第16話 嗤われたって

 きっとこれは私しか知らない話………私だから話してくれた話。それはきっと、私を信頼してくれているから………そう考えるとどうしても浮き足立つ。


「やっと………やっとだよ。」


 そう呟いた。もう居ない、あの影に話しかける。友達と呼べる人………あぁそうだ。こう言うことなんだよ。私が求めていたのは。

 ずっと………ずっと独りだった。寂しかったんだから。自然と笑みがこぼれる。


「ヒナちゃん………。」


 未だに夢に見る。彼女がその病室で私に向かい微笑んだあの日の夕暮れ。それが彼女の最期の日。私に残っている彼女との最後の記憶。


 彼女は私の唯一の友人だった。小学生時代からの付き合いで、人付き合いが苦手だった私にも優しく接してくれた………嬉しかった。中学になって彼女とは離れて………それでも私はヒナちゃんの言葉を思い出していた。


『嗤われても笑っていられる人になりたい。』


 私もその考えに感化されてしまった。染められてしまった。だからだ、私は の仮面を被り続けたのだ。いいや、きっとこれからもそうしていく。それでいい。


 扉を開け、家の中に入る。


「たっだいま!」


 その声に返事はない。当たり前だ。親は仕事で遅くまで帰ってこない。兄弟も居ない。ずっと、ずっと独りだ。でももう違う。私には友達が居るんだ………居るんだ………。

 トイレへと駆け込んだ。気持ちが悪い………ひどい………本当にひどい妄想だ。負の感情を含め全て吐き出す………痛い。焼けるようだ。


「あぁ………あぁあ………。」


 現実へと引き戻される。知っている。あの目が何を意味しているのか。疎まれているのだ。そのくらい解っている。


「何が友達だ………。」


 ふと、そう呟いた………笑って、笑って………嗤われて、嗤われて………何倍も嗤われて。疲れたと言えばまあ疲れた。もう嫌だと言えば、それはその通りだ。何が嬉しくて………過去に縛られなきゃいけないのか。身勝手だって言うのは解ってる。だけど………だけど………。


「もう笑えないよ………比奈ひなちゃん。」


 もう隠せない。もう騙せない。嘘などつく気力は残っていない。私にとって、 など足枷でしかない。とても重たい………縛り付けて苦しめる仮面。比奈ちゃんは酷い………私にこんな思いをさせるなんて………その優しさが本当に、本当に許せない。とっくに心は壊れてた。逃げたかった。でも、自分を傷つける勇気も誰かを虐げれる傲慢さもない。それが本当の私だ。


「助けてよ………。」


 誰も………助けてはくれない。当たり前だ。一之瀬 真矢は不思議な子。嗤われても嗤われても笑っていられる不気味な子。クラスのなかで誰にも馴染めずいつも独りの孤独な子………あぁ、もう―――――。

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