第7話 ひみつの取引
あるわ、あるわ、禁書。
わたしは唖然とした。
彼の、主人の部屋のドアを開けて、棚とかを見ると禁書だらけ。山いっぱいあってわたしは唖然とする。
「こりゃ、すげぇなぁ」
「……」
悪夢だ。
わたしが項垂れていると、ルーフェンも、シリウスも、わぁと声を漏らす。
床に山となった本。
どれも美しいし、きらきらしている、けど同時に目のやり場に困るものが多い。きれいな女の人の写真ばかり。みんな美人な人間ばかりだ。主人も、こんな人が好きなのかと思うとみじめな気持ちにもなる。だってホビット族はみんなちんちくりんばかりだもん。
けど、本にはハンバーガーについてのことはなにも書かれていない。
なんかあれこれと書かれているが、まったくわからない。
そこでわたしは本棚の奥にある鉄の塊を見つけた。
ごとっと音をした、それにわたしははっとした。
黒い、それは、銃だ。
わたしの両手のうえにのるくらいの小さなそれが、簡単にわたしみたいな生き物を殺してしまえることを知っている。
「どう、しよう」
わたしは、それを誰にもばれないようにまたおなかのなかに隠した。
「どうするのかはゆっくり考えたらいい」
シリウスは用意した客間にひっこんじゃった。
ルーフェンはむすっとした顔で何も言わない、シャロンはわんと鳴くだけ。
わたしは自分の部屋のベッドに横になる。
大の字になってあーとため息をつく。
あの人は異世界のものをこっそりと仕入れてるかもしれない。それだけでわたしは憂鬱になる。
どうしよう。
どうしたらいい?
迷っているわたしの部屋のドアがノックされた。慌ててドアを開けると、ルーフェンが立っていた。
「どうしたの?」
「金貨五枚」
「へ?」
「俺が、買われた値段だ」
「……」
「それを払ったら、俺の主人はアンタになる」
「ルーフェン」
「俺は奴隷で、主人は裏切れない。もし俺が必要なら、それで買ってくれ」
どうしてそんなことを口にするの? わたしは思わずルーフェンを見つめて、納得した。
心配している。
わたしがこのままとんずらするなら連れていってくれ、と彼なりに口にしているのだ。
奴隷は奴隷術が施される。これは黒魔術に分類する唾棄すべきもので、生命あるものを束縛し、自由を奪う術だ。
ルーフェンが奴隷だとしたら、その術が施されていることになる。
彼が勝手にわたしについていくことはできない。
出来るとしたら今の主人に対価を払って買うこと。この場合、すごく、すごく悪い方法だけど、主人がいないから、あの人の持ち物に金貨五枚を置くことでルーフェンをわたしは買うことができる。
人を支配する黒魔術は強力だけど、こういう裏技みたいなこともところどころあるのだ。まぁ、これって奴隷をおいて主が死んだ場合なんかに奴隷の支配権をどうするかっていうための穴なんだけど…なんで知ってるかっていうとこれまたパパの話してくれた冒険者の知恵のおかげ。ありがとうパパ。
今のルーフェンは、あの人の命令でわたしから離れることはできないが、この土地を離れては動けないのだ。仮契約では、そこまでしか無理だったはず。
「わたしと、来てくれるの?」
「アンタは俺を家族だと口にしてくれたから」
「……家族よ、ルーフェン」
わたしはゆるく笑った。
「わたしはそう思ってる」
「……俺は、ル族だ。ここから南にある大地の生まれで、それで」
「言いたくないことは言わなくていいのよ」
「聞いてほしいんだ。俺たち一族は負けた。遠い、南からきた軍勢に、俺たちの一族はことごとく狩られ、奴隷として売られた。俺は何度か主人の元から逃げようとして、刺青をいられられた。どこにいても奴隷だとわかるように」
「ひどい」
何も知らないままいきなり奴隷にされたら誰だって逃げるわよ。
「刺青奴隷はずっと奴隷なんだ。刺青に呪いがかけられている。強い支配の呪いが、主人の命に従わないと激痛が走る、ここに」
ルーフェンは自分の心臓のある左胸に手をあてる。
なんて残酷でひどいことをするのかとわたしは言葉を失くした。
「守れなくて、役に立てなくて、死にかけていたところを売られた」
「ひどい」
「今の主人は、命の恩人だ。けど、」
苦しい痛みを耐える顔で、ルーフェンは言う。
「アンタと離れたくもない。はじめは、いやだった。……けど、アンタは俺にもシャロンにも優しくしてくれた。家族だと言ってくれたから」
尊い神に、捧げものをするかのような言葉をわたしはただ静かに受け止めた。
「一緒に連れていってほしい。命に代えても守るから」
「……っ、ありがとう」
ルーフェンが部屋に戻ったあとわたしは自分の部屋で膝を抱えた。
犯罪者である夫を捨てて出ていく? 多分、禁書をもっているのは人の国では裁かれる可能性が高い。
そしてこれも。
わたしの手には銃がある。
これがどんなものかわたしは知っている。
それは異世界の言葉を知っている理由。
わたしは、二年前、異世人<アーシアン>を助けたときに教えてもったものだ。
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