File:11 Go with The Wolf(4)

 爆発音と共に照井は地面を蹴って前に勢いよく飛び出す。一瞬だが足が黄色いオーラをまとっていたのが見えた為、「気」を使って推進力を上げたのだと推測できる。

 対する四澤は翼を広げて少し浮き上がると、羽と額の3点から細い光の帯を放出し、胸の前に集めている。

 そしてそれは一秒と経たずに低い唸るような音を発しながら放たれる。

 飛んできていた光線の正体はこれか、と理解する。

 照井は光線が飛んできていることを理解しているのかいないのか、ノーガードで四澤に接近を続けている。

 自分も駆け出してはいるが、照井のスピードにも光線のスピードにも追いつけそうにない。

「危ない!」と叫ぶが、照井は避けることなく突っ込む。

 もうダメだ、と思った。しかし次の瞬間、光線の光を裂くようにして照井が現れる。

「何!?」

 光線が効かなかったことへの驚きからか、防御すら取っていない四澤に照井の拳が会心の一撃となる。

「甘えよ!遠距離に頼りすぎて鈍ってんじゃねえか?」

「馬鹿な…バリアを纏っても居ないのに何故無傷でいられる?」

 照井は人差し指を立てて左右に振る。

「あんな燃費の悪い手はそんなに使うもんでもねえのさ。一辺倒じゃなくて応用が大事なんだよ。」

 目を凝らすと、照井の体にうっすらと黄色いオーラが被っているのが見える。

「薄く気を纏っている…?」

「正解だ破堂。」

 体勢を立て直した四澤は後ろに飛び退く

「タネが分かればその程度、捻り潰す!」

「だから甘えっての!」

 今度は再装填リチャージの行為に移る前に照井が四澤に迫る。まっすぐ突撃しながら途中で上に飛び上がり、例えるならばダンクシュートの要領で体重を乗せた拳で四澤に攻撃を加える。

「ぐぅっ…!」

「その程度で俺の決闘に乗ったのか?小賢しい飛び道具なんか捨ててかかってこい!」

「舐めるなよ、狗!」

 四澤が拳を握り込む、同時に赤黒い禍々しい電撃のようなエフェクトが腕に迸る。

 ゆっくりとした動作とは裏腹に、突き出された正拳突きは照井が避ける隙を与えない程に素早い。

「なっ…!?」

 両腕で受けたにもかかわらず、照井が自分の方まで飛ばされてくる。

「大丈夫ですか照井さん!」

「問題ない…が、あの拳を何度も受けるのはキツイな。今のですら一歩間違えたら腕が折れてた。」

「ど、どうしましょう、このままじゃジリ貧ですよ?」

「うーん、とはいえお前の能力は最悪殺してしまうし…いや待てよ。」

 照井は背後の柱に目をやる。

「破堂、能力の適用範囲を絞る練習ってことで背後の柱から投げるものを削り出してみろ。」

 ビシバシ行くとは言われたがこんな急に技術を求められるとは聞いていない。

「ええ!?そんな急に言われても無理ですよ!」

「俺が時間を稼ぐ間にやってみるんだ、やらなきゃ2人仲良く死ぬ。」

「で、でも…」

「人生で最も重要なのは諦める前に1回失敗してみることだ。失敗してそれで学ぶ事が出来れば人はどこまでだって伸びていける。」

「今失敗したら死ぬんですけど!?」

「やる前から悲観すんな!俺がお前を信じてやる!」

 照井は言い終わると同時に素早い動きで四澤に突撃する。四澤はそれを防ぎつつ先程の正拳突きを繰り出そうと構え始れている。

 照井がどれだけ耐えれるかは分からない、ボーッとしている暇はない。

 背後の柱に目をやる、上手い具合に削り出して武器を作る…やり過ぎれば柱が全部おじゃんになってしまう。

「そもそも能力の範囲を絞るってどうすれば…」

 自分の能力は触れた物を例外なく破壊し、砂のような物にする。自分でも原理は理解出来ていない。

 必死に今までの自分の能力を使った時の事を思い出す。バイトの時、皿を破壊してしまったハプニングにて乗っていた料理自体は無事だった。

 電童との初任務での、守宮のダガーを破壊した時。あの時は火事場の馬鹿力でゾーンに入っていた為か意識している暇は無かった。しかし思い出すとダガーは刃と持ち手がに破壊されていた。

「別の部分と認識すればいける…のか?」

 試しに仕事用のカバンに入っていた鉛筆を、芯だけを意識して触る。

「やっぱり…!」

 狙い通り破壊されたのは芯の部分のみで、周りの木の部分は残ったままになっている。

 道具を漁り、マーカーペンを取り出すと柱に二本の線を引く。ノコギリで切る時の線のように削られる部分を二本の線の間に作ったのだ。

 指でその線をなぞるように触れる。すると触れた部分が光り出した。

「頼む…!」

 次の瞬間、ポロリと柱の1部が落ち、拳より少し大きめの手頃なコンクリートの欠片になった。

 早く報告しなければと後ろを振り返る。照井は少し傷を受けたのか、端々から少量出血していた。

「照井さん!」

「出来たか、ならそれをこっちに投げてくれ!」

 言われた通りに思い切り投擲する。一瞬だけ四澤がこちらを見たが、また照井の方に向き直る。

「そんな小石で何が出来る?」

 小馬鹿にしたように四澤が笑う、照井もニッと口角を上げて答える。

「視界を奪えるのさ」

 飛んできたコンクリートの塊を、気を纏った腕で思い切り殴りつける。コンクリートは砕け、粉塵となって四澤に襲いかかる。

「この程度ォ!」

 とは言ったものの、四澤は本能か、生理的反応一瞬目を瞑ってしまう。

 その隙を見逃さず、照井は気を目視出来るほどに拳に集める。

 そのまま四澤を殴りつけるのか?と思ったが、照井はその拳を思い切り地面に叩きつける。

「どうした?視界を奪っただけじゃないか」

 建て直した四澤が距離を取ろうと翼を広げて浮かび上がる、もうダメだと思ったその時。

 地面から吹き出た黄色い閃光が四澤を襲う。

「ぬああァァ!!!」

 その閃光、というより光の束をモロに受け、四澤は翼を焼かれてしまい受け身も取れず墜落する。

「まだやるか?」

「…負けだ、オレの…」

 四澤は敗北を認めると同時に気を失った。能力も解除されたのか悪魔のような外見から人間らしい見た目に戻っていく。

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