第二話 辛辣

 昼間に見る夢は、嫌に現実味が強いものだ。

 中でもとびっきりリアルで、現実と見紛うような夢を今の今まで見ていた。

 そんな気分だった。

 

 自らの目に飛び込んできた景色に、私は目眩がするような感覚を覚えた。

 石造りの建物が並ぶ街並み。目の前を横切り、行き交う人達の格好はどれもコスプレチックで、しかし違和感がない。

 違和感があるのはむしろ、自身そのものと言っていい。

 つい今しがたまで私が見ていたものが、居た場所が、果たして夢だったのか、はたまた現実だったのか。それすらも分からないのだ。

 現代日本に生きた、私という存在の確証を、私は記憶という形でしか持ち合わせていない。だからこんな奇妙な感覚に襲われているのだろうか。

 

 けれどよくよく考えてみると、私はどうしてここに立っているのか。ここはどこなのか。

 記憶と言うなら、そも私がこの街角に佇むまでに至るそれが、一欠片もないことに気づく。

 あるのはただ、神代 命として日本で過ごした一六年余りの思い出だけ。

 

 この記憶が正しいとするならば、私は異世界転生に成功した、と。そういうことになる。そして私の直感は、それこそが事実であると告げている。

 だとすればつまり、死んだのだな、私は。親孝行も出来ぬままに、先立ってしまった。

 あまりに考えるべきことが多すぎて、なかなかに感情や実感が追いついてこない。ただ、死んだということはもう戻れないということだ。

 そう考えると、とたんに哀しさ……というより、寂しさが湧き上がってきた。


 ごめんなさい、皆。何も返せなくて。せめて達者で暮らしてほしい。

 そして願わくば、安心してほしい。幸か不幸か、私にはどうやら新しい今があるようだ。

 精一杯の強がりを紡ぎ、私は一度深く目を閉じた。

 

 さて、気持ちを切り替えよう。


 私が本当に転生したとするならまず、疑問を一つ解消したい。

 私が今自由に動かすことのできる、この体とは果たして何なのか。神代 命の体、ということはあるまい。トラックに撥ねられてとても無事ではあるまい。というか、致命傷故に私がここに居るんだから。

 だとするなら、この体は……まさか……っ。

 

 私は恐る恐る、じっと自らの手を観察した。

 

「……これ、このお手々……肌の色、指の細さに長さ、爪の形……よ、嫁ぇぇぇぇぇぇ!!」


 私の発した奇声……もとい、大声に、周囲の人間が一瞬ビクッとし、そしてまじまじとこちらに注目する。

 だが、そんな事を気にしている場合じゃない。今度こそ私は、混乱、いや、パニックを起こした。

 転生するに当たって、私の最大の楽しみ。生き甲斐と言っていい。

 私手ずから作り上げた嫁とこの世界で出会い、イチャイチャするのが何よりの楽しみだったんだ。なのにっ

 

「た、たたた確かに願わくば再会したいと祈ったけれど、一心同体やんけっ! あぁ!? でも元々そういうコンセプトで作成したんだっけ!? なら私の嫁はどこ!? 私が私の嫁!? ならば私とは何なのだ!?」


 考えれば考えるほど、情緒が崩壊していく気がする。いけない、こういう時こそ落ち着こう。深呼吸だ。

 頭を抱えたまま、努めて深い呼吸を行う。

 ちらりと視線を上げると、なんだかギャラリーが増えているが、まぁ分かる。私(嫁)の容姿は整いすぎているからな。仕方ないな。そんなのが騒いでたら、そりゃ見るよな。

 だが見世もんじゃないんだよ! 気が散るからどっか行ってくれ!

 

「……いけない、気が立っているな。落ち着くんだ私。まずはそう、冷静に、現状を確認して把握するところからだ」


 深呼吸は偉大だ。こんなとんでも事態の最中においても、私に思考の猶予を与えてくれる。良いぞ、空気が美味い。もっと吸っていこう。ひっひっふー。

 さて、まずは分かっていることから挙げていこうか。

 

 多分私は、あのバカタレトラックに撥ねられ、死んだ。

 そして例の黒封筒にあった通り、異世界に転生した。

 現在私の体は、他ならない私自身がデザインした、嫁の体……く……嫁ぇ……。

 いけない、泣くな。割り切らねばこの先やっていけないぞ。よし、割り切った。いいな!

