第五一九話 B+依頼
師匠たちとの作戦会議は一時間以上も続き。
それからちょこっと魔道具作りの修行を行ってから、作業を切り上げ就寝準備へと取り掛かった。
一応寝室にも簡素ながら机はあり、私はそこでマジックバッグより日記を取り出すと、早速今日の出来事や苦労話、それに師匠たちと話し合った内容なんかを簡単にまとめて記していった。
きっと先輩冒険者のオルカたちからしたら、駆け出し冒険者の初歩的な悩み、くらいにしか見えないんじゃないだろうか。
私当人からすると、それなりに大変ではあったけれど……。
しかしこれなら過保護組の彼女らも、然程大げさに心配するようなこともないはずである。
「っと、そうだ。アルバムをチェックしないとね!」
なんて独り言を言って、ゼノワの相槌がないことに少し寂しくなる。
彼女は寝室にまではやって来ないのだ。ヨルミコトが恐いから。
ゼノワの乗っかっていない頭を何とはなしに自分で一撫でして、早速マジックバッグよりアルバムを引っ張り出し、机の上に広げた。
「おお、写真が追加されてる! なかなか良く撮れてるじゃん」
アルバムのはじめのページには、みんなとの別れ際に撮った写真の他に、数枚の写真がしっかりと収まっており。
移動中の何気ない一場面や、開拓拠点と思しき簡素な作りの施設の様子、戦闘中や食事中に撮ったらしいものや、ソフィアさんの自撮りなどなど。
なかなかどうして、修学旅行味を感じさせるスナップショットが並んでいたのである。
「うぐぐ……何さ何さ! 楽しそうにしちゃってさ!」
僻むつもりはなかったのだけれど、今日の苦労や不安を振り返ると、急に疎外感というか、もの寂しさを感じてしまった。
いや、分かってる。彼女たちにそういうつもりはないんだ。
寧ろ、自分たちは元気でやっているから心配するなと。そういうメッセージを込めてシャッターを切っているんだろう。
そう分かってはいるけれど、やっぱりみんなと一緒に居られないというのは、どうしようもなく寂しい。
けれどそんな気持ちをぐっと堪え、私は改めてペンを執った。
アルバムを見た件と、その感想、それにちょっとしたメッセージを書き足しておく。
元気そうで安心した、と。明日もお互い頑張ろう、と。
日記帳を閉じ、明かりを消してベッドへと潜り込む。
何だか色んな事を考えてしまって、いつもより少し寝付くのに時間がかかってしまった。
★
一夜明け、普段と同じ時間に目を覚ます。
いつもどおりのルーティーンをこなしていると、何だかうっかり自分が一人旅の最中だってことを忘れてしまいそうになる。
実際、モチャコたちに行ってきますをした後、危うくイクシス邸に転移しそうになった。習慣って恐い。
気を取り直し、リィンベルの宿へと飛んだゼノワと私。
さて、ここからはまた転移封印である。勿論他の便利スキルも。
なにはともあれ、先ずは食堂へ朝食を摂りに向かうわけだけれど。
ここで早速、昨夜師匠たちと相談して決めたとおり、武器だけはマジックバッグの中にしまってから部屋を出た。
まぁマジックバッグ自体は背負っていくのだけれど。帯剣してうろつくよりは、まだマシだろうという話である。
いっそのこと装備を全部外せばいいだとか、目立ちにくい装備をつければ良い、みたいな意見も出るには出たのだけれど。
しかしいくら宿の中とは言え、何かしらのトラブルが起きないとも限らない。
そんな中を、衣服と仮面しか身に着けていない、ステータスがめちゃくちゃ低い状態で行動するのは危険であるとして、あっさり却下となった。
まして仮面をしていたら悪目立ちは避けられないからね。トラブルの発生確率は確実に上がるだろう。
かと言って仮面を外したほうが余程目立つわけだけれど……どの道目立つのなら、防具まで固めておいて「関わらないほうがいい相手」と思われたほうがまだマシというものだ。
