第12話 友達

 トイレに入り、ストレスごと今朝食べたトーストを吐き出す。やっぱり無理なことはしない方がいいな。そう思いながら、ボロボロと涙を溢す。呼吸が乱れ、変に声が出そうである。でも、悟られるわけにはいかない。私はただ、元気な女の子を演じていればいい。それだけでいい。

 一度呼吸を落ち着かせた。吐瀉物を流し俯く。嗚呼、私の人生はどこで………いいや、最初からだ。

 私の人生で本当に友達と呼べるような人はもう居ない。あぁあ、どうしようか。

 辛い、苦しい………私は昔からこうだ。友達を作るのが苦手なのだ。でも、独りはもっと嫌だから………頑張らなきゃいけないのに………頑張れるのかな………。

 不意に思い浮かんだのは蓮くんと六花ちゃんの顔だった。あぁ、そうだよね。2人はちゃんと友達だから。大丈夫。きっと、大丈夫。 でいればいいだけの話だから………大丈夫。


「大丈夫………。」


 そう呟いた。悟られないように、掠れて震えたその声で。私は元気な女の子。元気な一之瀬 真矢。誰とでも仲良くできて、友達もたくさんいる………もうひとりぼっちでもなんでもないよ?大丈夫だよ?


「ぁ………。」


 言い聞かせたところで、喉の痛みは収まらない。不快感がさらに私の涙腺を壊す。溜め込んでいたものを全て洗い流すように………いつものように。


「そう言えば、前蓮くんとお昼食べた時は悪いことしちゃったな………。」


 あのあと、私は吐いてしまっていたのだ。最初は嬉しかった。あの蓮くんの優しさが。どこか懐かしかった。だから、無理してでも笑顔を振り撒いた。あの日………完全に私は浮かれていた。夢にまで描いたあの『青春』という情景………蓮くんの目に私はどう写ったのだろう。


「完璧な笑顔だったでしょ?」


 返ってこない………当たり前だ。問いかけの本人はここには居ない。あぁ………。


「よし………。」


 パチンと頬を叩く。そうして、鍵を開けそこを後にした。

 教室までの道のり。いつもの癖で足取りだけが軽くなる。心だけが枷に阻まれたように締め付けられていく。それでも私は、一之瀬 真矢の仮面を着けてその見慣れた後ろ姿に向かい、いつものように元気よく挨拶を―――――。


「おはよう、六花。」


「おはよう、蓮。」


 嗚呼、粟垣さんの顔………見たこと無いくらいに穏やか。藤堂くんも………こんな風に笑うんだ。


「おっはよー!蓮くん、六花ちゃん!」


「おう、おはよ。」


「おはよう。」


 そうだよ。2人とも友達だよ。いつもの2人だからこれでいいんだよ。

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