第4話ロストと ネクスト

 ドカァーンッ!と観戦席から勝敗を見定めていた紫芽のところまで轟音と地響きが伝わってきた。

 流石に負けたかと思った霧白は観戦席にいた紫芽にアイコンタクトを送った。

 それを受け取った紫芽が携帯に視線を送ろうとした。

 その次の瞬間。

 裁定を待っていた霧白は反生がいた場所を見つめていると突如背後から微力だが殺気を感知し細剣を自身の前に突き出し防御の姿勢をとった刹那。

 見覚えのある独特の刀が細剣とぶつかり火花を散りばめ、後方に下がる。


「へぇ〜あれを無傷で生き残るって……君運がいいね」

「あんなの反則だろぞテメェ」

「反則って……私を誰だと思ってるの?初見死の鉄血魔女よ?」


 一々お前の名前厳つすぎるんだろうが!っと反生こ心の中で咆哮する。

 実際に決闘ルールでは戦闘開始になった際の先制攻撃は反則ではない。

 なのでスタートしていれば何をしてもいいのだ。

 ただし、開始前にフィールドに罠を貼るのはご法度だが、この都市は弱肉強食、傷かぬ愚者が悪い。


「にしても……これが異能ギフテッド


 中学校から数多の喧嘩をしてきた反生でも異能を持った学生と戦うのは今回が初めて。

 それ故に、どう対処しようか即座に決めかねている。

 突然の初見殺し、どこから飛んでくる氷、海を全部凍らせる。

 相手の手札を考えたらキリがない。


 いや……考えるな。


 戦場での一瞬の迷いは死を意味する。

 こんな所で迷っている時間は無駄だ。


「ならば」


 何かを決心した反生は目の前にいる霧白目掛けて一直線で突き進んでいく。

 大して霧白は反生の行動に一瞬驚くか、平常心に戻り、己の剣を構える。

 あと一歩、霧白に近づくであろう距離、その距離に入った瞬間霧白は常人の目には見えないであろうスピードで反生の胸元を突き刺そうとする。

 だが、剣を構え、いざ反生に突き刺そうとした次の瞬間だ。

 剣先が彼の胸元近くに近づいた時、彼が一瞬にして低姿勢になり、避けた。

 霧白は「なっ!」と声を漏らし、彼の方を見つめる。

 反生はただ低姿勢になったのだろうと思った霧白は続けざまに剣の持ち方を変え、そのまま串刺しにしようとした。

 だが、次の瞬間だ。

 霧白が当たる直前瞼を閉じた瞬間、手から剣の感触が無くなり、その代わりにお腹部分に何かがめり込んで来る異物感を感じ、そのまま勢いのまま後ろへと吹き飛ばされる。

 何が起きたのか、霧白は理解出来てなかった。

 霧白が瞼を閉じた刹那、反生はまるで流れ作業のように紫芽の視界に捉えられない速さで低姿勢のまま刀を納刀し、霧白の刀を空高くまで打ち上げ、そのままの勢いで彼女の腹部を貫き、遠くへと吹き飛ばす。


「がば!ゲボゲボ!」


 上手く入ったのか、呼吸が上手くできていなく咳込んでいた。


「……フゥ……ちょうど腹部……しばらくまともに呼吸出来ねぇよ」


 抜いていた刀をゆっくり納刀し、居合のフォームになった反生は追撃をしようと走り出すが、途中で何かの違和感を感じ、止まる。

 その違和感とは反生が先程居た所にあった氷が砕け散っていたのだ。

 先程の攻撃の際反生は確実に粉砕せず避けるだけをした。

 しかし今は見事に砕け散っていた。

 何かがおかしい思い、警戒しているとふと、上腕に激しい激痛と違和感に襲われる。

 その痛みは昔1度経験した事があった。

 それは一年前、ちょっと前にフルボッコにした半グレが隙をついて俺の腹部にナイフを突き刺した時と同じ痛み。

 痛みが走る場所を見ると、傷は開いているが傷をつけた物が見当たらなかった。


「な……まさか……アイツの異能か」


 最初反生は霧白がこのフィールドを選んだ理由は異能を使う為だと思っていた。

 だが、まさか魔術……だとすると持っていた刃物を透明化させ、浮遊させる系統か。

 と、予想するが早くもそれは消えた。

 候補から消した理由として、先程吹き飛ばした剣が反生がいた場所の左側に突き刺さっていた。


「色々考えて……くれてるけどね……私は異能しか……使えないよ」


 呼吸が出来ないながらも、反生の考えている事を否定する。


「て事は……やっぱり」

「ええ……私の異能は水を氷にする能力……」


 霧白はそう呟くと、力が入らない手を踏ん張って海の方へ向ける。

 すると、水が氷へと変わり、砕け散る。

 そしてその破片が小さな刃へと変わり霧白の周りを回り出す。


「……細雪さざめゆき……小さな氷を無数の刃に変えて君を苦しめてあげるよ」


 霧白が使うのは人智を超えた超能力 「異能ギフテッド」……能力も魔法も使えない人間にこれを攻略するすべは……あれしかないなぁ……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ギフテッド、それを説明するにはこの世界を少し語る必要がある。

 この世界では新人類が存在する。

 事の始まりは、今から数年前の事。

 ある1人の博士がいた。

 その者は好奇心旺盛で気になると調べないと気が済まないような、いわゆる変人であった。

 そんな博士はある時妙なモノを見つける。

 それは世間ではアーティファクトと呼ばれるはるか昔に作られたとされる謎多き物達である。

 その1つを偶然にも見つけてしまった博士は自身の好奇心と気になるという感情から、それを研究し始めた。

 研究から数年が経ったある時、不慮の事故により、研究所は爆発し、空中に巨大な穴が出現。

その中から謎の生命体が現れる。

それは一晩で街が崩壊。

それはまるで人間を嘲笑うかのように姿を消す。

その災厄達に「ファルス」と名ずけた。

ファルスの登場から数年、ある病院で異例の症状が確認された。

対象は生まれたての赤ん坊だった。

生まれてすぐの事、様子を見に来た看護師の悲鳴から始まった。

他に来た医師たちはその現状に驚きが隠せなかった。

なんと赤ん坊の周りにガラガラや枕、本にいろんな物が浮遊していた。

これが異能の初の発見と新人類ネクスト旧人類ロストの名称である。

異能とは、人智を超えた物。

人によって能力は違い、強かったり弱かったりと、多種多様である。

一つ共通点があるとしたら、能力を使うには触媒が必要なのだ。

例えば今みたいに、水がないと氷が作れないとかである。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ゆっくりと低姿勢になっていた反生は立ち上がると、刀を抜く。

瞳を閉じ、ゆっくりと片足を後ろにやる。


「何をしたいのか分からないけど、諦めた方がいいと思うけどな……あまり痛めつけたくないの」

「言っとくけど君には攻略無理だよ?無数に現れるこの刃を退く事なんてね」


ロストはネクストには勝てない。

それはこの世の摂理、常識である。

決定づけられている定めだ。

勝てるはずがないと、誰もが思い込んでいる。

だが、誰が決めた?

ロスト《弱者》がネクスト《強者》に勝てないなんて誰が決めた?


「お前本当は弱者だったようだな」

「は?」

「……強者が使いたくない?……それで倒せると慢心してるんだろうな」

「……ほぉ……君はこれを……攻略できると?」


攻略出来るか?……ふざけた言葉だ。

反生はふっと鼻笑いをすると、ただ事実を述べるようにこう伝える。


「出来るね」



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