第22話 子どもの居場所


ドラゴンの子を救出するために俺たちはまず情報収集を行うことにした。探すにしてもドラゴンの子の特徴、主にその子の魔力が分からないことには途方もない時間がかかってしまう。


俺たちは古龍たちと共に連れ去れた子の両親の元へと向かう。俺たちは今、この地の多くのドラゴンから嫌われているので古龍が共に説得をしてくれることになったのだ。おそらく古龍がいなければ誰の協力も得られないだろうからな。



「長、客人。こちらです」



古龍の元へと案内してくれた2頭のドラゴンが子の両親がいる洞窟へと案内してくれた。今回の件に協力するということになり、俺たちは古龍の客人という立場として迎え入れてくれることになったのだ。何事も立場というものは大事だからな。


そして俺とルナ、そして古龍がゆっくりとその洞窟の中へと入っていく。少し先に進んでいくと奥から物凄い地響きと共に何かがこちらへと近づいてくる音がした。その直後、1頭のドラゴンが大激怒しながらこちらへと走ってきた。



「この盗人どもが!!!!!!お前たちただでは殺さんぞ!!!!!!!」


「待て馬鹿者が!!!」



俺たちの姿を見て怒りで我を忘れて暴走していたドラゴンだったが、古龍の強烈な威圧によって正気を取り戻した。落ち着いてこちらの方を見て古龍がいることにようやく気付いたのか、すぐに顔を青ざめさせて首を垂れた。



「お、長!!!申し訳ありません...!!!お見苦しいところを...」


「まあよい。子のことが心配なのは分かっておる」


「ありがとうございます!!ところで、そいつらは...?」



頭を伏せながらそのドラゴンはこちらの方へと視線を向けた。その目は先ほどよりは落ち着いてはいたが、中に灯る怒りの炎はまだ完全に消えていなかった。



「この者たちは我の客人だ。此度の誘拐に関して彼らの協力を得られることになったのだ。彼らはもちろん今回の事件とは無関係であり、今は共にそなたらの子を救出しようとする仲間じゃ。丁重に対応するように」


「......わ、分かりました」



古龍の話を素直に受け入れたような感じではあるが、心の奥ではまだどこか納得できていないようだ。まあすぐに受け入れられないのも無理はない。自分の子が人に連れ去れてしまい、居場所も安否も分かっていないのだからな。


この事に関してはこれから俺たちが行動で彼の信用を得ていけばいい話だ。



「俺はSSランク冒険者のオルタナだ。こちらは仲間のルナ。この度の件は同じ種族の者としてとても恥ずかしく思う。我々も攫われた子の救出に向けて全力で取り組ませてもらうのでよろしく頼む」


「よ、よろしくお願いします!」


「.....ああ、よろしく」



父親ドラゴンはぶっきらぼうに返事を返した。その様子を見て古龍は大きなため息をつくが特に何かを言うことはなかった。


そして古龍は父親ドラゴンに奥にいる母親に対して説明をするよう言いつけた。先に説明しておかなければまた要らぬ言い争いが起こってしまうからな。そのことを了承した父親ドラゴンは先に説明を済ませるために奥へと戻っていった。



それからしばらくして父親ドラゴンが戻って来た。話によると母親ドラゴンは子がいなくなってからかなり塞ぎ込んでしまっているようで落ち着かせるのに少し時間がかかっていたようだ。


そうして俺たちは父親ドラゴンの案内の元、母親のいる場所へと向かっていった。少し洞窟を先に進んだ場所に古龍がいた場所ほどではないが大きな空間が広がっており、そこの隅っこに小さく丸まっている1頭のドラゴンの姿があった。



「連れて来たぞ」


「...はい」



力ない声で返事をした母親ドラゴンはゆっくりと起き上がるとのそのそとこちらへと向かって歩いてきた。その姿からはドラゴンの威厳というものは感じられずかなり衰弱してしまっているように感じた。



「ようこそおいで下さいました。長、そして客人」


「俺は冒険者のオルタナ、こちらは仲間のルナ。連れ去られた子の救出にぜひ協力させてもらいたい。そのためにあなたたちの子の魔力が分かるものがあればぜひ見せて欲しいのだ」


「それでしたら、あの子が生まれた時の卵の殻ではどうでしょう」



そういって母親ドラゴンは洞窟の奥から大事そうにとっておいたと思われる大きな卵の殻をいくつか持って来た。俺はそれを手に取って殻に残った魔力の残滓を確かめる。



「...僅かに子の魔力が残っているようだ。これならいけるかもしれない」


「......本当に私の子を助けられるのですか?もしかしたらもう殺されて...」



すると母親ドラゴンは自分の言葉で嫌なことを想像してしまったのか突然泣き出してしまった。その様子を見て父親ドラゴンが必死に慰めようと声をかける。


俺は母親ドラゴンの元にゆっくりと近づいていき優しく彼女の鼻先を撫でながら話しかける。



「おそらく子は生きている。お子さんを攫った人物のことは分からないが、ドラゴンの子供を攫う理由として考えられるのは『飼いならして戦力とする』か『見世物として育てる』だと思う。殺して素材とするのであればドラゴンの子供は小さく未熟すぎる。だからまだ生きている可能性が高い」