 

 他に分かっていることは……何もない。そう、何もわからないということが分かっているんだ。

 文字通り右も左も分からない。この世界に、右や左という概念が存在するかすら私は知らないってことだ。それくらいに無知。情弱を極めし者だ。

 だから、知らねばならない。

 

 空は蒼い。太陽もある。雲は白くまばら。時刻は日の傾きからまだ午前中か。九時くらいだろうか?

 変に注目を集めてしまったが、おかげでこちらもこの街の人々を観察できる。

 現代日本に比べれば、質の悪い服を着ている。まぁ、それはいい。予想の範囲内でもあったし。

 問題は、顔だ! 何だ彼、彼女らの顔は!?

 外国人の顔、とかそういう次元じゃない。あれだ。

 スク○ニが手掛けた3D映像に登場するキャラクターみたいな顔のやつばっかりじゃないか!

 ああいや、全員が美形ってわけじゃないが。顔の造形が私の知ってる日本人のそれと、あまりにかけ離れている。

 それにファンタジーでお馴染みの、いわゆる亜人と思しき人もちらほら。うわぁ、うわぁ!

 

 本当に良かったと思う。転生後の自分を作れって言われて、ネタに走らなくて。

 最初の方、うっかり本気でやらかしかけたからな。

 なまじ見てくれが良いと、人間関係が面倒なんだ。それは経験則から理解してる。

 だからネタに走ろうとしたんだが、もしも本当にそんなことをしていたら、この世界では間違いなく浮いていただろう。

 

 しかし贔屓目かもしれないが、現在の容姿はレベルの高いこの世界でもそれなりに美人なんじゃないだろうか? だんだん自信が失せてきたけど。もしかすると私、モブレベルなんじゃないかって気すらしてくるけど。

 でも、そうだな……考えてみたら、異世界の美人さんってトラブルに巻き込まれやすいんじゃないか?

 少なくとも異世界を題材にした創作物で、美少女の末路は攫われたり売られたり主人公に吸い寄せられたりと、碌なことになってない。

 もしそうなら、寧ろ美人じゃないほうがいい。寧ろ私はモブ。いや、でも、頑張って作ったんだこの容姿。それをモブというのも哀しい……ちょ、ちょっとくらいは美人、だよな?

 だがせっかく異世界まで来て、攫われて○○○なことになるなんて絶対にゴメンだし。ジレンマだ。

 何れにしても、油断はするべきじゃないってことだな。


 それはそれとして、いつまでもここに突っ立っているわけにもいかない。いい加減人目も煩わしいし。

 差し当たって、まずはこれからの行動について決めなくてはなるまい。

 

 私は服のポケットを探したり、懐を弄ったり、はたまた手荷物らしきものが近くに落ちていないかなどを確認した。

 が、何もない。私の所持品、何もない!

 無一文どころの話じゃないぞ。お金も、所持品も、知識も常識も! あらゆるものを持ってない……!

 

 これは本格的にまずい。今日寝る場所もないし、食べるものも飲めるものもない。

 一応服だけは着てるが、そこら辺の異世界庶民が着ているような安物の服だ。

 こころなしかゴワゴワするが、そこは慣れだな。今はそんなこと気にしてる場合でもない。

 金だ。とにかく金が要る!


 異世界でお金を稼ぐといえば、オタクな私にはアレしか思いつかない。

 そう、異世界転生と言えば冒険者だ!

 果たして私に務まるのか、という問題はあるけれど、他に当てがないのだ。思い当たることから試すしか無い。

 

 とは言えそもそも、この世界に冒険者やギルドが存在しているって保証もないんだが。

 とりあえず冒険者の存在を信じて、冒険者ギルドの場所を聞き込みだ。

 言葉が通じるかはやってみないと分からないけど。最悪ボディーランゲージがある!


 誰に話しかけようかと、こちらをジロジロ見ている人を見回すと、美人なお姉さんが目に留まった。くっ、適当に見回しただけでこんなレベルの人がいるとか、ヤバいぞ異世界!

