第一七八話 メタルミコト?
季節は夏もそろそろ過ぎ去るんじゃないかという頃合い。日本で言ったら九月に差し掛かったくらいかな?
要するに、宿の自室に五人で屯していれば、それだけでぐったりしてくるという話。
私は窓を開け、風魔法でそよ風を取り入れる。
汗ばむような室温は洗い流されるかのように冷まされた。ほっと人心地つき、私は皆へと向き直る。
「さて、鑑定も概ね済んだけど、最後にドロップアイテムを見てもらわなくちゃね」
「あ、言われてみればそうだった」
オルカはゴソゴソとPTストレージより、今は指輪状になっているそれを取り出しイクシスさんへと差し出した。
勇者であるイクシスさんとのお手合わせが決まったことで、なんだか用件もすっかり済んだような空気になっていたが、苦労して倒したダンジョンボスのドロップアイテムを忘れてはダメだろう。
しかしそれはオルカだけでなく、クラウもココロちゃんも、言われて思い出したような有様だった。
私は思わず苦笑を漏らし、そして早速鑑定を始めたイクシスさんへ注目する。
彼女は、手にした途端剣へと姿を変えたそれに驚いていたが、鑑定に滞りはないようだ。
「母上、どうだ?」
「ああ。これは面白い装備だな……名を『望形の装具』。とてもユニークな装備アイテムだな」
曰く、望形の装具は装備者が望んだ形へ変形する特性があるのだそうだ。
剣を望めば剣に。盾を望めば盾に。指輪を望めば指輪に。
それは正に私たちが確認した通りの特性だった。
そして更にこの装具には別の特殊能力もあるそうで。
「加えてこのアイテムには【復元】の特殊能力もあるらしい。破損しても元通りになり、それは装備者にも適用される効果のようだ」
「装備者が破損って、つまり部位欠損とかそういうこと?」
「そうなるな」
部位欠損級のダメージを負っても、このアイテムを装備してさえいれば元通りに復元される……なんとも凄い効果だ。
これをドロップしたリッチドールの能力を思えば、それも頷ける話だが。
そう言えばリッチドールといえば復元する度に力を増していたっけ。
「復元する度に力が増す、みたいな効果はないの?」
「おお、よく分かったな。その通り、肉体にダメージを負う際はそこで得られる経験値に大きな上方補正が掛かるらしい。アイテム自体が破損し修復する際には、アイテムにバフ効果が付くようだ」
「アイテムにバフ効果?」
「武器なら与ダメージ増加補正が。防具ならダメージ軽減が。アクセサリーならMNDボーナスだそうだ」
「破損するほど強くなるアイテム……最前線で殴り合う時なんかにはかなり強力な武器になりそうだな」
ここに来て初めて、経験値に補正の付くアイテムというのが登場した。やっぱりあるんだ経験値。
しかしダメージを受けても加算されるものなんだ。文字通りそれも『経験』だからかな?
大きな補正っていうのがどの程度かは分からないけど、上手く使えばパワーレベリングとかが可能になったりするのかも?
まぁ怪我をしないとダメっていうのは如何にも大変だけど、99の壁を越えようっていうクラウにとっては渡りに船と言えるんじゃないだろうか。
「ところで、ミコト様がその装具を装備されたとき不可解な現象が起きたのですが、それについては何か分かりませんか?」
「というと?」
ココロちゃんの問に、首をかしげるイクシスさん。
私たちは見たままを皆で彼女へ語って聞かせるも、どうやら特殊能力に特筆するような何かはないらしい。
望形の装具を私が装備した時、それは形をスライムのごとく変形させ私へ纏わりついてきたのだ。
そういう特殊能力があるわけではないとするなら、原因があるのは私の方ということになる。
「多分、ミコトちゃんのスキルと干渉してイレギュラーな動作を起こしたんだろうな」
「ミコト様のスキルと言いますと、やはり完全装着あたりが怪しいですね」
「つまりミコトとそのアイテムが融合しそうになった?」
「もしも本当に融合を果たしてしまったなら、もしかするとミコトはあのダンジョンボスのようになってしまうんじゃないか……?」
皆の視線がこちらへ集まる。
みんなして私が化け物みたいになるところを想像しているらしい。
まず体が金属になって、四肢を斬り飛ばされても液体金属化してくっつき、復元される。
体を部分的に武器へ作り変えたり、受けた傷を復元する度成長したり。
「ミコト……ちょっと試してみないか?」
「他人事だと思って何言ってんのさ!!」
「大丈夫、たとえミコトが怪物になっても私は変わらずミコトの味方だから」
「ココロもですよ!」
「私としても興味深いな。ミコトちゃん、どうだ?」
「どうだじゃないから! 絶対イヤだから!!」
恐ろしいことに、みんな一応は冗談のつもりだろうけれど、一割くらいはマジで言ってるらしい。マッドサイエンティストの素養が見え隠れしてるぞ。
勘弁して欲しい。それはまぁ、死ににくい肉体を手に入れるというのはある意味ロマンかも知れないけどさ。
かと言ってター○ネーターになろうとは思わないんだ。
