第5話 夢と現実
「そんな……。さっきの人達はどこに行ったの? まさか……あれは爆弾だったの?」
美羽が真っ赤な目で呆然と立ち尽くしていると、後ろから誰かが近づいてきた。
『あれは、機関砲だよ』
え? と振り向くと、そこには1人の青年が立っていた。
『機関砲って?』
青年はゆっくりとこちらに近づいてきて、ハッキリとその姿を見せた。
すると、爆弾の落ちた煙の隙間から見えてきたその顔は……「裕くん!」
美羽は思わず叫んだ。
青年は続けた。
『──とにかく、日本の飛行機の何倍もの殺傷能力がある機体なんだ。俺たちはもうダメかもしれない。日本はもう終わりだよ』
「ちょ、ちょっと待って! 裕くん、どうしちゃったの? ああ、これは夢なのね? それとも、また戦争が始まったの? でも、それにしてはこの風景、今の街並みと違う気が……」
美羽は青年と話している内、裕星によく似てはいるが年も若く別人であることに気付いた。
『さあ家に帰ろう。明日は俺の番だ。さっき赤紙がきたよ』
「赤紙? 何のこと……?」
『召集令状さ。明日、出兵する。きっと最後の切り札、人間兵器、神風特攻隊に入ることになると思う。志願などしたくはないが、逆らうことは絶対に出来ない世界なんだ。行かざるを得ないだろうな』
「ま、待って! どういうこと?」
『明日の朝1番に出ていく。普通は皆、バンザイなんて嘘っぽい愛国心で送り出すんだろうけど、俺は嫌だ! 絶対に生きて帰ってくる! 愛する人のために生きていたいんだ。君はこんな女々しい男は嫌かもしれないけどな』
「……特攻隊って……、まだ若いのに? 」
美羽は裕星に似た青年がまだ20代前半に見えて驚いて訊いた。
『若いからだ。俺も昨日で20歳になった。兵士になるのは当たり前の年だ。
さち、待っていてくれるか? 俺は生きて戻ってくる。いくら特攻でも死ななくちゃいけない理由なんてないからね。俺は生き恥を
涙を流しながら男が美羽の両手を握った。
「私……待ってます。生きて帰ってくると信じてる」
美羽は、なぜか今はそう答えるの一番良いと思えた。たとえ夢だとしても、青年の思いを踏みにじりたくない思いが湧いてきたのだ。
この夢の中では、自分はきっとこの青年の恋人か何かなのだろう。夢なら裕星を裏切ったことにはならない。そう思った。
青年は美羽の手を取ると、また踵を返して煙の中へと歩いて行った。
美羽は青年に手を引かれるまま付いて行った。
「美羽、美羽!」
名前を呼ばれて、美羽は振り返った。
「美羽、大丈夫? 具合でも悪いの?」
その声で、美羽はハッして飛び起きた。ベッドの上に服を着たままで寝ていたのだ。
「あれ、裕くん? ああ、私眠ってたのね? 今変な夢を見てたのよ。きっと、とても疲れていたんだわ」
「大丈夫なら構わないけど、さっきまでうなされて叫んでいたよ。誰か助けて!ってな。」
「──そんなことを? 私、なんだか戦時中の夢を見てた気がする。飛行機に爆弾落とされたり……」
「なんか
「ううん、夕飯の用意もしなくちゃいけないから、起こしてくれて良かったわ。わあ、もう8時半だわ! 急がなくちゃ!」
「美羽、今日はもういいよ。疲れてる時はこれに限る」
そう言うと、裕星は手に持ってるビニール袋を見せた。
「さっき、そんなことだろうと思って、ちょっと出て買っといた。コンビニ弁当だけどな」
「わあ、ありがとう、裕くん! 私、最近疲れが取れないみたいで……、助かるわ!」
美羽はベッドからぴょんと飛び降りて、キッチンへと向かった。
二人が温めた弁当をつついているとき、美羽はまたさっきの生々しい夢の話をした。
「さっきの夢のことだけど、本当に現実味を帯びて、まるで4Dを見てるみたいというか、タイムスリップしたみたいだったの」
思い出しながら、お箸を止めて語り出した。
「そんなハッキリした夢だったのか。誰が出てきた?」
「──裕くん」
「俺?」
「あ、というか、裕くんによく似てる男の人が出てきて。あ、その人は私の恋人みたいなんだけど、とっても優しくて本当に裕くんみたいな人だったのよ」
「なんだよ、なんかヤだな。夢だとしても、そいつに恋してる美羽なんてな」
「ええ? 裕くん、私の夢にもヤキモチ?」えへへと笑った。
「ヤキモチじゃないよ。なんで俺じゃなくて、似てるやつなんだって思ってさ」
「『さち』って私の事呼んでた。その男の人の名前はまだ知らないけど」
「なんかの戦争特番でも観たんだろ? そろそろ終戦記念日が近いからな。テレビでも頻繁に特集が流れてるしな」
「そうかもしれないわね」
「あ、そうだ。ところでお前、昼間俺の友達のやってるカフェに行ったんだってな?
小林がメールしてきたよ。何かあったのかって」
「あったというか、なかったというか……あの女の子のことで」
「あいつ、また現れたのか?」
「うん。今度は孤児院に。それで、あそこのカフェの住所を教えてくれて行ったんだけど、居なかったというか」
「ほらな。そいつは本当にストーカーなんだよ。嘘の住所を教えて、お前を振り回して楽しんでるのかもしれないぞ」
「そんな人には見えなかったけどな……」
「お前のそういう純粋なところが人に利用されるんだ。気をつけろよ、俺がいる時ならいいけど、絶対に1人では動くなよ」
裕星は美羽に言い聞かせるようにして念を押した。
うん、と答えたものの、美羽にはまだ心に引っかかっている物があった。
(※お詫び)4話において、人物名の書き写し間違いがありましたことをお詫び申し上げます。
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