File:10 Go with The Wolf(3)

 議事堂通りを北側に回るように走っていく、その間にもひっきりなしに光線が飛んでくるので命の危機を何度も感じる。普段の自分なら体力がとっくに切れているだろうが、死を回避しようとする本能が足を動かしている。

 一方照井は息が乱れている様子もなく自分の2、3歩先を走っていた。

「もう少しだぞ破堂!大丈夫か?」

 呼び掛けに応えられる余裕は無かったが、どうにか首を縦に振りながら一心不乱に走る。

「首が触れんならまだ行けるな。そろそろ第8撃が来るから気をつけとけよ。」

 その言葉から2秒と経たずに光線が飛んでくる。避けることも可能に感じたが手を出しその光線を破壊する。

 手がまた少し熱くなるが、慣れや疲れからか気にならない。

「よし、3秒後に左に曲がるぞ!」

 照井から指示が飛ぶ、体を左に無理やり捻り曲がると無惨にも崩れたまま直されない旧都庁が目に入る。旧都庁も20年前の事件で被害にあっており、それ以降良くない輩のたまり場になっていたと聞く。

 そのまま前進して庁舎の麓にようやく辿り着く、膝に手を当てて息を整えている間に照井がいつの間にか取り出していたメガホンで空に向かって呼び掛ける。

「おい四澤!せっかくお前の根城の麓まで来てやったんだ、降りてくるってのが筋じゃねえのか?」

「随分と諦めの悪い狗だ、良いだろう。」

 四澤の声が響く、しかしそれはテレパシーではなく生の声であった。

 蝙蝠の羽を禍々しくしたような翼をはためかせ、ゆっくりと四澤が舞い降りる。

 遠くからではよく分からなかったが、四澤の全身はまさに悪魔と言ったような、暗い紫色の筋肉に覆われていた。

「ようやくご対面だな四澤 一義。俺の名は照井 狼、特殊対策課の依頼でお前を捕まえに来た。」

「敵に向かって随分と丁寧な挨拶だな。」

 四澤は感心したような表情を見せる。

「俺も武闘家だったもんでな、挨拶は大事だろ?」

「武闘家としてオレに挨拶したつもりか?」

「そうだとも、お前の経歴は見たんでな。武闘家同士かつオーバーズ同士だ。お前と戦って、そしてお前を倒してからお前を捕まえる。」

 照井が「自分はお前に勝てる」とでもいうように四澤に挑発を含めた宣戦布告をした為に、四澤は顔にいくつも血管を浮かばせて掴みかからんがごとく迫る。

「良いだろう。横のもやしも含めてかかってくるがいい…捻り潰してくれる。」

 勝手にもやし呼ばわりされたことが癪に触った。もやしなのは事実だが初対面の人間に言われるのは嫌なのだ。

「決闘の場所に案内してやる」と四澤が言い、急に首根っこから引っ張られ、空中に浮かんだかと思うと、急降下して地面に転がされる。

 周りを見渡すと、コンクリートの四角い地面と四隅に鉄筋が所々むき出しになった柱が立っているだけの場所だった。

 周りを見渡すと、先程自分たちがたっていた地点が遥か下に見える。

「旧都庁…なのか?」

「おあつらえ向きの決闘場リングだろう?」

 照井は床のあちこちを叩いたり飛び跳ねてから向き直ると

「悪くねえな、存分にやれそうだ。」

 と言って、端の方に下がる。自分も決闘に巻き込まれているので照井の方に続く。

「勝敗は?」

「一方が倒れるまで。」

「ラウンドは?タイムは?」

「ワンラウンドのみ、時間制限無し。」

「禁止行為は?」

「銃火器その他武器の禁止、リングの柱などは特別に許可してやる。」

「オゥケイ、了解したよ。」

「今からビームを撃つ、それの着弾が合図だ。」

 そういうと四澤は横に光線を放つ、避けていた時はとても速く感じていた光線の速度が、妙にゆっくりに感じられる。

 張り詰めた空気が、刹那を数十分に引き伸ばしているように思えた。

 冷や汗が滴り、地面に落ちるか落ちないかの一瞬、爆発するような音が響いた。


 試合、開始。

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