第三話 スキル
私好みのきれいなお姉さんに、笑顔でゴミ呼ばわりされて新たな扉が開かれそうな予感。
背筋がぞくぞくするのに堪えながら、私はどうにか平静を装った。なぜなら、それどころじゃないから。
結構な死活問題を叩きつけられたことを、私は理解していた。
「あの……私、冒険者になれますか?」
「そうですね、このステータス値ですと難しいかと」
「うぅ……」
「ですが、可能性はありますよ。あなたの【プレイヤー】というジョブは、データベースを参照しましたところ、確認することが出来ませんでした。つまりユニークジョブの可能性があります」
「ま、またそうやって私の心を揺さぶろうとするのね!」
ユニーク。即ち、唯一無二! 私のジョブは、どうやらとてつもなく珍しいものらしい。
くっ、私の中の中二男子が感動に咽び泣く! 右手に封印されし邪竜がこれみよがしに疼きよるわ!
でもそれはそうと、ジョブって一体何なんですかね……?
いや、知ってるよ? これでもゲームばっかりやってたからね。知らないわけないし!
でも、この世界ではそれがどういう意味を持って、どういう扱いをされているのか、なんてのは未知の部分なわけで。
それが冒険者になるに当たって、重要な要素だということは察しが付くのだが。
やはりアレか? 覚えられる魔法とか、スキルとか、そういうのがあって、ジョブによって変わってくる、的なやつなのか!? もしそうだとしたら、それはもうゲームじゃないか!
「ご希望でしたら、スキル鑑定も可能ですが如何なさいますか?」
「スキっ……です」
「如何なさいますか?」
危ない、まさか本当に「スキル」なんてワードが、こんなに自然に飛び出てくるなんて。
うっかりオウム返しに叫びそうになったが、どうにか告白の体で誤魔化せたかな。スルーされたけど。
しかしやっぱりあるんだ、スキル。すごく気になる……私にもあるのか? あるとして、どんなものが!?
「鑑定、是非お願いします!」
「分かりました。鑑定の魔道具を準備しますので、少々お待ち下さい」
そう言ってお姉さんは部屋を出ていった。スキル鑑定も魔道具で行うんだな。
でもどうしてステータスとまとめて鑑定しなかったんだろう?
あれか。スキルの内容は冒険者にとって手の内を明かすものだから、軽はずみに鑑定なんて普通はするもんじゃない、ってことなのかな。
だとしたら大丈夫かな? それこそ軽はずみに鑑定をお願いしちゃったんだけど。
などと考えている間に部屋の扉が再び開いて、お姉さんが水晶玉を手に戻ってきた。好きだね水晶玉!
対面に腰を下ろし、こちらへそれを差し出しながらお姉さんが言う。
「こちらがスキル鑑定用の魔道具になります。鑑定結果は、あなたの了承なく第三者へ公開されることはありませんが、鑑定の際私だけはそれを目にすることになります。これを了承した上で、鑑定を望まれますか?」
「やっぱりスキルって重要情報なのかな……でも、どの道このままじゃ冒険者にはなれそうにないので、私はお姉さんを信じることにします!」
「ありがとうございます。無断での口外はしないと、お約束します。それでは先程のように、魔道具へ手をかざして下さい」
お姉さんに促され、ステータス計測の時と同様に私は水晶玉へと右手をかざした。うーんこのワクワク感よ。
そして、あれだ。お姉さんがスキルを重要機密みたいに言うから、その……お姉さんに、私の秘密を覗き見られるみたいでちょっとドキドキする! あっあっ、お姉さんに知られてしまう! 私の大事な秘密を知られてしまうぅ!
「鑑定が終了したようですね。それではプリントアウトしますので、ついてきてもらえますか?」
「あれ、ついていって良いんですか?」
「プリントアウトしたものを、私が他者にうっかり見せびらかさないとも限りませんからね。プリントアウトし次第その場でお渡しするためです」
「どんだけ用心深いの!?」
スキルなんてアレじゃないの? 言っても戦闘で使える技を覚えたり、生産職の技術を補助する能力が宿ったり、みたいな。そんなに情報漏えいを警戒するべきことなのか?