でも武器まで持ってると、他人の防衛意識を刺激してしまいかねないため、それは見えないところに持っておこうという話に落ち着いたわけである。
万が一宿のスタッフさんに注意されるのも嫌だからね。
そんなわけで、食堂の隅っこで朝食を摂る私。
やっぱりチラホラと他人の視線は感じるけれど、流石にわざわざ声を掛けてくるような人はいなかった。
しかしのんびりする気にもなれず、私は早々に食事を終えると食堂を後にした。
そうしたら、出かける前に一工夫。
ちょっと手間ではあるけれど、人目を避けるべく一旦部屋に戻ってからマジックバッグより剣を取り出し、装備してから改めて部屋を出たのだ。
それというのも、このリュックがマジックバッグであると悟られること自体、また誰かに目をつけられる原因になり得るからだ。
サイズ的に、普通剣を入れたなら鍔や柄が余裕で飛び出しちゃうくらいのリュックだもの。そんなところから剣なんて取り出そうものなら、目撃した人に一発で怪しまれてしまうだろう。
そうしたもしもを避けるために、剣は部屋に置いてあったんだなと思わせる、涙ぐましい小細工を弄するのである。
とは言え、自意識過剰かも知れないと自嘲しないでもない。私が思うより、周囲は私になんて注目していないかも。
けれどそれでも、気をつけておいて損はないはずだ。
なぜなら、それだけマジックバッグっていうのは、高価でおいそれと手に入れられるような品ではないから。
まぁBランク冒険者ともなれば、持っていても問題ないだろうということで私は愛用しているわけだけど。
もしこれがマジックバッグだと他人に知られれば、最悪ひったくりに狙われたりするかも知れない。
気配察知はあるけど、心眼をオフにしている現状、そういう輩への対処には少しばかり不安があった。
なので、用心するに越したことはないのである。
出かける準備を済ませた私は、ゼノワを頭に乗っけて宿を後にした。
移動時間のことを考えるなら、もっと朝早くにギルドへ向かうべきではあったのだろうけれど、さりとて朝のルーティーンも私にとっては重要なこと。
一先ず今日のところは、何か適当な依頼を受けてみて、明日以降の参考にしようという予定である。
とは言えここからはのんびりしても居られない。
なるべく早くギルドへ向かって、さっさと依頼の受注を済まさなくちゃ。
お仕事に当てられる時間がどんどん圧迫されてしまうからね。
道は昨日散策したので覚えている。
ゼノワも何気に物覚えが良いようで、私に先んじてギルドへの道を指差して案内してくれた。賢い子だ。
おかげさまで少しも迷うことなく冒険者ギルドへ到着することが出来た。
朝は当然、冒険者の混み合う時間帯である。
出入り口からは続々と冒険者たちが出てきて、町門の方へ向けて歩いていく。これから依頼をこなしに行くのだろう。
その背中は何れもが歴戦のツワモノのそれに見えて、きっと私なんかよりずっと強いのだろうな、なんて条件反射的に思い込んでしまう。
するとなんだか、途端に心配がこみ上げてきて。
果たして私一人で、しかもこんな縛りをゴリゴリに積んだ状態で、Bランクの依頼なんてこなせるのかと心細さを覚えたのである。
が。
「ギャウ」
「あいてっ」
ゼノワに頭を叩かれ、私は溜息を一つ。
こなせるかどうかは、やってみないことには分からないのだ。
ならばここで日和っていても仕方がない。
固唾を呑みながらも、私は意を決し足を進めた。
また一組、ギルドから冒険者のPTと思しき人たちが出てきた。目を合わせないようにしてすれ違い、入口を潜る。
ロビーには、昨日とは打って変わってなかなかの人が居り、カウンター前には行列が出来ていた。
ギルドの朝といえばコレである。とは言え、一番忙しい時間帯に比べればまだマシな方だろう。
既に多くの冒険者は出発しており、ここに並んでいるのは私を含めて少しばかり出遅れた組なのだから。
