File:12 Go with The Wolf(5)

「フゥ…危なかった…」

 四澤が倒れたと同時に照井も倒れ込む、慌てて駆け寄って無事を確認する。

「照井さん!?」

「安心しな、生きてるぜ。」

 腕だけ上げてサムズアップする。しかし出血などが1部あるためこのままではまずいと本部に電話をかけ、解決の知らせと応援を要請する。

「おい破堂、俺の代わりにこれを使ってアイツを拘束しといてくれないか、目覚めてまた暴れられちゃあ困る。」

 そう言って手錠を投げ渡される、落っことしそうになるが何とか保持し、倒れている四澤の両腕を後ろに回した上で拘束する。

「今回は比較的マシだったが…1人だったらきつかったな、お前を連れてきて正解だったよ。」

 多少回復したのか、照井は上半身だけ起こしていた。

「大したことはしていないですよ、戦いに直接加われませんでしたし。」

「いや、卑下することじゃねえ。課した課題を短時間で成し遂げるってのは重要なことだ。どうやって能力を制御した?」

「自分の能力って、部品ごとに適応されるような傾向があったんです。だから削りたい部分を別の部分と解釈する為に、こうやって線を引いてみたんです。」

 照井は感心したように頷く。

「能力の解釈の拡大か、若い奴にこそ出来るやり方だな。ただ、もうちょい突き詰めた方がいい。」

 照井は気のバリアを再度展開する。

「こういう風に、俺の能力は纏うというデフォルトの状態から発展してバリアなどに繋げる。これは自分が今までやってきた事だから得意だからこそ簡単に出来る。逆にだが――」

 今度はデコピンの要領で気の塊を弾く、黄色い光の弾はそれなりの速度でどこかへと飛んで行った。

「こういう風に放出する、ってのは俺はあまり得意じゃなかった。これは能力を身につけてから必死に練習して使えるようになった。」

 感心しながら聞いていると、一つ引っかかる発言があった。

「照井さん、今能力を身につけてからって言ってましたけど…」

「ああ、言ってなかったか。俺は通常のオーバーズとは違って生まれつきじゃない。後天的にオーバーズになった特殊型なんだよ。」

「特殊型って言うと、世界でも例が少ないって言う…」

「そうだ、俺は日本でも10人しか発見されていないそれなんだ。」

 オーバーズの大半は先天的に能力を身につけて産まれてくる、親がそうであろうとなかろうと例外は無い。いわば大半のオーバーズとは20年前は大人気であったアメリカン・コミックスであるX-MENのミュータントに近い存在と言える。

