第四二二話 言いつけてやる!

 イクシスさんとの模擬戦が始まり、開始と同時に彼女めがけて純白の光線を吐き出したゼノワ。

 精霊力より編み出した魔法は、通常の魔力を駆使して発動したスキル等による干渉を受けない。

 結果、隔離障壁にて防御を試みたイクシスさんはまんまと光に呑まれ、私はこれみよがしにそこへ遠距離斬撃を畳み掛けたのだけれど。


 いよいよゼノワのビーム照射が終わった時、果たしてイクシスさんはと言えば……案の定、無事であった。

 だが、ほぼ素っ裸になっている。毛先もチリチリしてるし、全くのノーダメージというふうではない。

 それと私の放った斬撃に関しては、その尽くを剣にて捌いたようだ。あの光の中でもハツラツと行動していたのだと考えると、やっぱりイクシスさんだなぁと。感心を通り越して呆れさえ感じてしまう。


 しかし、当のイクシスさんはどうやら、私が思うより取り乱していたらしく。

『ちょっと待て! おかしいだろ?! なんで隔離障壁素通りするんだ?!』

 と、念話にて抗議の声をぶつけてきたのである。

 だが、模擬戦の最中にちょっと待てなど、聞いていられるはずもない。

 私は隙があれば付け入る系の女子なのだ。いや、年齢的には女児か。

 とは言え、殆どスッポンポンのイクシスさんだ。絵面的に大分アウトである。

 流石にここは気遣うべきか……いや、勇者相手にそんな甘っちょろいことは言っていられない!


『戦闘続行! ゼノワはどんどん魔法ぶっ放しちゃっていいからね!』

『ギュイ!』

 念話にてゼノワと素早く意思疎通を交わし、私は次の手に打って出ることに。

 尚、ゼノワには成長に伴い追加で幾つかの魔法を提供してある。骸戦への備えって意味もあったけれど、どちらかと言うとゼノワの欲する新しいおもちゃを与えてあげてる、って感じに近い。

 だって可愛いんだもの。仕方がないじゃない。戦力強化にもなるし。

 尤も、精霊であるゼノワを、あまり積極的に戦闘に参加させようっていう気は、私には無いのだけれど。

 さりとてこういう、何かしらの機会に手を貸してもらうことはある。であれば、戦力的に頼りになるのは私としても有り難いことなので。


 そんなわけで、今度はイクシスさんめがけてレーザーをビュンビュン飛ばし始めたゼノワ。

 メチャクチャ派手である。

 しかし私以外の目にゼノワの姿は捉えられないため、傍から見たら何もない空間から、精霊魔法がバカスカ放たれているという異様な光景に見えるだろう。

 また、仮にイクシスさんがゼノワを攻撃してみたところで、精霊には武器もスキルも通用しない。

 人の身で触れられるようなものではないのだ。まぁ私は契約してるからか、普通に触れるけども。

 なのでイクシスさんにとって、ゼノワから放たれる攻撃というのは、正に天災のようなもの。

 いっそのこと、ステージギミックとでも捉えておくのが正解だろう。

 逆に私にとっては素晴らしく強力なお助けキャラである。


 ゼノワの攻撃を、相変わらず念話にて抗議を行いながら器用に避けるイクシスさん。

 光の速度で迫るレーザーを、一体どうしてそうもひょいひょい躱せるのか、不思議でならないところだけれど。それはツッコんでも詮無いことだろう。

 避けられてしまうのなら、私が避けられないよう手を回せば良いのである。


 遠隔魔法を複数同時展開し、様々な角度からイクシスさんめがけて魔力由来の魔法を浴びせかける私。

 折角なのでゼノワに合わせ、私も光魔法を行使。

 これなら観戦している皆の目も楽しませられて、見応えもバッチリなはずである。派手好きのゼノワなら特に喜んでくれるはず。

『ちょ、ば、やめろぉ! 全裸の女性をいたぶるとか、悪趣味だぞ!』

『人聞きが悪いな! 哀しいけどこれ、戦闘なのよね!』

 念話は声のやり取りなどとは比較にもならないほど、短い時間且つ距離も関係なしに交わすことが出来る。爆音鳴り止まぬ戦場に於いても、何ら支障なくやり取りが叶うわけだ。

 結果、イクシスさんからの文句もよく届いてくるわけだけれど。

 勇者を悩ませているというのなら、この戦法に効果があるという裏付けには十分だ。

 やめるどころか、むしろもっとあれこれ試してみたいまである。


 なんて、調子をこき始めたのがまずかった。


『ぐぬぬ、いいだろう。そっちがその気なら、私も少しばかり本気を見せてやろうじゃないか!』

『え』


 そう言うなり、彼女の動きが掻き消えたのである。

 瞬間、私は半身になってそれを躱していた。イクシスさんによる剣の振り下ろしだ。

 息が止まるほどの緊張感。恐怖。

 心眼による先読みと、宿木により上昇した身体能力。それと【リモデリング】によるステータス調整により、瞬間的に上がったAGIやDEXを駆使してどうにか対応できたに過ぎない。