そんな格ゲーのボスみたいな能力は、今のところ求めていない。
もしもそれを受け入れざるを得ないような、瀕死の重傷を負ったとあれば話は別かも知れないけど、そうでもなければ断じてゴメンである。
私はパンパンと手を打って話題転換を図った。
「はいはい、鑑定が済んだならお話は終わりだね。解散解散!」
「むぅ、つれないなミコトちゃんは」
「メタルミコト、少し見たかった」
「ココロはもう少し駄弁っていたいです」
「一先ず望形の装具は、PTストレージにでも入れておけばいいだろう」
というわけで、結構時間を食った鑑定会はお開きとなった。
思いがけずイクシスさんとの模擬戦というか、試合? が決まったわけだけれど、今日のところはオルカたち三人をゆっくり休ませねばならない。
これからどう過ごそうかと皆が思案し始めたので、私から提案を投げる。
「とりあえず三人は公衆浴場で汗でも流してきたら良いんじゃない?」
「ああ、それもそうだな」
「ミコトも一緒に行こう?」
「久しぶりにお背中流させてください!」
結果、私も一緒することになったようだ。
すると乗り遅れたイクシスさんが、小さく挙手して意見を主張してくる。
「わ、私も一緒に行きたいなー……なんて」
「イクシスさん、宴の用意とやらは良いんですか?」
「はぐぁ! そ、それがあった……」
失念していたらしい。頭を抱えて悶える彼女を他所に、私たちはさっさと入浴用の支度をして部屋を出ていく。
イクシスさんもそれに続いて外へ。宿の前で寂しそうな目をした彼女に見送られ、私たち四人は公衆浴場へと足を向けたのだった。
浴場に於いては、皆湯に身を浸してくつろぎながらも、早速交された話題は対イクシスさんに向けた作戦会議であった。
まずは私を交えてのチームワークというのを練習するところから始めなくてはならない。
オルカたちが成長を果たしたように、私だって戦力面でも多少は成長しているはずなんだ。
白九尾とタイマンで勝利を果たしたり、イクシスさんの戦闘サポートに加わったことも一度や二度じゃない。
それにイクシスさん手ずから稽古をつけてもらったりもした。三人ほどではないにせよ、私だって少しは育っているはずだ。
何より、装備面での強化が大きい。
私とのチームワークというのもそうだけど、皆新しい装備を使いこなす必要もあるだろう。そういう意味でも練習は必要だ。
一先ず二、三日は休養日とし、それからどこかで慣らしを含めたトレーニングを行うことが、ここでの話で決まったのである。
浴場を出た頃には、時刻は午後四時過ぎ。まだ夕方と言うには気の早い日の高さだ。
湯で火照った体を、緩やかな風で冷ましながら歩く。このあとは宿に戻って、晩御飯までのんびりしようという予定だ。
こういう時間も何時ぶりだろうかと、たわいない話をしながらゆっくりと宿まで帰った。
自室に戻った私達は、何なら軽く一眠りでもするのかなと思っていた。私はともかくオルカたちは心身ともに疲れているだろうから。
けれど予想に反し、性懲りもなく私とオルカの部屋へやってきたココロちゃんとクラウ。
それぞれが、先程渡した試作ロボを手に持ちヤンチャそうに微笑んでいる。
それに乗っかったオルカもまた、自分の分のそれをPTストレージより取り出すと、ロボを床の上に置いた。
三体のロボが三すくみが如く睨み合う中、そう言えばと言った具合にクラウが問うてきた。
「ところでミコト、このロボはどうやって遊ぶんだ? 戦わせるんだよな?」
「あー、まぁそのつもりではあるんだけど、具体的なルールまではまだ考えてないかな」
「なら私達で考えよう」
「ワクワクしますね! 殴り合いですか? 殴り合いですよね?」
「武器はないのか武器は!」
なんというか、女の子らしからぬ発想である。
特にココロちゃん、絶対クラウの脳筋が伝染してるよ。それとも鬼の性だろうか?
けど言われてみたら、まだ武器なんて作ってなかったっけ。
というか子供に持たせるためのおもちゃに武器はまずいんじゃないかな……おもちゃの武器なら大丈夫だろうか?
「どんな武器がほしいの?」
「剣と盾!」
「金棒です!」
「飛び道具がいい」
「ああ……でしょうね」
訊くまでもない事だった。
盾と金棒は良いとして、剣は刃がついていちゃ危ないから斬れないものを。
問題は飛び道具だな。うーん、安全な飛び道具……。
それこそ魔道具で何か作ればいいのか? あー、また研究課題が増えたー。
とりあえず危なくない苦無でも渡しておこうかな。
ということで、早速私は適当な素材をストレージから引っ張り出すと、クラフトスキルで加工。
それらしい形だけ取り繕ったミニチュアの武具を、それぞれのロボに持たせたのである。
皆は各々リモコンでロボを軽く動かしながら具合を確かめつつ、満足そうに頷いたのだった。
そうしてイクシスさんが呼びに来るまで、私たちはロボ遊びに興じたのである。
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