 逆にだが例外例として、オーバーズに後天的に覚醒する、ミューテイトのような存在がいることは語られている。ただしその数はとても少ないともされている。

「眉唾だと思ってました…」

「みんな最初はそう言う。俺自身ですら最初は信じられなかったからな。」

「つまり使い方はほとんど最初から覚えたようなものなんですね。」

「ああ、最初はお前みたいに制御出来ずに色々壊しちまったりした。それでも、俺はこの能力でやらなきゃいけない事がある。死にものぐるいで練習したのさ。」

「やらなきゃいけないこと…」

 そうだ、と言う代わりに照井は深く頷く。

「俺の経歴が気になるなら、電童にでも聞いてみろ。俺は自分について言うのが恥ずかしくて苦手でな。」

 そう言っているうちに、ヘリの音がこちらに近づいてくる。

「言ってる間にお迎えか、鍵崎はいるのかねぇ?」

 自分たちのいる場所は天井が無いため、ヘリはほぼ真上に上がってくるとゆっくりと降下してくる。

 邪魔にならないように避け、完全に着陸するのを待つ、ヘリコプターのドアが開くと3名ほどが降りてきた。

「照井君、破堂君、無事かい?」

 氷川が心配しているのか居ないのか分からないトーンで手を振りながら近づいてくる。その横には鍵崎もおり、前会った時と同じ不機嫌そうなしかめっ面をしている。

「課長が迎えに来るとは珍しいな、雨でも降りそうだ。」

「やだなァ、私だって直接部下を労いに来ることだってあるのに。」

「少なくとも俺はこれで二回目だ。」

「2回も経験したなら幸運だよ、誇ると良い。」

 へいへいと言いながら照井はゆっくりと立ち上がる、まだダメージが残っているせいか多少ふらついてはいるものの助けは要らない程ではあるように見える。

 鍵崎が氷川の部下である黒服と協力して四澤を持ち上げると、ヘリの後部に運び込む。

「ほら破堂君、ぼーっとしてないで行くよ?」

「あっ、はい!」

 氷川に声をかけられ、急いで自分も乗り込んだ。


 その後庁舎に戻って報告書やら始末書を書いていると、電童が入ってきた。

「戻ったか、照井との任務はどうだった?」

「いきなり課題を吹っかけられたので大変でした…」

「正直似たような使い方をしているのがアイツしか居ないのもあるが、アイツは感覚派でな。教えるのには不向きだ。すまん。」

 どうりで教え方が体育会系だ、と納得する。

「いえ、まぁついていけてたので…」

「なら良かった。アイツは組んで行く時は一番駆り出されやすいからな、今後とも仲良くしておけ。」

 今日みたいな事はしばらく勘弁願いたくも思うが、それより気になったことを聞いてみようと質問する。

「あの、照井さんってどういう経歴でここに?」

「アイツの経歴か、まぁよく知っていると言えば知っているがな。」

 手帳を開いて思い返すように電童が話し始める。

「俺が所属して一ヶ月ぐらいの時だ、都内でオーバーズ同士の激しい戦闘があって俺ともう1人、黴扇ばいせんという先輩が出動したんだ。」

 黴扇という名前は初めて聞いた、おそらく自分が会っていない主要メンバーの2人のうちの1人のことだろうと思う。

「一方は照井で、もう一方は炎系統のオーバーズだった。その時はまだオーバーズに対する差別意識が薄れる前の話だし、それ以上に炎系統は今でも恐れられているからな。その差別に耐えかねて暴れだしたらしいと後から聞いた。」

 炎系統への差別意識はオーバーズ間でも強い、自分はあまりそういう事は考えて居なかったのだが、東京大炎上を引き起こした分、能力者にとっても煙たく感じるのはしょうがないかもしれない。

「俺たちが現場に着いた頃、照井は襲われていた人達を助ける為に戦い、そいつを倒した。ただ無許可でオーバーズが戦闘で能力を使うことは違法だ。そういう訳で相手を鍵崎に引渡した後、俺と黴扇は照井をどうするか氷川さんに指示を仰いだ。そこで氷川さんは『面白そうだし連れてきて』と言って、照井と対談してスカウトした。無断戦闘行為の揉み消しを兼ねてだがな。」

「なんとなく親近感が湧きますね…」

「お前も賠償金との引き換えだったな。まぁそんな訳だったんだが、奴はその代わりとして氷川さんに条件を提示した。」

「それって?」

「とあるオーバーズの捜索依頼だ。そいつの詳細は不明だが、照井と似た系統で気を操る能力らしい。」

「肉親だったり?」

「いや、仇だそうだ。自分の親であり師匠たる人間を殺された事への復讐の為に探しているらしい。」

 照井の言っていた「やらなきゃいけない事」とはこれの事なのか、と気づく。

「でも手がかりがないんですよね」

「ああ、そいつの姿と能力しか覚えて無いらしい。だから氷川さんの情報網を使って探してもらっているそうだ。」

「なんというか…意外ですね。」

「何がだ?」

「いや、ああいう人ってそういう暗い物なんてないんじゃないか、と思うんですけど、なんというか意外だなぁって。」

「人には色々ある、そういう事だ。」

 手帳を閉じて報告書を遅れないようにと釘を刺してから電童は自分の席へ戻って行った。

 その後報告書の再三の修正を喰らい、感傷に浸ることも無く日が過ぎていったのだった。

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