第4話 わがまま
凍りついた僕と六花。動き出すことは2度と無いのだろうか。都合のいい話ではあるのかもしれないけど、また昔のような笑顔を向けてほしい。そんなことを望みながら、自分の席に着こうとしたそのときである。
「おっはよう!蓮くん!」
馴れ馴れしく僕の名前を呼ぶそんな声が聞こえた。いやいや、僕は知らないぞ?昨日だって午後はほとんど倒れちゃってたし、午前の時もこんな気さくな人はいなかったはずだけど。
「あれ?人違いだった?」
振り返って見ると、そこにいたのはずいぶんと背の低い少女。
「昨日なかなか話しかけられなかったら今日おもっきり話そうと思ってたんだけど………。」
そうは言われても、ハッキリ言って混乱してる。誰だ君は。まず名を名乗りたまえ………。
「えっと、君は………?」
「あぁ、そうだね。私は
あぁ………凄く苦手なタイプだ。パーソナルスペースと言うものをご存じないのか?土足で上がってこようとするんじゃないよ。
「え、えっと………。」
などとうろたえていた時である。
「はぁ………藤堂くんが困ってるでしょ?」
いつも聞いていた声。だけれど、とても凍てつくようなその声が僕を襲った。助け船は………出してくれるんだ。
「あれ?六花ちゃん、昨日確か蓮くんのこと『蓮』って言ってなかったっけ?」
「言ってない。」
「えぇ、でも私聞いてたよ!」
聞いてたっていったいどこに………あ、あぁ察した。一之瀬さんは背が小さい。多分だが、僕たちから見えなかっただけであってあの場にはいたのだろう。
「はぁ………それはあなたの気のせいです。」
ごり押す気だ。この人。
「えぇ、そうかなぁ………?」
いやいや流石に無理があるって。本人聞いてるし。
「まぁでも、気のせいって言うんだったら気のせいか!」
あぁ、絶望的な馬鹿で助かった。六花は………多分扱いなれているんだろうな。ともかく、一旦はこの絶望的な空気から抜け出すことはできたわけだ。
「さてと、それじゃあ蓮くん!」
「は、はい。」
「………なに話そうとしたんだっけ?」
嗚呼、本当に絶望的だ。
「まぁいっか。思い出したらまた来るね!」
「お、おう………。」
なんか、嵐みたいな人だな。そう思いつつ、僕は六花の隣に座った。
「あの………ありがとうな。」
「なんのことです?」
冷たく、敬語であしらわれた。あぁ、もうそう言うことなのだろう。僕と六花はもう、もとのようには戻れない。だから僕のことを『藤堂くん』と呼んだのだ。
そりゃあ寂しいが………全て自分の撒いた種であり、こうなるのは当たり前。むしろ、これで昔のように接してくれと言うのは恐らく虫のいい話だろう。
「悪い、なんでもない。粟垣さん。」
だから僕はそう言った。だと言うのに………僕の袖は捕まれていた。その事に気がついて、そちらを向く。
「ごめん………やっぱこれ無理。無しで。」
そんな………わがままを言う六花の顔は本当に辛そうで、恥ずかしそうで………こんな最悪な僕だが可愛いと思ってしまった。
あぁ、当面あの時のことは言えそうもないな。
「了解。六花。」
そう言うと、六花は僕に微笑んだ。 嗚呼、ただでさえ千咲のことでてんやわんやなのに………なに考えてんだろうな。僕は………そうして思い出すのは3年前の日々であった。
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