第5話 あの日の告白
思い出すのは3年前の日。その夏の最後は………砕かれた僕の恋情が彩っている。
そりゃあ六花のことが嫌いだったと言うわけではない。ただ、僕はあの新川に惹かれてしまったのだ。如何せん、それまで六花とは何事もなく付き合ってきた幼馴染みである。まさか、あのように思われていたなんて僕は夢にも見なかった。
だから、別れ際のあの日の六花の告白に僕は戸惑い、そして嘘を付いた。今でも時おり思い出す。夏の20時。まだほんのりと、日の名残がある時間帯。近所の公園に僕は呼び出された。
『ずっと………蓮のことが好きだった………だから正直に答えて。私と新川さん、どっちが好きなの?』
そう問いかける少女の瞳は酷く真剣で、思えばあの時既に僕の気持ちを察していたのではないかと思う。
あぁあ、最低な人だよな。嘘付いてその挙げ句、新川にもフラれてさ………それでおしまい。中学2年の夏は、僕の青春の全てだったと言える。そんな夢想もその一言で絶たれた。
「蓮くん!思い出した!!」
全く………自由な奴だ。いつのまにか現れ、ふとどこかに消えていく。一之瀬さんを本当に操れる人など居るのだろうか?そう思ってしまう。
「お、おう、どうしたんだ?」
「蓮くんってどうしてここにきたの?」
「あぁ、それか。ちょっと妹がな………。」
僕の妹、藤堂 千咲。現在訳あって入院中である。
「妹?」
「あぁ、ちょっと病気でこっちの方に入院することになってな。それで近くに住んだ方が都合がいいと思ってな。今は親戚の家に住ませてもらってる。」
「大変なんだね。」
「まぁ、苦だとは思ってないけどな。」
「妹ちゃん、名前は何て言うの?」
「あぁ、千咲だよ。」
「よくなるといいね!」
「あぁ。」
それだけを返す。本当に自由な奴らしく、それだけ言ってまた人混みの中へと消えていった。本当になんなんだか。
「千咲ちゃん、大丈夫なの?」
しばらくたたず、隣から声が聞こえる。目を会わせずに僕たちは会話を続ける。
「大丈夫と言えばまぁ大丈夫だな。」
「パッとしない答えね。」
「そりゃあ、身内なんだ。心配なんだよ。」
「………もしかして昨日倒れたのって………。」
「あぁ、まぁちょっと心配で眠れなかったのもあったかな。」
「そんなに酷いの?」
「いいや。」
「はぁ………相変わらずのシスコンめ。」
「悪いかよ。」
「いいえ。そんなに思われててちょっと羨ましいって思っただけ。」
「………まだ好きなのかよ。僕のこと。」
「………好きじゃないし。」
あぁ、ちゃんと目を見ておくんだった。解らない。
「まぁ心配もほどほどにね。昨日みたいに倒れられても、私は介護できないからね。」
「あぁ、ありがとうな。六花………。」
「………本当、どうしようもないんだから。」
そんな風に叱られる。だけど懐かしくて、心地よかった。
あの日の告白から、僕たちの全てが変わった気がしていたが特段そんなわけでもなかったようである。どうなるかとも思ったがまた友達として六花と………。
『図々しいよ。』
刺されたような衝撃が走る。嗚呼………まぁそうだよな。図々しいよ。僕は。そんなこと、今までのことから解ってる。だと言うのに脳内に響くその声は言った。
『失せて。』
そうだ………あの夏の終わりは、そんな衝撃によって砕かれた僕の恋情によって彩られているのだ。色褪せない映像となって、時折僕を悪戯に啄む。そうしてあの人は僕を嘲るのだった。
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