「ほ、本当ですか...?」



俺の言葉を聞いた母親ドラゴンは安心したのか少し表情に明るさが見え始めた。実際にドラゴンの子を攫うメリットとして考えられるのは生きた状態で活用することしか考えられない。それであれば犯人たちが子を殺すというのは可能性としてかなり低い。



「オルタナさん、魔力が分かったところでどうやって探すんですか?古龍さんでも探知出来なかったって...」


「ああ、その通りじゃ。我の探知できる範囲はこの地全域はもちろんのことその周囲に広がる森全域。攫われた直後に探知してその範囲にいないということは今はもうこの大陸全てを探し回らないといけないということじゃぞ」



確かにルナと古龍の言う通り、攫われた日からかなりの日数が経った今だと探索範囲はこの大陸全土に広げないと見つからない可能性がある。この大陸にはこの王国以外にも多くの国があってとてつもない広さがある。その全てを隈なく探すというのは普通なら途方もない時間がかかる。


だが俺も何の策もなく動いているわけではない。



「それについては問題ない。俺にはこれがあるからな」



俺はそう言って異空間から魔道衛星の遠隔操作魔道具を取り出した。それを見てルナだけはなるほど!という顔をしていたが、ドラゴンたちは何が問題ないのか全く分かっていなかった。



「これの魔道具があれば大陸全土だろうが短時間で特定の魔力反応を探し出すことが可能だ。これで攫われた子の居場所を探る」


「その魔道具、大陸全てが探知範囲なんですか?!」


「まあ、そうだ」



実のところは大陸全土どころではないけれど。探知位置を変えればこの惑星全体が探知範囲となりうるということは説明が面倒なので今は止めておこう。



「そ、そんなものがあるのならすぐにでも我が子の居場所を探してくれ!!!」


「もちろん、すぐに探すつもりだ」



父親ドラゴンの懇願を受けて俺はすぐに魔道衛星を起動させる。魔道衛星の探知機能にドラゴンの子の卵の殻から僅かに分かった魔力を登録し、その魔力あるいはその類似した魔力の反応を探すように設定する。


探知範囲はこの大陸全土。

ついに探知を開始する。





探知開始からおよそ5分、ようやくこの大陸全土の探知が終了した。その結果が遠隔操作用の魔道具に映し出されたのだが、そこには驚く結果が出ていた。



「なっ、反応がどこにもない...?!」


「えっ?!それってどういう...」


「それはつまり...すでに大陸外に連れ去られてしまったということかの」



俺たちはその予想外の結果に驚きを隠せずにいた。常に冷静だった古龍もこの結果には少し怒りが湧きあがっているようで、声が少し低くなっていた。



「そ、そんな...大陸外だなんて...」


「お、落ち着くんだ母さん...!」



ドラゴン夫婦もこの結果には動揺が全く隠せておらず、母親に至っては今にも気を失いそうなほど絶望していた。万が一、大陸外に逃げられていたとすればドラゴンでさえ広大な海洋を越えるのは難しいので絶望するのも無理はない。



「だが犯人がこの大陸外の人物であったり、大陸外に逃げるという選択肢がある人物であるという線は正直低い。ドラゴンの子供1頭にそれほどまでの労力と貴重な魔法遺物を使うものだろうか。それに大陸外の人物ならこの大陸の地形に詳しすぎるし、ただ大陸外に逃げただけというのもリスクが大きすぎる」



現状ではこの大陸のどの国も大陸外の国との関係は一切ない。そもそも大陸外にどんな国があってどんな地形でどのような存在がいるのかというのは全く分かっていない。


魔道衛星でこの惑星すべての地形を把握できる俺のような者が大陸外の国にいるのであれば分からなくもないが、そのようなことがされている痕跡などは全く見たことがない。


つまり攫われたドラゴンの子が大陸外に連れられたというのは論理的に考えると可能性としては圧倒的に低いと考えてもいいだろう。となるとこの大陸内でその子の反応が見当たらなかったのは...



「この大陸のどこかで魔力が外に漏れ出さないよう厳重に結界が貼られた場所にいる可能性...」


「「「......?!」」」



俺のボソッと呟いた言葉にルナや古龍、そして父親ドラゴンが反応する。彼らも俺と同じくその線の可能性がまだあった事に気が付いたのだ。



「でも、それじゃあオルタナさんの魔道具でも探せないのでは...」


「いや、そうでもない。魔力が漏れ出さないように結界が貼ってあるとすれば、逆にこの大陸にある該当の結界が展開されているところを探せばいい」


「お主の魔道具はそんなことも出来るのか?!」



古龍は驚いて俺が手に持っている魔道具をじっくりと覗き込んでいた。この魔道具は長年生きている古龍でさえ驚くほどの代物らしい。だからこそ出来る限り人には知られたくないのだ。



「では今度は魔力の流出を防いでいる結界、およびそのような類似効果を持った結界が展開されている場所を探してみよう」



俺はすぐに探知対象を変更し、該当の効果を持ったある程度の大きさがある結界を探知させるよう設定する。結界というのは他の魔法やただの魔力とは違った独特の魔法構造をしているので、その特徴さえ分かれば探知は出来る。



「では、探知開始!」



再びこの大陸全土を探知範囲に設定して該当の結界が展開されている場所を探知し始めた。そして約5分後、ついにその結果が遠隔操作魔道具に映し出される。



「当たりだな」



俺の手に持っている魔道具には該当の結界が張られている場所がしっかりと表示されていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る