それとももしかして、このお姉さんがメチャクチャ慎重な性格だったり? いや、単純にマニュアルを遵守しているだけかも知れないけど。
お姉さんに追従し部屋を出た私は、普段職員しか立ち入らないような場所へ共に入っていく。
なんかアレだな、小学生の時初めて印刷室に入った時のような、勝手に入っちゃダメなところに足を踏み入れた感。落ち着かない。でもワクワクする。
何を言われたわけでもないが、なにか機密書類でもあったら大変だ。私は努めてキョロキョロしないように、お姉さんの白いうなじをガン見し続けた。決して目が離せなかったとかではない。ないったら無い。
そうこうしていると、魔道具らしき箱型の道具の前で足を止めるお姉さん。
お姉さんの肩越しにそれを覗き込んでいると、この魔道具でプリントアウトするのだと教えてもらえた。
用紙と水晶をセットすることで、情報を用紙へ書き出すことが出来るんだとか。
後学のため、ということもないが、その様子を見せてもらった。
お姉さんが水晶玉を台座へセットする。すると魔道具は何やら機械じみた反応を示し、処理を始める。
そうして少し待っていると、用紙へすごい速度でレーザーが走った。レーザーだ!
レ、レーザープリンター……!! いや、レーザープリンターの仕組みなんか知らないけど、目の前のそれは用紙にすごい速度で文字を焼き付けていく。
瞬く間に作業は終了し、焼き付けられた文字からは一瞬白煙が僅かに昇った。
い、異世界技術すげぇ。
お姉さんはその用紙を手に取り、どうぞと差し出してきた。
受け取ると、ほんのり温かい。うぅん、感動と困惑がいい感じに喧嘩してるぞ。これがカルチャーショックというやつなのだろうか。
「では、先程の部屋へ戻りましょう。スキルの内容を読み上げます」
「あ、そうでした。読めないんでした」
「行きましょう」
お姉さんも他に仕事があるだろうに、この行き届いた対応よ。美人だし気配りできるし、油断すると推してしまいそうだ。
お姉さんのお尻を眺めながら、再び先程の部屋へ戻ってきた。それぞれが元の席につき、私はお姉さんへ鑑定結果の紙を差し出す。
「それじゃ、よろしくお願いします」
「はい。では読み上げさせて頂きますね。まず、確認されたスキルは全部で四つありました」
「思ったより多いですね……!」
「そうですね、スキルは本来、成長に伴い新たに獲得していくのが一般的ですが、ミコトさんのステータスを鑑みるに元々所持していた可能性が高いです。ジョブによるものか、或いは種族や特殊スキルという可能性もあります」
「あは、初めて名前で呼んでくれましたね!」
「それでは一つ目のスキルですが、【キャラクター操作】というものです」
またスルーされた! そしてさらっと発表された!
だが何だろうかそのスキルは……? キャラクターを、操作するスキル? キャラクターって、ゲームじゃあるまいし。いや、ゲームみたいな世界だけどさ。
とりあえず詳しい説明を聞いてみよう。
「それって、どういうスキルなんでしょう?」
「分かりません。スキル鑑定では、スキルの名前までしか調べることが出来ないのです」
「なんじゃそりゃぁ!」
「ですが大抵の場合、データベースに情報がありますので、内容を調べることは可能です」
「おお、それなら」
「しかしミコトさんは恐らくユニークジョブですので、該当するスキルを見つけることは叶わないかと」
「えぇぇ……」
それじゃぁ何のための鑑定なんだ……あんな技術力を見せられた分、ちょっとガッカリだよ。
名前をヒントに自分で調べろってことかな。まぁそれも面白そうだけどさ。
「多くの場合スキル名が判明すれば、ある程度そこから内容を類推できるのですが……。【キャラクター操作】は、文字通り操作系に類するスキルでしょう。しかし『キャラクター』が何を意味するのかは掴みかねますね」
「キャラクターって言うと、創作物の登場人物とかですかね」
「もしそうだとすると、生産系のスキルかも知れません」
「そんなぁ!」
アレか。物語のキャラクターを操作して、おとぎ話を勝手に書き換えちゃうぜー! みたいな悪質スキルだとでも言うのだろうか? 嫌なんですけどそんなの!