 とにかく、円滑な情報収集には不信感を持たれないことが大事だ。慎重に、丁寧に話しかけよう。

 

「あ、あの、あの、ぐ、ぐふふちょいとそこのお姉さん、美人ですねぇ、ちょっと私とお話しませんか?」

「ひっ、な、なにかしら?」

「おっ、えへへ言葉が通じて何よりだ。お姉さん、冒険者ギルドってご存知で?」

「ええ……知ってるけど」


 またやってしまった! 綺麗な人を前にするといつもこれだ! 案の定引かれてしまったみたいだ。今ばかりは自分の悪癖が心底恨めしい……。

 それでもお姉さんは、冒険者ギルドへの行き方を丁寧に教えてくれた。

 その後そそくさと、早足で去って行ってしまったけれど。いい人だ!


 異世界で初めてお話した人。出来ればもう少しコミュニケーションを取りたかったけれど、悔やんでも仕方ない。

 少しの寂しさを抱えながら、私はお姉さんに教えてもらった道を辿った。

 美人な人は、街を歩いているとしょっちゅう目につく。これだけ綺麗な人が多いのなら、やはり私は自意識過剰だったのかも知れない。

 それでも一応人通りの少ない道を避け、見知らぬ街並みを歩いた。とても不思議な気分だった。

 

 

 ★

 

 

「……あった……!」


 目に映るものすべてが珍しくて、キョロキョロしながら歩いていたせいかちょっと疲れた。

 この体、生前より体力がないのかも知れない。などと考えつつ、私は目の前の建物を観察した。


 そこには石造りの大きな建物がでんと鎮座しており、不思議と圧倒されるような迫力が感じられた。

 他の建物と比較しても大きく、見るからに頑丈そうだ。

 人の出入りもそれなりに見て取れ、体が大きいせいか屈強な男がよく目立つが、女性の姿もちゃんとある。女人立入禁止の薔薇の園、なんてことはなさそうで一安心。


 そうさここが、こここそがボクらの冒険者ギルド。荒くれ者の集う場所……! 今からここにカチコミをかけるんだ。流石にちょっと緊張するな。

 深呼吸だ。空気を吸う分にはタダだから。おいしい空気をたーんと召し上がっておこう。

 

「よし、いくか」


 意を決し、木製の扉に手をかけて、私は建物中へと足を踏み入れた。

 瞬間、人々の目がチラホラとこちらを向いた。そして、固定される。

 何見とんじゃいおんどりゃー! やったんぞーこらー!

 

 こういうのは舐められたらダメなんだ。気を引き締め、おどおどせず、努めて堂々と。

 私は背筋をピンと伸ばし、確かな足取りで受付カウンターと思しき方へ近づいていった。

 本来ならテンションが上がって浮足立つところかも知れないが、今は今日の宿と食事が得られるかどうかの瀬戸際でもある。真剣なのだ!

 

 とは言え憧れの冒険者ギルド。歩みを進めながら、その内装をそれとなく見回してみる。

 するとどうだ。今まで読んだ異世界冒険譚に描かれていた、そのままの作りじゃないか!

 広々としたロビーには依頼ボードらしきものがでかでかと備え付けられており、剣や鎧などの装備を携えた冒険者がそれを眺めている。剣! 鎧! 実物!


 奥にはカウンターがあり、受付嬢たちがテキパキと事務に応対にと忙しそうだ。

 左を向いてみれば、仕切りを挟んだ向こう側にはやっぱりあった、飲食スペース! 午前中だと言うのに酒らしきものを呷っている者もあり、いかにもって感じがする。

 ただ、思ったより荒くれ者が集う場所! といった印象は薄い。観葉植物なんかも置かれてるし、意外と清潔感もある。冒険者たちも、やべえ奴のオーラというのはそこまで発していない。

 期待外れ、ということはない。寧ろ少しホッとした。これがもし、イメージ通り世紀末ファッションのおっかない男ばかりが屯していたら、流石に別の稼ぎ口を探していたところだ。


 それでもなるべく、冒険者達とは視線が合わぬようそれとなく目を逸らしつつ、受付嬢のお姉さんたちを眺めて目の保養をする。

 働く女性は、美しい……いや、ほんとに。どこの3Dモデルですか!? ってレベルの美女たちが見せるスマイルは、たとえ営業のものだとしても私の心を癒やしてくれる。

 正直、死んだんだっていうショックはそう簡単に拭えるものではない。落ち込んでる暇がないだけなんだ。だから、私は癒やしを求めている。ああ、完璧な営業スマイルだ。でも素敵。


