エピソード7 再会
「会いたい人がいる?」
「はい、小さい頃によく遊んでいた女性の人がいて。その人は今20歳になってるんだけど、両親の都合で離れ離れになってそれっきりなんだ」
「ふーん、それでアタシにお願いしに来たと?」
少年にとって、それは初恋の人に近い感情を抱いている。
幼少期から遊んでくれた女性は、今何をしているのか。
「なぁアステ、その人へ会いに行く事は出来るかな?」
「それくらい簡単。このアタシにかかれば人に会うくらい簡単なんだからさ」
そう言いながらアステは指パッチンに合わせ、少年と共に何処か知らない駅前にワープする。
ここが日本なのは確かだが、根室とは正反対の大都会で人混みと高層ビルで空気が少し汚く感じる。
「ふーむ、大宮駅かぁ」
どうやら少年の初恋相手は、大宮駅で何かをしているようだ。もしかしたらまだ電車に乗っていない可能性があると踏んだ少年は、緊張した足取りで歩き出す。
「あの、ちょっと時間いいですか?」
いきなり綺麗な女性から話しかけられる。
しかし、彼女の顔を見て少年は驚く。
「えっ、
「……………………」
まるで漫画みたいな再会を果たした少年は、思わず涙が溢れそうになる。
幼少期に見た初恋の人あらため加奈はずいぶんと大人びた雰囲気を帯び、すっかり都会人に染まっている。
「へぇー、あの人が」
それを遠くから眺めるアステだが、エネミーだからといって他人の恋を邪魔しようだなんて思考はない。
しかし加奈から大きな違和感を、感じている。
「あの、いま学校の帰りかな?」
「いや、違……」
「じゃあさ、ね。少しお姉さんのお話聞いてくれるかな?」
「え?」
多少強引に話を聞くハメになった少年は、離れた所にいるアステへ視線を向ける。
どうやら無視してる様子はなく、少年と加奈のことを遠くからじっと観察している。
「あのね、私達はみんなに幸運を届けてるんだ。ほら最近あまりいいニュースとか見かけないでしょ、それはみんなが不幸だから。目の前にある幸運に気付かないでいるから不幸になってるわけ」
少年が嫌そうな表情をしてもなお、加奈は話を続ける。そんな不自然な語り方にさらなる違和感を覚えたアステが目を凝らすと、その違和感に繋がるヒントを得た。
「ちょっとこれマズイかも……」
このままだと危険な状況になるのは目に見える。
加奈は恐らく、マトモな人間ではない。
「でもね、この紙には誰でも必ず幸運になれる方法が書かれてる。これを実践するだけでどん底人生からおさらば出来て、毎日が幸せに満ちていくから。動画の広告に出てくる上辺だけの幸運なんかよりも、ずっと上の幸運があるから」
「加奈さん、なに言ってるんですか?」
「幸運になる方法だよ。ほら一緒に行こうよ、昔みたいに」
「ちがう、こんなの違う‼︎」
「それにほら、私は今とっても幸せなんだよ。それもこれも全部コレのおかげなんだから。だから君にも教えたいな」
「離してってば、加奈さんッ‼︎」
少年が連れて行かれそうになるタイミングで、アステが少年を加奈から引き離す。突然の第三者による乱入に驚く加奈だったが、すぐに落ち着きを取り戻し口を開く。
「いきなり何ですか?」
「ごめんねー、この子はアタシのだからさ」
アステの口から誤解されてもおかしくない発言に顔を赤くする少年をよそに、加奈とアステの間で火花を散らす。
「うわぁ、あなたにも不幸が纏わりついてる。ストレスとかきちんと発散させてます?」
「余計なお世話。アンタの方こそ目が死んでるけど?」
「この目は生まれつきなので。それよりもその子をコッチに寄越してくれますか、私が幸福にするので」
「それは無理ね。少なくともあなたにはこの子を幸福になんて出来やしない」
アステと加奈による口論は、とても静かながらも強い火力。
下手に手を出すと火傷するだろう。
「いいから、その子を私にください」
「ダメ。渡さない」
「くっ……」
アステはこれ以上の口論はもはや無駄と判断し、強引にその場を立ち去る。少年はアステに手を引っ張られながら加奈を見つめる。
加奈の目つきは、昔とはかけ離れた狂気を含む視線を少年とアステに向けていた。
「あの人はもう染まってる。いくらキミでも元には戻せないはずだよ」
「うん、なんとなく想像付く」
「しかも彼女、ただ染まってるだけじゃなかった。人の脳に寄生して思考を狂わせる戦闘型エネミー、“ミャク”がいる。あぁなったらもう宿主を殺すかコッチ側の手術で脳から摘出するしかない」
つまり、彼女は人間じゃない。
「……分かった、もう帰ろう」
「うん、わかった」
それからしばらくしても、少年の心は未だ癒えない。
それもそのはず。久しぶりに会う知り合いが悪い方向に見違えたら、誰でもショックを受ける。
もし同級生の誰かが大人になって、久しぶりに会った時に加奈のようになっていたとしたら。
もしくは、加奈のような人のせいで人生が崩壊していたら。
少年はどうしようもない闇の一面を目の当たりにして、一生もののトラウマになってしまう。
「加奈って人がもともと悪人だったわけじゃない。悪人とエネミー、どっちが先かは分からないけど、いろんなタイミングの悪さが重なった結果がアレなだけ。あぁなったら最後、本人の意思で違和感に気付くしか未来を変えられない。アタシの能力を使ったとしても、深く根付いた思想を覆すのは困難さ」
「そう……」
「まぁ、あんまり深く気を落とさないで。今のキミは周りの人の未来を変える事が出来るんだよ。金は人やエネミーよりも凶悪なんだからさ」
反面教師、と言うと聞こえが悪いかもしれない。
しかしリアルを知る事で、“最悪な末路”を回避するキッカケを生むかもしれないという事を、どうか知ってほしい。
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