第6話 赤い果実は愛(哀)の味

食器の片づけをしていると、クラージュは玄関先に居た。籠を持っているようだ。


「何処か行くの?」


ロッテはクラージュに尋ねた。


「ああ、そう遠くは…。」


クラージュはしばらく考えてから、ロッテに尋ねた。


「一緒に行くかい?」


唐突な誘いに、ロッテは首を傾げた。籠を持っているから何かを採りに行くのだろうか。


「ちょっとしたお宝探しだよ、はいこれ。」


クラージュはロッテにも籠を持たせ、二人で家を出た。


 相も変わらず拡がる黄昏の色、それを見ていると胸が締め付けられそうになるのは何なのだろうか。


その答えに悩みながらも、ロッテはクラージュの後ろを歩いた。


「着いたよ。」


クラージュに声を掛けられロッテが顔をあげると、甘酸っぱい香りと鮮やかな赤が広がっていた。


「綺麗でしょ?」


「すごい…、こんな光景見たことない。」


ロッテの言葉に、クラージュはそっと微笑んだ。


「せっかく実った宝物だ。少し分けてもらおう。」


クラージュはそういうと、籠を抱えながら果実の成る方へ歩いて行った。


「く、クラージュ!どういうのを採ればいいの?」


ロッテも戸惑いながら、後ろをついていく。


「食べてほしいって言ってるものー!」


その説明に、ロッテは固まった。どういうこと?どういうことなの?と困惑した。


 しかしせっかくだから、とロッテは果実を見つめる。赤かと思えば紫だったり、青っぽいものもある。


どれも美味しそうだ。


こうしてたくさんの果実に囲まれていると、それぞれに個性があるように思えてくる。


ロッテはじっと見つめながら、なんとなくではあるが自分の目に留まった果実を手に取って行った。


 しばらくしてクラージュの声が聞こえた。


「ロッテ―、そろそろ戻ろうかー!」


その声に気付き、ロッテもその場を後にしてクラージュと合流した。


「どうだった?」


そう聞かれて、ロッテは籠を恐る恐る見せた。


「わぁ、ロッテ上出来だよ!」


「ほ、本当に?」


ロッテは不安げに尋ねた。


するとクラージュは、一つ赤い果実を手に取った。


「はい、ロッテ。口開けて?」


ロッテは口を開ける。その中にクラージュが手に取った果実が放り込まれた。


「…!!?」


果実を噛んだ瞬間、とんでもない酸味がロッテの口に弾け広がった。


「す、すっぱああああああああああああい!!!!」


思わず大声を上げるほどだった。クラージュはその様子を見て必死に笑いを堪えた。


「く、クラージュ、これは、私選び方間違えたの…?」


酸味に悶え、涙目になりながらロッテはクラージュに尋ねる。


「違うよ、ロッテ。ここにある果実はね、酸味があればあるほど美味しいジャムになるんだ。」


「ジャム…?」


「そうだよ、だから君の選んだ果実はとってもいいものだ。自信を持っていいよ。家に帰って美味しいジャムを作ろう。」


ねっ、とロッテを諭すようにクラージュは言った。


「それにね、ロッテ。」


失敗しない生き物なんて居ないと思う、でもその失敗を気に病まなくていい、次どうすれば失敗しないかを考えればいいんだ、とロッテの頭を撫でながら、クラージュは言った。


「なんか…クラージュは私を子供扱いするよね。」


「あれ?嫌だった?」


頭を撫でながらクラージュがそういうと、ロッテは俯きながら小さな声で「嬉しい」と呟いた。


少し恥ずかしいのか、ロッテはクラージュより先を歩いて行った。


クラージュは、聞こえないように呟いた。


「ねぇロッテ、この果実は君が育てたって言ったら君はどう反応するんだろうね?」


黄昏は、赤の果実たちを、色鮮やかに見せていた。

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