 そんな私の足は、当然のように彼女たちの中でも一際私好みなお姉さんの元へ吸い寄せられていった。

 営業スマイルどころか表情の変化にすら乏しい、いかにもクールな感じのお姉さん。だが、寧ろそこがいい。

 素晴らしく整った目鼻立ち。メリハリのあるプロポーション。眼福だ……。

 だがしかし、一歩一歩距離が近づくにつれてドキドキし始める私の鼓動。あっ、あっ、なんて声をかけようかなっ、どうしよどうしよっ、おじさん化しないようにしないとっ

 

「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「! おっふ、あ、はい、えっと。ぼ、ぼぼ、冒険者になりたいんですけどっ」

「冒険者登録をご希望、ですか?」

「あ、はい。いや私、あのっ、こう見えて結構不束者なんでっはいっ」

「それでは……はい、こちらの用紙へ必要事項の記入をお願いします。文字が書けないようでしたら、代筆も出来ますので仰って下さいね」

「あ、ありがたますっ、では代筆をお願い致したく!」

「そんなに緊張なさらないで下さい。取って食べたりはしませんよ?」

「しゃーせん!」


 思いがけず機先を制され、完全に体勢を崩された気分だ!

 でもいつもみたいに引かれてない! 私にしては頑張ってる。

 とにかくここで一度深呼吸だ。リラ~ックス。受付のお姉さんもやや困惑気味だし、こんなんじゃまた嫌われてしまう! やだ! きれいなお姉さんに嫌われるのやだ! すぅぅぅぅぅぅぅ……あ、お姉さんのいい匂いが……。

 

 それからどうにか気持ちを持ち直した私は、受付のお姉さんが書類に沿って投げてくる質問に適宜返答をしていった。

 氏名。年齢。性別。種族。そしてジョブなどなど。

 何だそのゲームのプロフィール欄みたいな質問の数々は!? 私の中の中二男子が小躍りしているぞ!

 でもどうしよう。私は私自身のことがさっぱり分からないのだ。

 

 氏名は元の名前を名乗るべきか、はたまたこの世界っぽい名前を即興で考えるべきか。

 いやでも、サンプルがないんだ。 この世界の人の名前なんて一個も聞いたこと無いし。私が当てずっぽうで適当な洋風の名前を名乗ったとして、それでもしこの世界で一般的な名前が、吉田花子的な和風を基調としたものだったらどうするんだ。浮いちゃうよな。

 ここは変にひねらず、ストレートに神代 命……一応ミコト カミシロと名乗るべきか?

 

 まぁ名前はいい。まだ簡単な質問だった。

 年齢ってなんだ。私の体、何歳なのさ!? 中身は一六歳だが、この世界では生まれたてだと思う。一歳未満。歌って踊れる乳幼児。

 そんなバカな……そもそも転生なのに、なんで体はこんなに育ってんの!? 謎が多すぎて処理が追いつかない!

 ともあれ今は質問に答えなければ。年齢は一応、一六歳ってことにしておこう。きっとその方が、角が立たないはず。

 

 と、そんな具合にド級の難問がちょいちょい差し込まれ、私はその度に高速思考を余儀なくされ、しこたま嫌な汗をかいたのだった。

 特にジョブは何ですかって質問には困った。そんなの知らないし! 何なら私が知りたいくらいだ!

 考えた末に素直に分からないと答えたら、自分のジョブを知らないって人もたまに居るから問題ないとのこと。せーぇぇぇふ! 変に見栄を張らなくてよかった……。

 

 そうして書類記入の代筆が終わる頃には、膝がカクカク笑っている有様。出来る限り虚偽は言ってないと思うけど、なかなかグレーな答えをした場面もちらほら。

 だ、大丈夫だろうか? ギルティでーすとか言って、ここから叩き出されたりしないか心配で仕方ない。

 

「お疲れさまでした。書類はこれで問題ありませんので、次は冒険者の適性審査を行います」

「て、適性審査……!? それってどういう……」

「はい。審査は魔道具を用いましたステータス測定と、担当者によります実戦能力の確認となります」

「お約束のやつ!」

「はい、お約束のやつです」


 来た! これは、異世界転生ものでよく見るやつだ。

 転生した主人公が、信じられない能力値を叩き出して一騒動巻き起こすっていう例の展開でしょ!

