本編続編────第24話 反撃の狼煙
「キャンディ王女を白殿のところへ」
コランが背中越しに指示をする。
「大丈夫ですか」
エリアスの問いに、コランが笑った気配がした。
金色の髪が揺れる。
「騎士たちもいる、君の仲間も。私だって、時間かせぎくらいはするよ」
「わかりました。すぐに、戻ります」
そう言って、エリアスがキャンディ────人形と共に姿を消した。
コランは、目の前の鴉に問いかける。
「さて。そんなに簡単に口封じが出来ると? ずいぶん、なめられたものだな」
すっと、コランの左右に人影が出てきた。
右には、第一師団長のトールが。
燃えるような赤い短髪が人の目を引く。鎧の色も髪と同じ赤だ。
冬が近いというのに、半袖の服からのびるたくましい腕は素肌のままだ。
彼はその豪胆な性格から、細やかな計略よりも、力で解決する方法を好む男だった。
「俺たちの出番かな?」
左には、第三師団長のヴェル。今回の編成において、魔道士団は第三師団として組み込まれていた。この場においては実質の魔道士団のトップだ。
「わが国に手を出したらどうなるのか覚えていただきましょうか」
鴉はあざけるように笑う。
「戦力はそれだけか? 最強と名高いヘルン殿が負傷されたと聞いたが」
「姉は、大事ありませんよ。彼女が出るまでもないという事です」
「ふん。下っ端と、大した魔力もない貧弱と噂の王子だけとは、こいつの実験にもならんな」
フォン!
鴉の後ろに、黒い鎧をつけた兵士が現れた。
フォン────フォン────
ひとり、またひとりと、増えていく。
鴉は得意気に言い放った。
「帝国の技術の粋を集めた、黒騎士のな」
対岸で、魔道士たちが慌ただしく動いている。
あちらの兵を順々に転移させるつもりか。
「転移を阻止しますか」
ヴェルの言葉に、コランは待ったをかけた。
「いや、待ってやれ」
不敵に笑って、王子は告げる。
青い瞳が、敵兵を見据えていた。
「二度と手を出そうと思えないように、圧倒的に退けてやろうじゃないか」
魔力阻害と聞いた時から、考えていた事があった。
その手があったかと。
帝国がどういう仕掛けで魔力を阻害しているのか知らないが、それはコランにもできることであった。
こちらこそ、実験台になってもらおうじゃないか。
「誇り高き帝国の兵士たちよ! 我が娘を死に追いやった中央国メソンの王子を血祭りにあげてやれ!」
「いやいや、娘殺したのアンタだろ」
と、トール。
「何年も王座にしがみつきすぎてボケてるんですよ」
と、ヴェル。
当のコランはというと、黒騎士の様子をしげしげと眺めていた。
どうも、敵兵に感情が感じられない。
まるで機械仕掛けの人形のようだ。
昂りも、恐怖も、何の感情もなく立っている。
鴉────皇帝の口上すら、聞いているのかいないのか。
あれは、真実、人間なのだろうか。
果たして丸ごと消し去っても良いものかと、考えあぐねていた。
殲滅するのは簡単だが、失った命は戻らないから。
「いけ」
皇帝のその一言が開戦の合図になった。
一歩、また一歩と、黒騎士の隊列が進んでくる。
作り物のように一糸乱れぬ進軍が、とても不気味だ。
「どうするよ、大将」
「
「私がやる。トールはサポートを頼む。ヴェルはもし逃げる者がいれば捕縛を頼む」
「了解」
「承知しました」
コランは自ら剣を抜き、打って出た。
トール率いる第一、第二師団の兵士が後に続く。
あちこちで剣を交わす音がする。
黒騎士たちの剣を捌きながら、コランは兜の奥の表情を拾おうとしていた。
まずは、観察だ。
もし人間としての感情を残しているのならば、全てを消しさるのは忍びないと思うくらいの気持ちはコランにもあった。
しかし、わが子ですら使い捨てるような皇帝だ。
実験と称して兵に何かを施したのであれば、もうもとには戻らないかもしれない。
痛みも感じず安らかに眠らせてやるべきか。
前後左右から迫る黒騎士と剣戟を交わしながら。
そう、逡巡、していたのだが。
どうやら皇帝の目には、コランが必死で奮闘しているように映ったらしい。
満足げに眺めている。
他国から軽んじて見られるように長年振る舞ってきたのは自分だが、ここまで役立たずだと思われているとなると、少し驚かしてやりたくもなる。
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