第23話 遠隔操作ゴーレム


俺は魔道衛星で結界のことをこの場にいる全員に伝えた。もしかしたら我が子を助け出すことが出来るかもしれないと父親と母親のドラゴンが二人で喜びを分かち合っていた。



「だが、この様子だと結界は10か所ほどあるようだが...」


「それにかなり一個一個の距離が遠いですね。ドラゴンの皆さんと協力して探すとかしないと難しそうですね」


「長、ここは俺に任せてください!!我が子を一刻も早く救い出すために全力で飛び回ります!!!」



父親ドラゴンが威勢よく古龍に宣言する。

だが気持ちは分かるが少し落ち着けと古龍に軽くお叱りを受けていた。



「客人よ、これらのどこかに攫われた子がいる可能性が高いのじゃな?」


「ああ、そう考えている。ただ、いくつかの地点が少し厄介なところでな...」


「一体、どういうことだ?」



俺の発言に古龍が首を傾げる。

俺は探知した複数の地点を指差しながら説明する。



「探知した結界の多くが各国の主要な建物がある場所でな。俺たちが属している王国内でもかなり面倒なのだが、別の国ともなると最悪の場合だと国際問題に発展しかねない」


「だったら俺たちが行けばいい話じゃないか。俺たちドラゴンにとって人の国だのなんだのは関係ないからな」


「いや、確かに人の国家間の問題には関係ないが我らには別の問題があるじゃろ」



父親ドラゴンの提案を却下した古龍。

古龍は父親ドラゴンに自分たちの置かれている状況をよく考えるよう伝える。



「我らは今、子を盾に取られているようなものじゃ。そのような状況でお前が奴らと相対した時に手を出せるのか?」


「そ、それは...」


「それに今はまだどの地点に子がいるかも分らぬ以上、我らが行けば騒ぎになって誘拐犯に気づかれるのは必然じゃろ」


「そうだな、まずはこの地点のどこに攫われた子がいるのか見つける必要がある。それに関しては俺に任せてくれ」



俺は遠隔操作魔道具を異空間へとしまうとその場で胡坐をかいて座り込む。そしてその場にいる全員にこれから行う作戦についての説明を始める。



「これから俺は魔法で複数のゴーレムを各地の結界のところへと送り込む。その間、俺の身体は無防備になるからルナと長には護衛を頼みたい」


「それはいいのじゃが、一人で大丈夫なのか?一つ一つの地点がかなり離れているのじゃぞ」


「問題ない、こちらには秘策がある」



彼らに俺の魔道具や詳しい技術を教えるのはかなり時間がかかるのでとりあえず秘策があるということで納得してもらうことにした。ルナは俺の魔道車を見ていることから何となく移動の手段があるのではないかと理解できているようですぐに了承してくれた。



「分かりました!頑張ります!!」


「...まあ、今はお主に任せてみることにしよう」



俺は彼らの了承を得るとすぐに作戦を実行に移すためにオルタナの接続を切った。もちろんオルタナはオート防衛/スリープモードに設定してあるので万が一ドラゴンが攻撃を仕掛けて来ても負けることはないだろう。






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そして僕は自室で目を覚ました。自分の部屋に帰って来るとのんびりしたくなる気持ちが湧いてくるのだがまだまだやる事があるし、これからさらに忙しくなるだろう。



僕は体の状態を確認して問題ないことを把握すると、すぐに目の前の大きな魔道具へと視線を移した。この魔道具は『魔法集積処理システム』といい、前世で言うところのパソコンのようなものである。様々な魔道具に搭載したシステムを開発・構築したり、遠隔操作したりすることが出来る。


これで魔道衛星やオルタナシステムも遠隔操作しているのである。

この世界で得た魔法知識の集大成ともいえる代物だ。



僕はこの魔法集積処理システムを用いて今から合計10体のゴーレムの同時操作を行う。それらを先ほど探知した結界の位置に送り込み、結界内部の情報を得ようという作戦である。


もちろん一部結界には不審者の侵入を拒む効果があるものもあるかもしれないし、そもそも警備が厳しいかもしれないので使うゴーレムは可能な限り小さく高性能な浮遊タイプにする予定である。


流石にこの機能は先ほどの遠隔操作魔道具では行えないのでこうやって自室へと帰ってきたという訳だ。これならドラゴンと人が争うなんてことにもならず、万が一見つかったとしても誰が送り込んだのか分からないようにできる。



そうして僕はすべてのゴーレムの準備を済ませて起動させた。これらのゴーレムは肉眼では注視しないと見えないほど小さなゴーレムたちだが、機動性と隠密性に優れておりまず見つけることは出来ないだろう。


全てのゴーレムが起動するとシステム上に10体全てのゴーレムの情報が映し出されて無事同時操作が行えていることの確認が出来る。


全てのゴーレムが問題なく動いていることを確認し終えると僕は魔道衛星から得られた情報をシステムに読み込み、それに示された結界の場所に一体ずつゴーレムを空間魔法で転移させていった。


普通、転移魔法でこれほど離れた距離の移動は不可能なのだが魔道衛星によって得られた正確な位置情報と地形情報があるおかげで出来ている。



そうして10体ものゴーレムが無事に各地点に到着した。

ここから結界内部へと侵入を試みていく。





全ゴーレムが結界付近に到着してからおよそ10分後、ようやくすべての結界内に侵入することが出来た。やはり一部結界には部外者の侵入を禁止する効果が施された者もあったが、ゴーレムを通じて結界の解析を行い、ゴーレムを結界に適応させることによって侵入に成功した。



結界が貼られていた場所の一部は各国の王城であったり、国の主要地だったりと明らかにドラゴンの子がいる可能性が低い場所も含まれていたのだが、今回の一件が万が一国主導の犯行である可能性も無くはないので念のため全ての場所を調査することにした。



そして結果から言うと、ドラゴンの子の居場所が判明した。

場所はこの国のアンダリング男爵領にある、とある館の地下である。


その場所は男爵領の特に何の変哲もない場所だったのだけれど、そのような場所にわざわざ結界を張っているということにゴーレムを潜入させる前から少し怪しさを感じていた。なのでそこはいくつかの結界の張られている場所の中でも可能性が高いと判断していた内の一か所であった。


侵入したゴーレムからの情報によると攫われたドラゴンの子は地下奥深くにある牢の中で眠らされているようである。その牢にはさらに結界が施されており、こちらも魔力の流出を防ぐ効果と強固な防御力のあるものとなっていた。


そして攫われたドラゴンの子は俺の予想通り殺されてはおらず、弱ってはいるが命に別状はなさそうであった。これに関しては本当に良かった。


攫われたドラゴンの子が収容されている牢の床に効果は弱いながらも継続的に回復を行う魔法が組み込まれており、そのおかげでドラゴンの子が衰弱状態ではあるが生きながらえていたのであろう。




僕は全てのゴーレムを無事に回収し終えるとすぐにオルタナシステムを起動させて接続し、ルナや古龍たちの元へ帰ることにした。






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俺がオルタナに接続すると楽しそうに古龍と談笑しているルナの姿があった。俺のいない間にどうやら例のトラウマはかなり克服しているようで良かった。


俺はすぐにオルタナの身体を確認して異常がないことを確認すると、ゆっくりと起き上がる。その様子に気づいたルナと古龍が話を中断し、こちらへと話しかけてきた。



「あっ、オルタナさん!お疲れ様です!!」


「思った以上に早かったな、上手くいかなかったのか?」


「いや、上々だ。攫われたドラゴンの子の居場所と生きていることも分かった」



俺の言葉を聞いたその場の全員が喜びに満ち溢れる。特に母親ドラゴンは泣き崩れ、父親ドラゴンは雄たけびを上げて喜びが溢れだしていた。



「よっしゃ!!!我が子よ、今から助けに行くぞ!!!客人、我が子の居場所を教えてくれ!!!」


「待て、お前たちの子が囚われているのはこの国の男爵領にある屋敷だ。そんなところにお前が行っては罪のない人達にも被害が出るかもしれない。俺が向かうから大人しく待っておけ」


「そうじゃ、無策に行動するのは止めておけ」


「お、長......」



古龍が父親ドラゴンを宥めるがそんな父親ドラゴンは少し不服そうな様子であった。居場所も安否も分かった以上、居ても立っても居られないという気持ちは分かる。


そんな彼に俺は優しく言葉をかけることにした。



「安心しろ、俺がお前たちの子を無事に連れて帰って来る。お前たちは子が帰ってきた時のために笑顔で待っていてくれ。その方が子も安心するだろ」


「.........ああ、そうだな。客人、頼んだぞ!」



そのように父親ドラゴンは力強く笑顔で言葉を返す。

すると後ろからルナが俺の裾を掴んできた。



「オルタナさん、私にも何か出来ることはありますか?」


「ルナ、君にはここで俺がドラゴンの子を保護した直後に転移させる際の受け手になっていて欲しい。命に別状はないが、かなり衰弱しているだろうから治療も含めて頼みたい。俺はドラゴンの子を保護した後も少しやる事があるから君が元気なドラゴンの子を両親の元へと返してやってくれ」


「分かりました!任せてください!!」



頼もしそうに返事をするルナに座標発信用魔道具を手渡してそれを持っているよう頼む。これの魔道具で俺との二点間を魔道衛星を経由することで常に把握でき、転移魔法を正確に使うことが出来るようになる。



さて、ここからがこの依頼の最終局面だ。

気合を入れてかからねば...!







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