第17話 笑っていたい

 笑っていたかった。比奈ちゃんのようになりたかった。あの底無しの優しさが欲しかった。


「はぁ………。」


 何の気力も起きない。疲れた。ヒリつく喉からは声もでない。もうなにも考えたくなど無い。

 自室へと向かう足取りは嫌に重い。なるべく動きたくない。静かな家の中に、私の足音だけが響く。

 やっぱり、私だけが浮いている。私だけが煩いのだ。私だけが、要らないのだ。

 摂理に任せその身をベッドに投げた。


「あぁ………お腹空いたな。でも食べたら吐くしな………。」


 意味の無いことを呟く。もうなにもかもが辛く、苦しい。いっそ、今日はもう寝てしまおうか。制服のままそんなことを考えた。


「さすがにまずいか………。」


 結局、その回答を出す。明日が辛い。今日だって辛かったのに、それ以上に明日が怖い。あの目が怖い。疎まれる、蔑まれるあの目が。あぁあ、どうしよう。もう満足にストレスを発散できる相手もいなくなった。


「まぁ、あれはしょうがない。」


 そう割りきった。まぁ少し酷いことをしたかなとも思っているけど、あの子だって似たようなことしてたし。


「おあいこだよね。」


 あぁあ、もういいや。

 結局、私はその日なにも食べなかった。だから身長も延びないんだろうな、何て思いつつも食べたところでどうせ吐き出すのだから意味なんて無いように思える。

 そうして、次の日。今日は休日である。部活にも入っていない私は特段何をするでもなく、ただ引きこもっていた。部屋のカーテンも締め切って薄暗いまま。


「藤堂くんって休みの日は何してるんだろう………。」


 ふと、そんな風に考えた。別に友達でも何でもない筈なのに、なぜかそんな思考が頭をよぎったのだ。


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――――――――――

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「千咲、入るぞ?」


 今日は休日だ。だからと言うわけでもないが、僕はその病院に来ていた。


「お兄ちゃん、先週も来たじゃん。」


 そんな風に茶化される。


「まぁ、来たっていいだろ?」


「いいけど。あんまりシスコンが過ぎると彼女出来ないよ?」


 その一言に浮かぶのは、昨日の六花の顔だった。


「あれ?どうしたの?」


「あぁ、いや。」


 そんな風にごまかす。


「それで、学校の方はどう?友達出来た?」


「母さんかよ………まぁ、それなりにな。」


「そっかそっか、ならよかった。」


「僕、心配されてたのか?」


「だって、ねえ?」


「ねえ、とはなんだ。友達くらい作れるさ。」


「ふーん、前までは六花ちゃんにベッタリだったくせに。」


「逆だ、あっちが僕にベッタリだったんだ。と、そうだった。六花に会ったんだよ。」


「六花ちゃんに?」


「あぁ、僕と同じ学校だったんだ―――――。」


 一週間ぶりの千咲との会話。この時間がどうにも落ち着く。僕が、本当に僕でいられる場所がここなんだと再確認できる。この時間があるから、僕は笑っていられるのかもな。

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