第15話 氷の仮面

「あれ?2人ともどうしたの?」


 僕たちの緊張はその一言によって崩壊した。


「真矢か………。」


 少し疲れた。体の重さがどっと伝わってくる。


「いえ、何でもないですよ。」


 六花はそう言って僕の手を離した。


「なんでもないことはないと思うけど………。」


「いいえ、本当になんでもありません。」


「喧嘩でもしたの?」


「だからなんでも―――――。」


「いい加減教えてよ?でしょ?」


「そうですね………まぁ話しましょうか。」


 どうやらその言葉に六花は折れたらしい。そうして、話し始めた。


「私と蓮は幼馴染みなんですよ。」


「そうなの!?」


「まぁ、普通の幼馴染み………ではないかもしれないですけどね。私は蓮のことが好きだった。それでも………フラれた。」


「え………?」


「なのでまあ、昔のいざこざみたいなものですかね。だから私たちで解決したいんですよ。」


「それは………ごめんなさい。」


 シュンとした表情を見せる。だと言うのに僕の目にはなぜか、どこか嬉しそうに感じているように写った。どう言うことなのかは解らない………だけど、少しわかったかもしれない。真矢は六花と同じだと。


「そう言うことだから。こっちこそごめんなさいね?」


「ううん。ちょっとこっちもデリカシーなかった。じゃあね。」


「ええ………。」


 そうして去っていく真矢の足取りは軽そうで………僕のなかに疑問符だけを残していった。


「さてと………帰ろっか?」


「はぁ、けろっと態度変えるな。」


「まぁ、これが本当の私だからね。」


「そうは言われてもな………。」


 先ほどの六花との話の罪悪感が拭えない。正解も解らない。僕はどうすればいい?


「………なら、言い方を変えよう。私は変わったの。私がそうしたいように変わった。これでよかったんだよ。」


 真っ直ぐ、僕の目を見て彼女は言う。


「本当………なんだな。」


「まあね。だから、蓮が気にすることはなにもない。どうせ、きっと私は変わる。昔みたいになっちゃう。でもそれでいい。」


「それは………。」


「うーん………やっぱり蓮が好きだからかな?」


 そうやって彼女は笑って見せた。先ほどの恐怖など消え失せるほどに眩しく、凍てついた空気を溶かすほど温かく………僕はその笑顔に少し魅せられてしまった。心臓が、一度大きく跳ねたのを覚えている。急激に上がる体温。彼女の顔が赤いのもきっと、夕日のせいではないのだろう。あぁ………もう何なんだよ、今日は。


「照れてる?」


「………うっさい。帰るぞ。」


 つい、そう言い返した。顔を見られたくはないため、彼女を先導する。色々と謎は残った………それでも………この結末ならいいのかもしれない。

 ただ、僕はなにも知らなかったのだ。この先のことなど。本当のことなど。

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