とんだハズレスキルじゃないか……。だが! だがまだ三つあるもんね!
「つ、次のスキルを教えて下さい!」
「はい。二つ目は【万能マスタリー】というスキルですね。これは、すごいスキルかも知れませんよ」
「そうなんですか? 確かに万能とか、いかにも便利そうな気配がしますが」
「ミコトさんは、マスタリー系統のスキルはご存知ですか?」
マスタリー系のスキル。お姉さんの説明によると、装備を上手に使いこなすためのスキルなのだとか。
マスタリースキルを極めていくと、特定の装備類を手足のように操れるようになり、凄まじい破壊力を発揮できるようになるとか。また、アーツスキルを習得する鍵になるとも。
例えば【ソードマスタリー】というスキルを持ってる人は、普通の剣士より剣の扱いに長け、剣を用いた攻撃の威力も上がるらしい。
ちなみにアーツスキルとは、必殺技のようなものだそうで……って専門用語が多いな。要は、スキルにも色々あるってことか。
「ええと……それで?」
「推測に過ぎないのですが、【万能マスタリー】は、あらゆる装備に対応したマスタリースキルの可能性があります」
「? それはつまり、武器なら何でも使いこなせる、みたいな?」
「いえ、マスタリー系スキルには防具やアクセサリーに対応したものもありますから、武器だけではないかも知れません」
「それは……凄い当たりスキルなのでは!?」
お姉さんの予測が正しければ、凄まじい強スキルの予感がする!
あ、でもこれ、器用貧乏になる気もする。だとしても当たりなことに違いはないよな!? そこら辺どうなのよ!
「当たりどころではありませんよ! 努力次第では万能の戦闘力を得ることが可能になるはずです! もしかすると魔法にさえ対応している可能性も……もしも本当にその名の示すとおりの性能であれば、その希少性も有用性も、途方も無いものであると言えるでしょう」
「ま、マジですか……」
「低ステータスが惜しまれます。本当に……」
「おいやめろ! 傷口を抉らないで!」
お姉さんは私の抗議を歯牙にもかけず、勿体ないだの検証が必要だなどと一人で盛り上がっている。
もしかしてお姉さんって、スキルマニアの気があるのでは? 勝手な想像だけど、暇さえあれば例のデータベースとやらでスキルの情報を眺めてそうなイメージが過ぎってしまう。
初対面の相手に失礼だとは思うのだが、それくらいお姉さんは万能マスタリーの考察に熱心だった。
「それじゃぁ、三つ目のスキルを教えてもらっていいですか?」
「分かりました。三つ目のスキルは、【完全装着】というスキルですね」
「んー、またよく分からない名前のスキルですね」
「名前から察するなら、『装着』という部分が鍵になりそうですが。果たして装備を意味しているのか、或いは何らかの部品を装着するという意味か」
「後者だとすると生産系ってことですかね。出来れば前者でお願いしたい」
このスキルを使って装着させると、絶対に外れなくなるんですよー! ……なんてしょっぱいスキルは嫌だ!
え、何、もしかしてこれもハズレの可能性があるってことなの!? 万能マスタリーが大当たりだとしたら、ほかはスカスキルだってこと? やめてよそういう嫌がらせみたいなの! ただでさえゴミステータスで万能マスタリーも猫に小判気味なのに!
「ミコトさんのスキルはなんだか、検証が必要そうなものばかりですね。ワクワクします」
「そ、そうですか。楽しんでもらえたなら何よりです。それじゃ最後の一つ、教えて下さい」
「分かりました。最後の一つは、これもまた未知のスキルですね」
「またですか……何というスキルなのです?」
「はい。【ステータスウィンドウ】という――」
「なん……っだと……!?」
ここに来て、とんでもない爆弾を放り込んできた!! で、伝説のスキルじゃないですか! 異世界転生御用達の! え、え、ホントに? 私が、使えちゃうの?
