第7話 六花の部屋にて その1

 バタンと閉じる扉。そして私は制服のままパタンとベッドに倒れ込む。


「あー…。」


 訳もなく、枕に顔を埋め発声。現在虚無である。それもこれも全部一之瀬さんのせいである。蓮だってそうだ。あんなに楽しそうに一之瀬さんと………いやいやだからなんだと言うのだ。


「はぁ………蓮と一之瀬さんか………うん、無いな。」


 勝手ではあるが、あの2人の付き合っている姿を想像してそう呟いた。いやまあ、決してまだ好きと言うわけではないが………なんかこう、モヤモヤとするのも確かだ。


「いや好きな訳じゃないんだけどね。」


 なんて独り言を言う。そう、好きなわけでは無いのだ。無いはずなのだ。もう3年も経っているわけだし、それに酷いフラれかたをしたのだ。だこら好きなはず無いのだ。


「………今の蓮ってどういう人が好きなのかな………。」


 ふと呟いた。3年前………蓮は新川さんのどこに惹かれたのだろう?いやまあ、解ってる。あの底無しの優しさに惹かれたのだろう。私とは全く違う、あの優しさに。お陰さまでこっちは徹底的なまでに嫌なキャラ付けをしなくなったけどね。あの事を忘れるためなら、仕方ないことなのだ。


「まぁ私みたいな人は嫌いだろうな………重いし。」


「体重の話?ってか何、さっきから。」


はる!?いつからそこに居たの!?」


「今の蓮ってどういう人が好きなのかな?のところから。」


 その瞬間、顔が赤くなるのを感じた。熱い………。


「てか、蓮って蓮にいちゃんのこと?こっちの方来た―――――。」


「馬鹿!!うっさい!!変態!!勝手に入って来ないでよ!!」


 そう言って、私は陽を無理やり追い出してドアを閉めた。静寂の後、陽の声が響く。


「………思春期の男子じゃあるまいし。ご飯できてるってよ。」


「解ったから!もう解ったから!!」


 ゼーハーと肩で息をする………なんか凄く疲れた。絶対弟に見てほしくない場面を見られた………あぁもう本当になんであいつはこんなにタイミングが悪いかな………本当にもう恥ずかしい。


「ご飯できてるって言われても………行きたくないな………。」


 絶対に無理だ………あぁもう何もなかったふりしたいな………。


「なんで私こんなに恥ずかしがってんだろ………。」


 恥ずかしがることなんて無い………と思うのだ。だって全部終わったことであり、私と蓮との関係性は知り合い程度。蓮が誰を好きになろうが構わない。そのはずなのに心臓は跳ね、顔からは火を吹きそうになっているのである。


「いやいや………ないない。」


 またそんな風に独り言。なんのためにこんなキャラになったと思ってるんだか。忘れたいのに………蓮のあの日の姿が忘れさせてくれないわけで。


「そうだ!全部蓮が悪いんだ!!私は悪くないもん!!」


「女々しいよ。早く行こ?」


 扉の向こうからそんな声が聞こえてきた。


「なんでまだ居んのよ!!」


 と、そう叫ぶのだった。

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