 全人類誰もが一度は妄想するレベルのド定番じゃないか!


 口元が緩むのをどうにか堪えていると、席を立ったお姉さんが何やら綺麗な水晶玉を持って戻ってきた。それを私の前に差し出してくる。

 

「それではこちらの魔道具へ手をかざして下さい。あなたのステータスを読み取ってくれます」

「魔道具……! あの、結果はどうやって分かるんですか?」

「読み取った情報は、別途専用の魔道具を介しましてプリント化されます。一昔前は水晶が能力値に応じた色に発光するという曖昧な仕様だったのですが、現在ではステータスを数値として確認することが出来ますので、より正確な診査が可能なんですよ」

「思ってたよりハイテクだ……」


 思いがけない技術レベルの高さに驚きつつも、私はお姉さんに促されるまま水晶玉へと右手をかざした。

 水晶玉の大きさは拳と同じくらいか。一見占い師さんとかが使ってそうなあれに見える。しかしこれガラスじゃないんだよな。水晶をこんな形に加工するって、やっぱり魔法かなんかによるものなのかな?

 

 そうして手をかざしていると、反応はすぐに見られた。玉が薄緑色の淡い光を灯し始めたのだ。お姉さん曰く、今ステータスを読み取っている最中らしい。

 透明な水晶の玉。その中心にポォと浮かぶ淡い光は、この世界で見る初めての不思議な現象だった。

 

 そうして待つこと暫し。不意に薄緑色の光が色を変え、オレンジ色になった。

 するとお姉さんは、読み取りが終わりましたと私に告げ、水晶を抱えると再びカウンターの奥へと引っ込んでしまう。その際、読み取った情報をプリントアウトしてくるのだと教えてくれた。うーん、異世界でそんな言葉を聞くとは思わなかったよ。

 

「まだかなぁ……まだかなぁ……」


 カウンターの前で待ちぼうけること数分。特にやることもないため他の受付嬢さんたちをニヨニヨ眺めていると、お姉さんが一枚の紙を手に戻ってきた。

 座席に腰掛けると、お待たせしましたとその用紙を差し出してくる。

 

「こちらがあなたのステータスとなります。併せてジョブの鑑定結果も記載されておりますので、ご確認下さい」

「なんと!」


 あの魔道具、ステータス値だけじゃなくジョブまで鑑定してくれるのか。スグレモノなんだなぁ。っていうか、普通にステータス値とか言ってるけど、そんなのが数値化出来るものなんだ。

 おっとそんなことより、ともかくジョブ! 私のジョブは一体何なんだ!? まさか女子高生だなんて言い出さないだろうね!?

 わずかに震える手で用紙を受け取ると、私は生唾を飲んでそれに視線を落とした。

 

 ……読めない。知らない文字だから当たり前だ。数字すら読めないのが悲しい。

 あと、代筆してもらっておきながら失念していたことが無性に恥ずかしい。

 

「あの……」

「口頭での説明が必要でしたか?」

「はい。お願いできますか」

「では、奥の部屋へ案内します。ステータスは個人情報ですからね」


 受付お姉さんに先導され、カウンター脇の廊下を進む。

 通されたのは簡素なテーブルと、数脚の椅子が設けられた部屋だった。手狭な感じこそしないが、広くも豪華でもない。こういう他人に聞かせるのが憚られるような話をする際用いられる使い勝手の良い部屋、といった印象だ。

 

 促されるままに、テーブルを挟んでお姉さんの対面に腰をおろす。

 そしてついに語られる、私の秘めたるステータスがこれだ!

 


――――


name:ミコト カミシロ

job:プレイヤー


HP:3

MP:2


STR:2

VIT:7


INT:3

MND:3


DEX:4

AGI:3

LUC:5


――――



 ……えっと、ステータスの値が軒並み一桁なんですけど。しかも一桁前半の方が多いんですけど……。


「あの、つかぬことをお聞きしますが」

「はい」

「この数値って、一般的な冒険者と比べると……」

「……大変申し上げにくいのですが、そうですね……控えめに言って……ゴミ、ですね」

「辛辣ぅ!」

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