唱えれば出てくるのかな? マジで? や、やっちゃう?
「このスキルについて、なにかご存知なのですか?」
「ひっ! あ、えっと、そのっ」
「ご存知、なのですね」
「あー……多分」
「そうなんですね。……因みにですが、私にとっては未知のスキルです」
じーっと、お姉さんがこっちを見ている。
うん。え? なんでそんなに見つめてくるの? ま、まさかスキルの内容を教えろ……的な?
でも、スキルは冒険者の個人情報だって言ってたよね? それを聞き出そうだなんてことは……。
「私にとっては、未知のスキルなんです」
「え、あ、はい」
「…………」
「…………」
どうしよう、凄い、もうすっごい見てくる。無言で圧力かけてくる!
間違いない、このお姉さん重度のスキルマニアだ! もしスキルの話題を振ったら、何時間だって語ってくるタイプの人だこれ!
でも実際どうなんだろう、ステータスウィンドウについて説明しちゃっても良いもんなんだろうか?
試しにこっそり使って内容を確認してみれば、説明しても大丈夫かっていう判断もつきそうなものだけれど。
これはアレか? 念じるだけで発動できるタイプなんだろうか? やってみるか。
表情に出さないよう、むむむと念じながらスキルの名を心の内で唱える。
(出てこい、【ステータスウィンドウ】!)
するとどうだ。まさに想像通りのものが、私の目の前に出現したではないか。
一言で言うなら、それはホログラム。空中投影されたタブレット。青みがかった半透明の窓。
それが音もなく、ぱっと私の目の前に現れた。ウィンドウにはスキル名の通り、私のステータスが私の読める日本語で表記されている。
そこに記されているのは、間違いなく魔道具で計測してもらったステータスと同様の結果であり、更には習得済みのスキル一覧までもが表記されていた。
なんてことだ、これならわざわざ鑑定して貰う必要がないじゃないか!
などと、私が努めて無表情でウィンドウを確認していると、不意にお姉さんが口を開いた。
発せられた声音はとても真剣味の濃いもので。
「今、ステータスウィンドウを発動していますね?」
「ひぇっ、え、えええ!? な、なんっ」
「分かりますよ。急に黙ったことや、不自然な視線の動き。それに平静を装おうとしているのもバレバレですから。私にスキルのことで誤魔化しが利くとは思わないで下さいね?」
「怖いんですけど! お姉さんなんか怖いんですけどぉ!?」
凄みを感じさせる笑みを浮かべ、お姉さんは尚もこちらをじーっと見てくる。教えろとは言わず、あくまで私が自ら喋る形を取りたいのだろうか。なんてやつだ!!
でも、お姉さんの今の発言で分かったこともある。
それは、お姉さんにはステータスウィンドウが見えていないということ。
どうやら私にしか見えないタイプのウィンドウということで間違いないだろう。
ステータスウィンドウが登場する異世界冒険譚は幾つも読んだが、モノによってはウィンドウを他人に見せることが出来る場合もあるからな。
もしそのパターンだと、うっかり人前じゃ使えないスキルってことになるから、お姉さんには見えないという確認ができたのは収穫だった。
「ミコトさん」
「は、はいっ」
「……私、そのスキルのこと、存じ上げないんですけど」
「は、はいぃ……」
「……私、気になります」
「お、お姉さん落ち着いて」
「私、気になりますっ!!」
ダメだこの人、早くなんとかしないと! さっきまでと別人みたいじゃないか!
あのクールで仕事のできるお姉さんはどこへ行ってしまったんだ。いつの間にか双子の姉妹と入れ替わったって言われても、普通に信じるレベルで豹変してるんですけど!
でも、確認した限りウィンドウに表示されてるのは、魔道具で調べてもらった情報だけ。今更お姉さんに知られても問題にはならないし、何より追及を振り切れる気が全くしない。
結局私は程なくして、ステータスウィンドウに関する情報をお姉さんにゲロってしまったのだった。
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