私は担当であるミトラさんが受け持つ列の最後尾にちょんと並び、ドキドキしながら自分の番を待った。
なるべく気配を殺し、他人と目を合わせないようにして待つこと暫く。
列は思いの外ぱっぱと捌かれ、気づけば私の番が回ってきていた。
「おはようございます、ミコトさん。早速ですがお願いしたい依頼を用意しておきましたよ」
「え、あ、どうも」
「こちらです。お受けいただけますか?」
カウンターの上に差し出された一枚の依頼書。
その内容は、とあるモンスターの討伐依頼だった。
討伐依頼と一口に言っても、依頼の目的によりその内容が微妙に異なっていたりする。
例えば純粋に、モンスターの脅威を退けてほしいという依頼。この場合、ターゲットの討伐に際して生じたドロップ品などに関しては、冒険者側の自由な取得が認められるが、その分報酬は安くなりがちだ。
それとは逆に、報酬は高めなれどドロップ品には納品義務が設定された依頼も多い。
っていうか、何せモンスターなんて幾らでもリポップする世界だもの。
ただモンスターの脅威を退けてくれ! って依頼より、ドロップアイテムが目当の依頼の方が多くなるのは道理なのかも知れない。
ドロップアイテムの入手には当然、高いリスクが伴うため、常に品が市場に出回っているわけではない。
それ故に常設依頼とは別に、討伐依頼という、より確実性の高いドロップ品の入手ルートが生じるわけだ。
ギルドはそれを管理し、冒険者に依頼を斡旋して、市場を安定させたり入手依頼に応じたりしているのである。
受付カウンターの向こう側では、そういった小難しいあれこれが日々行われているんだなぁ。
それで、今回の依頼だけど。
「トロル一体の討伐、及びドロップアイテムの納品、ですか。……トロル、トロルかぁ」
依頼書には推定難度として、ソロ:B+と書かれている。
文字通り、ソロのBランク冒険者が対処できるという意味だ。それも『+』なのでBランク上位の実力が求められる。
まぁ推定なので、確実にそうというわけじゃないけど。
ちなみにPT:C+とも書かれている。こちらはCランク上位のPTで当たるべき、という意味だ。
このことから、Bランク冒険者にはCランクPTとタメを張れる実力がある、って推測できるわけだけれど、実際そういうものなんだろうか。
もしそうだとすると、相当な実力差である。
っていうかBランクとしか名乗ってない私に、初手からこんな依頼を振ってくるとか、なかなか強気だねミトラさん。
「難しいですか?」
「え、ああいや、大丈夫だと思います。受けますよ」
「かしこまりました。では、討伐後はドロップアイテムの提出をお願いしますね」
「分かりました」
早速依頼へ取り掛かるべく踵を返そうとする私を、「あ、ミコトさん」と小さく呼び止めるミトラさん。
何事かと、出しかけた足を止めてみると、彼女は一枚の紙を差し出してきた。
「ミコトさんは昨日この町を訪れたばかりですから、トロルの居場所などもご存じないかと思って資料を作っておきました。よろしければお役立て下さい」
「おお! 助かります!」
ミトラさん、想像以上にデキるお姉さんのようだ。
っていうかそうだった。マップも遠視も透視も封印中の今、トロル探しだって決して楽じゃない。
情報収集から始めなくちゃならなかったろうし、彼女はその手間を予想して資料を用意してくれたのだ。
そう考えると、とんでもなく有り難いことである。ゼノワも頭の上で感心している。
私は改めてミトラさんへ短くお礼を告げると、次こそ踵を返して歩き出した。
私の後ろには既に人が何人も並んでいて、あまり時間を取らせるわけにも行かなかったしね。
斯くしてソロ冒険者ミコト+ゼノワの初仕事が、いよいよ幕を開けたのである。
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