枚を握らせた。
「ルーフェンとシャロンをちょうだい」
「……っ、奴隷の契約の更新を請求してるのか」
渋い顔でサーシャは言い返す。
「だが、ルーフェンたちは」
「隊長、俺はいい」
見ると、ドアからちょこんと顔を出したルーフェンとシャロンがいた。
「ずっとドアの前に張り付いてたぞ。心配していたのにいれてやらないなんて心が狭いな、旦那」
「うるせぇ! ようやく、三か月ぶりの夫婦のやりとりだぞっ」
サーシャが白い歯をむき出しに唸る。
子供みたいなのにわたしが笑っていると、シャロンが駆け寄ってきて、すりよってくる。ごめんね、心配させて。
ルーフェンがおずおずと近づいてきたのにわたしは両手で胸の中に抱きしめた。
「守ってくれる?」
「ああ、太陽神ソルに誓って」
「ありがとう。ルーフェン、ということだけど、サーシャ」
わたしはにぃと笑うとサーシャがむすっとした顔をして
「……わかった。わかった。俺の部下で一番強いのはルーフェンとシャロンだからな。まったく、お前は、いつもいつも気が付いたらいろんなやつを手懐けやがって」
なにそれ。
「ただし、アンタの旦那は俺だ。俺を第一に考えて、行動してくれ。まだこの城はすっからかんだからな、城とこの土地の運営やらも手伝ってもらって、それで」
「なぁに」
「俺のことを、ちゃんと好きになってくれ、ユーリアン」
「もちろんよ! あなたのこと愛してる! そうね、冒険の前にまずはおなかを膨らませなきゃ。ねぇ、あなたの好物のハンバーガーとフライドポテト、わたしに教えてよ」
わたしは愛する夫を両腕でしっかりと抱きしめた、彼がわたしの鼻先にキスしてもちろんと答えてくれたのに、ひゃあと声をあげたわ。
このあと、わたしが彼のためにハンバーガーとフライドポテトを作れたか……についてこれから続く騒動と一緒にしたためます。
追記。もっとかたい書き方をしたほうがいいんだけど、読むから面白いほうがいいだろうって、王国の記録者さんへ、わたしなりの報告書のまとめです!
どうか一緒に冒険したつもりになって楽しく読んでください。わたしの夢の一つに作家があったので、作家気分で楽しく書かせてもらってます。次の手紙鳥〈バードルゥ〉にこの続きをもたせます!
ホビット族の異世界人の夫を持つユーリアンより これを読んでくれた方へ愛を添えて!
とあるホビットの報告書『わたしが夫の寝言で聞いたハンバーガーを作るまでの珍騒動』 北野かほり @3tl
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