 それほどに、疾く鋭い一撃だった。

 が、それゆえに。

『は? 避けられた、だと?!』

『バカじゃないの?! 殺す気なの??』

 念話からは、驚きの声が届き。対する私は文句を飛ばす。

 だがそんな刹那のやり取りをしながらも、行動はさらに次の一手へ推移していった。


 イクシスさんによる高速の攻め手は、私にとって何れも致命的だった。

 何せ速さに加えて重さも併せ持っているのだ。掠っただけで四肢欠損である。冗談じゃない。

 だから私は一旦防御力を捨て、速度重視の装備へ換装。集中力を研ぎ澄ませ、イクシスさんの攻撃を次々に回避していった。無論、容易いことなど一つもない。

 内心バクバクである。呼吸のタイミング一つ取っても、細心の注意を払わなければ体捌きに影響をきたしてしまう。

 されどそこは、サラステラさんとの近接戦闘訓練により、ゴリゴリに鍛えられた万能マスタリーくんである。

 イクシスさんの連続攻撃を前にしても、見事な動きを披露し、何れの攻撃も紙一重で捌き続けているのだ。

 そして回避の成功と同時に生じるのは、隙である。

 如何な達人とて、相手に攻撃を捌かれれば、大なり小なり隙の発生は免れ得ず。

 なればこそ、私はそこへ反撃を差し込むのである。


 ツツガナシによる抜刀術。

 テレポートによる刹那の間合いずらし。

 魔法による行動阻害。


 一秒にも満たない一瞬の世界で、私は手を尽くし一撃を放った。

 体の軸をバッサリ斬りつけるはずの一閃。

 如何なイクシスさんとは言え、どうにもならないはずの一手だ。

 そう、確信していたのに。


『見事だ』

『?!』


 次の瞬間には、何故か私は宙の只中に居り。

 瞬時に察したのは、【自動回避】の発動だった。

 つまり、である。

 スピード特化装備を身に纏い、宿木で能力を高め、バフで自己強化も怠らず、完璧にイクシスさんの隙を捉えた上行動阻害の魔法まで使っての、ツツガナシによる抜刀術。


 それらを打破した上で、イクシスさんは何かをしたのである。

 私の自動回避が働くほどの、脅威足り得る何かを。


 その時である。またも私の視界が切り替わった。

 再び自動回避により、勝手にテレポートが為されたのだ。

 心眼により、攻撃の意思だけは読める。だけど全く捕捉することが出来ない。

 完全に私の限界を超越した、雲の上からの一方的な暴力。

 理不尽そのものだった。


『ぐぬ、自動回避か。やはり相当に厄介だな』

『手加減! 手加減レベル間違えてるからそれ!!』

『それだけミコトちゃんを認めているのだ。さぁ、どう立ち向かってくる?』

『レラおばあちゃんに言いつけてやる!』

『そ、それはズルいだろ!?』


 言いながらも、イクシスさんの攻勢は留まらない。

 私は勝手に発動する自動回避に振り回され続け、いよいよ目が回りそうですらあった。

 ゼノワもイクシスさんを捉えられず、困惑するばかり。

 どうしよう? このままじゃ三分間これで終わってしまう。っていうか自動回避に対応されないって保証もない。

 なら二重宿木を使う?

 いや。だけどその前に試したいこともある。


 それは先日の骸戦にて、彼女より思い出とともに引き継いだ力の一つ。

 ある意味ゲーマーにとって、邪道とも言えるようなとんでも能力。

 その名もズバリな【オートエイム】。

 ターゲットに指定した相手に対し、勝手に狙いの定まる禁断の能力である。

 ネット対戦型のFPSなんかじゃ、チートにてこれを用いていたプレイヤーがちょいちょい湧いて、問題になっていたものである。

 不正ダメ絶対!


 そういう意味では、チートスキルと呼べなくもないこのオートエイム。

 効果の程は、何と攻撃の必中化を謳っており。

 適当に放った魔法も、デタラメに振った武器も、対象が間合いの内にさえ居れば謎の原理が働き、吸い込まれるように狙った相手へ向かっていくという、恐ろしい力を持っているわけで。

 ある意味自動回避の対極にあるようなスキルだった。

 これを駆使すれば……。


『イクシスさん、ガードしてね』

『!?』


 一応念話にて警告を送りつつ。

 私は再度、ツツガナシによる抜刀術を行使したのである。

 転移スキル持ちである私にとって、近接攻撃であっても対象が間合いの外などということはあり得ない話で。

 なれば必然、私は攻撃に伴い勝手に働いたテレポートと同時、抜いたツツガナシによる一撃を振るったのだった。

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