第11話 距離感
朝、学校に着くと「おはよう」と声をかけられた。
「おはよう。珍しいな、六花。」
いつもは逆だ。僕から話しかけている。まぁ、昨日の今日だからな。
「ちょっとは素直にってもいいかなって………。」
「なんだそりゃ。」
「こっちの話。」
「そっか。」
そこまでは言及するつもりなど無い。だから、そう言ってそれ以上は突っ込まなかった。まぁそれに………。
「おっはよー!蓮くん!六花ちゃん!」
別の奴が突っ込んでくるだろうからな………今日もこの人は元気だな。と、率直な感想を抱く。その元気の源は一体どこからなのだろうか、教えてほしい。
「おはよ、一之瀬さん。」
僕も六花も、そんな風に返した。不意に呼んだその一之瀬という名前。だが、少しお気に召さなかったようで………。
「もー!前々から言ってるでしょ?真矢って呼んで!」
と、見た目相応の反応であった。確かに僕は真矢と呼んだことはない。六花も確か、一之瀬さんと呼んでいた。というか………冷静に一之瀬さんと誰かが話してるのを見たことがない気がする………まぁ、この距離の詰め方はな………。
とまあ、冷静に考えるのはここまでにして本人からそう呼んでほしいと言われるのであればまぁ、そうしようか。
「解ったよ、真矢。」
そう答えるとその純粋な目を輝かせながらこちらを見つめるもんだから………本当に見た目相応だなと思ってしまった。
が、それも本の一瞬。次の瞬間には冷気が立ち込める。
「一之瀬さん?そろそろ席に戻っては?」
あの、六花さん?その殺気はなんです?
「えー、まだまだ時間あるよ!」
あの、一之瀬さん。この状況の六花にだけは逆らわない方がいいと思うんですけど?
「そうですか。では自主勉強でもしていてはいかがでしょう?」
「それはつまんないな。」
完全に………修羅場。何が嫌ってこの渦中に僕が居ることである。クラスの視線も大半がここに集まってきている。あぁ………辛い。
「つまんないとかではなく、もう少し時間を有意義に使ってみては?」
「十分有意義だよ!」
両者一歩も引かない………六花も完全にヒートアップしている。何が嫌ってこれを止めれるのが多分僕しかいないことだ。
「あの………お二方。」
「「何!?」」
双方からの別ベクトルの圧に押し潰されそうである………だが、僕が言わねばどうにもなるまい。
「………もう少し、冷静になっては頂けまいか。」
「………なに、その口調………。」
と、六花から冷静な突っ込みを頂いたところで、何とかこの修羅場を脱することはできた。だがまあ、一之瀬さんはすごいな。あの状態の六花に怖じけないとは………話に聞くと虐めすらも返り討ちにしたそうだが。
さて、まぁその後の話ではあるが。僕は一部男子から英雄と呼ばれた。それほどまでに六花を恐れる意味も、僕としてはあまり解らないのだが………まぁあの視線は確かに怖い。誰かが、熊さえも怯えて逃げ出すほどの眼力だと揶揄していたがそれ程までに恐れるものなのだろうか………それとも、あの笑顔を向けてくれるのは本当に僕だけなのだろうか。
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