第6話 青春
「ねぇ、蓮くん。」
お昼休憩。相も変わらずマイペースなそいつは僕に話しかける。教室には僕と六花、一之瀬さんのほかに、僅かに他の人も居る。
「どうした?」
ぶっきらぼうにそう返す。いや、まぁ話しかけてくれること自体は嬉しいのだが距離感をもう少し保ってほしくもあるのだ。
「お昼、一緒に食べない?私、蓮くんのこともっと知りたい!」
これを素で言える人はなかなか居ないだろう。とまあ、そんな誘いではあるがどうしようか。断る理由もないしな。
「まぁ、いいよ。」
「やった!じゃあこっちきて。」
そう言うと、一之瀬さんは僕の手を掴み引っ張る。横目に六花の姿をとらえた。僅かだがその冷ややかな目を覚えている。
昼休みの喧騒と、風切り音を聞きながらされるがままに僕は廊下を走る。ふと振り返った一之瀬さんの悪戯な笑顔が突き刺さる。
階段を駆け上がり、やがて大きな扉にぶち当たった。そして一之瀬さんはその小さな体駆を必死に使い、その扉を開け放った。
「ここは………。」
「屋上だよ。やっぱり青春といったらここでしょ。」
日の光を背に受けながら笑う彼女は眩しく、感動にも似たものを覚えた。
「………珍しいな。今時屋上使える学校なんて。」
「だよね。まぁ、やれるうちに青春しなきゃ損だよ。」
ごもっともである。まぁ、ここまであからさまにされると少し照れ臭いのも事実であるが。それでも僕の気分が高揚していることに間違いはない。
屋上からの景色………空を見上げると飛行機雲が一筋………なんとも平和である。そして視線を落とし、自分の弁当に目をやる。対する一之瀬さんはガサゴソとなにかを取り出していた。
「え?お昼それだけか?」
手に持っていたのは、小さな菓子パン。流石にどうなのだろうか。
「うん。」
「持つのか?それ?」
「持たないけど………まぁこれもダイエットみたいなもんだよ!」
「馬鹿か。倒れるぞ。」
「え!?それは困る!!」
この人栄養とか知らなさそう。
「………はぁ、僕のでよければ食べるか?まだ手は付けてないし。」
「え、いいの?でも、蓮くんは………?」
「まあ、大丈夫だろ。」
「えぇ………それはなんかやだ。」
「なんかやだってなんだよ。」
「だって私ばっかりズルいじゃん?」
「ズルいとかそう言うのじゃない気がする。僕は大丈夫だって。」
「うぅ………そう言うなら、いただきます………。」
「素直でよろしい。」
そうして、僕はお昼を食べない選択肢をとったのだが………まぁ不正解だったと言える。如何せんこの一之瀬さんのリアクションがまあ幸せそうなことこの上ない。故に、よけいにお腹が減ってくる。
「ごちそうさまです、本当にありがとうございます!」
弁当を完食した彼女はそう言った。不思議な人ではあるけど………やっぱり素直なんだよな。
「優しい人なんだね、蓮くんは。」
「そう言う訳じゃないよ。ただ、そうしたかっただけだから。」
「それを優しいって言うんじゃないの?」
「多分、違う。」
「なにそれ。」
「さぁ?」
僕だってよく解ってない。ただ、そう言う人間ってだけなのだ。
そうして、教室へと戻る。例のごとくフラッと一之瀬さんはどこかに消えて言った。不思議な人だ………。
教室の扉を空けると、六花だけが居た。その机の上には先ほどまで無かった惣菜パンがあった。
「お帰り。楽しかった?」
「その聞き方、悪意しかないな。まぁ、楽しかったよ。」
「それじゃ、はいこれ。」
そうして、そのパンを僕に手渡した。
「?」
「一之瀬さんといっしょだったんでしょ?どうせ蓮のことだからお弁当あげちゃったんじゃない?」
「………すげぇな。」
「幼馴染み、舐めないでよね。あと、これで貸し一個だから。」
ぶっきらぼうにそう言う六花。
「あぁ、本当にありがとう。」
そう言って僕は、それを一口かじる。あぁ、うまいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます